無関係転生者君はマジパネェっす
それから、フレスト公爵家に入るまでの数日。
私とシュン(恋人(仮)だからね。呼び捨てにするようにしたよ)は作戦会議と称して、何度か会った。
まぁ、情報交換会って言えばいいかな?
結論。
シュンさん、マジパネェっす。
「おぉぉぉぉう……ハード……シュンの人生、ベリーハードォォォォ……‼︎」
私は頭を抱えて、呻く。
いや、だって……シュンの人生凄いんだよ?
前世の記憶が戻った時には浮浪児で。
ひもじい思いをしながら、泥水を啜りながら生きて。
たまったま、存在感が薄かったから……奴隷として捕まることもなく。
それどころか浮浪児を教育し、諜報員として働かせる諜報部に拾われるとか……どこのスパイ映画ですか‼︎
アレですか‼︎ 浮浪児だったから、身分がないからスパイに適材って感じかよ‼︎
「…………というか……これ、私が聞いて大丈夫だったの……? 殺されない……?」
こういうのって知った人間を口封じするとかあるよね……?
私の不安を察したのか、シュンは薄ら寒い笑みを浮かべて答えた。
「あははっ、死ぬ時は死ぬから」
「ヒィッ……⁉︎」
ガタリッと思わず後ずさる。
だけど、シュンはケラケラと笑いながら、手を振った。
「嘘、嘘。殺されないって。だって、今回の件、国王陛下にも報告してあるし」
「…………え?」
「考えてみろよ」
「…………何、を?」
「未来の王太子妃の侍女になるってなったら、身辺調査ぐらいされると思わないか?」
「……………………」
「害そうとされても困るし」
そう言われて私は黙り込む。
…………確かに、物語とかだと王太子の婚約者にも護衛? 影? が付いてることも多いもんね……。
「だから、アルティナ様の侍女になるお前の新たな情報……転生者であることも報告した。加えて、お前が殿下とアルティナ様との仲を取り持とうと動こうとしていることも。で……結果として、それは許された」
「…………ドユコト?」
「つまり、国王陛下も二人のギスギス感を憂いていて。それを解決しようと動くお前を、認めてくれるってこと」
「????」
「(……察しろよ)……はぁ。だからな? 二人の仲を取り持とうと動こうとしてたとしても、不審な動きだと判断される可能性があるだろ? それこそ、殿下を堕としていると思われるかもしれない。困ってる異性の相談役から、そっちの関係に繋がることはよくある話だからな」
……アレか。
恋人の友人に、恋人との関係を相談したら……その友人と親しくなっちゃって、懇ろになっちゃうヤツ。
「だから、そうなる前に護衛とかにお前が排除されるかもしれないだろ?」
…………つまり。
私が殿下とアルティナ様の仲を取り持とうと動くことを……他の人が知らなかったら。
私が相談役として寄り添い、そっから運良くにゃんにゃんな関係に……殿下を堕とそうとしている風に思われるかもしれないと。
何も知らない人から見たら、変な解釈されるかもしれなくて。
最悪な展開になる前に、私が偉い人の判断で排除される可能性があったから……シュンが事前にお偉いさん方に私が二人の仲を取り持とうと動きますよと、報告してくれた……と。
「……………(顔面蒼白)」
「やっと意味が分かったか? 下手に動いてたら、逆に危なかったかもしれないんだからな? 自分が思って動いている姿と、他人が見ている姿は違うんだから」
「あ、ありがとう……ございます……シュン様……」
「本当にそれな。一応、陛下は下手に関わって余計に拗らせたくないからと静観の構えだが……できれば、殿下とアルティナ様の関係を結び直して欲しいってさ」
「よ、要約するとっ……⁉︎」
「…………(こいつ、阿呆の子だ……)つまり、思う存分、殿下とアルティナ様の仲を結び直せ」
「ラ、ラジャー‼︎」
私はピシッと敬礼する。
シュンは呆れたように溜息を吐くと、トントンっとテーブルを指先で突きながら……呟いた。
「…………はぁ……とにかく。最初に言ってるが、転生したことやらゲームのことを伝えるやらは好きにしろ。人的被害が出ない限りは協力してやる」
「おーいえす‼︎」
「………(なんだろ……心配になってきた……)」
その時の私は、アルティナ様に真実を伝えることに緊張していて……シュンがすっごい心配した顔で見ていることに気づかなかった……。
そして、数日後…………。
カフェには撃沈する私と、呆れた目で見るシュンがいました。
「うぅっ……うぅぅぅ……」
「その感じだと失敗した感じか」
「し、信じてもらえなかったぁっ……‼︎」
何も隠さずに全部を伝えた。
だけど、アルティナ様は怪訝な顔をしているだけで。
それどころか〝自分の意見を他人に押し付けるのは、止めて頂戴。わたくしは貴女の望むように動く人形ではないの〟なんて言われちゃって。
もう、どうしろとっ⁉︎
「まぁ、出会って幾ばくもない奴にそんなこと言われたって信じられないよな」
「なんでっ⁉︎」
「じゃあ聞くけど。お前、あって数日の人から前世の記憶がありますって言われて信じられる」
「無理っす」
「それ、アルティナ様も同じだから」
「…………あぁぁぁぁぁぁ……」
思わず髪の毛を掻き毟る。
シュンはそんな私を呆れた目で見ながら、こつんっと軽く頭を拳で叩いた。
「んで? どーすんの? 二人の仲を取り持つの、諦める?」
「諦めるかぁ‼︎」
「なら、頑張れよ」
……穏やかな声に、ゆっくりと顔を上げる。
頬杖をついて、クスクスと呆れたように笑うその顔は……なんだか、優しい感じがして。
何故か分からないけど、その顔にドクッと胸が強く鳴る。
「……………?」
私は、なんで胸が鳴ったのかが分からなくて……無意識に首を傾げた……。




