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ヒロインの雑説明と、巻き込まれる無関係転生者君

 







 さて、再度記憶を整理。




 私の名前はステラ。

 レート準男爵家の娘で……数日後、侍女としてフレスト公爵家に奉公に入る(←どうやって侍女として働くことになったとかはご都合主義だろーから、詳しいことは分かりません。お父さんにフレスト公爵家の侍女になりなさいと言われました)。

 だけど、前世の記憶を持っている。転生者というヤツだ。

 まぁ、どうせテンプレだから説明は以下略。

 え? ちゃんと説明しろ?

 逆に異世界転生で調べて。全部出るから。もう何番煎じネタだから。


 えっと……色々省いて。



 乙女ゲームなう。








「…………それで説明が成り立っちゃうという現状な……」


 隣の席に座った地味青年君ことシュン君(前世っぽい名前だよね)は呆れたように呟く。

 カフェに入った私達は、互いの状況を説明し合うことにした。

 私の説明は乙女ゲーム転生だよってことで終わっちゃって。

 シュン君としては、転生は転生でも異世界転生ってことしか分かってなかったらしい。


「異世界転生もテンプレだが……乙女ゲーム転生もテンプレだよな」

「それなー。ちなみに私がヒロイン様だよ‼︎」

「こんなヒロイン嫌だ」

「酷くないっ⁉︎ 可愛いでしょ⁉︎」

「見た目が良くても、中身が残念だろ」


 …………いや、前世の記憶が混ざって残念になったと思って欲しい。

 記憶を戻す前はそこそこ普通な性格の美少女だったよ?

 …………多分。


「で? ヒロインってことはこれから色々あんだろ。ざまぁされんの?」

「いやいや‼︎ ざまぁとかされたくないし、それどころか悪役令嬢を幸せにしたいぐらいだからねっ⁉︎」

「あ、そっちのパターン?」


 確かに私は乙女ゲームのヒロインに転生した。

 どこかの貴族令嬢として学園に入学するんじゃなくて、悪役令嬢の侍女がヒロインっていう少し斜め上な設定だけど……。

 私の目的は悪役令嬢を幸せにすること‼︎



 何故なら悪役令嬢ことアルティナ様は私の最推しだからっっっ‼︎



「だって……だって考えてよ‼︎ アルティナ様はめっさ美人でっせ⁉︎ 美しい青髪に白銀の瞳っ……白磁の肌と王太子()に寄り添うのに相応しいようにと夜空色のドレスを纏うとか……エモい‼︎」

「いや、ちょっと待て‼︎ 悪役令嬢はアルティナ様なのかっ⁉︎」

「王太子の婚約者が悪役令嬢なのはテンプレでしょっ⁉︎ まぁ、とにかく‼︎ 婚約者のために勉学に励み、未来の王太子妃として頑張ってきたのにっ……なんであんな身の程知らず(ヒロイン)を選んだんだぁ、王太子バカチンがぁぁあっ‼︎ 最後の断罪シーンの〝貴方が好きでした〟って言いながら儚く笑うスチルは本気で泣いたから‼︎ いっそ、あいつの代わりに私がアルティナ様を幸せにしたい‼︎ 拉致ってでも幸せにしたいっ‼︎」

「…………やっべぇ……こいつ、マジでやべぇ……」


 ちょっと熱弁してた私は、その時のシュンがヤバい人を見る目で見ていたことに気づきませんでした(後日、教えられました)。


「まぁ、とにかく‼︎ ここで会ったが百年目‼︎」

「それ、使い時が違う」

「君も巻き込み事故だぜっ、シュン君っ♡」

「さよなら」

「逃がさないよ‼︎」


 逃げようとするシュンの腕を掴み、私は腕を抱き締める。

 ハッ……なんのために隣に座ったと思ってるんだ‼︎

 逃がさないためだよ⁉︎(←こういう知恵だけはある)


「クソッ……‼︎ 離せっ……‼︎」

「いやっ‼︎」

「テメェっ……‼︎」


 ザワザワ……。

 ほんの少しザワつき始めた店内。

 客数は少ないけど、こちらを見る人々がチラホラ。

 …………まぁ、美少女ヒロインが騒いでたら目立つよね。

 私はニコッと笑いながら、周りの人へと声をかけた。


「ごめんなさい〜。ダーリンとの痴話喧嘩だから、気にしないでください〜」

「はぁっ⁉︎」

「あまり騒がない方がいいよ。君、存在感薄いけど……ヒロイン()といたら目立つから」

「っっ……‼︎」


 コソッと呟けばシュン君は大人しく、黙り込む。

 そして、呆れた……というか、すっごい疲れきった顔で溜息を零した。


「…………はぁ……クソだよ、お前……」

「ふふんっ。なんとでも言えばいいよ。アルティナ様のためならば、例え火の中水の中ってね」

「…………えぇぇぇ……なんで他人であるお前がアルティナ様のためにそこまで……」

「最推しだから。ただそれだけだよ。という訳で、これからの作戦考えるぞ〜」


 もう私には勝てないと悟ったのか、シュン君は大人しく話を聞くスタイルになる。

 私は一応、乙女ゲームの情報を話し始めた。

 まぁ、話も何も……。


 高位の王侯貴族と仲良くなる。

 ↓

 悪役令嬢に嫌われる。

 ↓

 悪役令嬢断罪

 ↓

 ヒロインは王子様と結ばれてハッピーエンド。


 でも、ファンブックを読んだ私は知っている。



 ……………悪役令嬢と王太子殿下って、両片想いなんだよね。



 でも、その両片想い期間にヒロインが介入しちゃった所為で、王太子殿下はヒロインに傾いちゃう。

 マジでなんだよ、ヒロイン。いや、私だけど‼︎

 両片想いの二人を引き裂くとかっ……お前の方が悪役だよ‼︎

 …………ゴホンゴホンッ。

 少し荒ぶっちゃって、我を忘れかけちゃったよ。

 まぁ、とにかく。

 アルティナ様を幸せにするなら……その傾けるような要素がなければいい。

 いや、アルティナ様が王太子が好きなら……その拗れちゃった両片想いを解消してやればいい。


「じゃあ、お前が物理的に消えるの?」

「物理的に消えるって言い方怖くないっ⁉︎ いや……奉公に入るのは決まってるし、ドタキャンしたら家に迷惑かかるから……いっそのこと、ぶっちゃけちゃおうかなって」

「ぶっちゃける?」

「転生者であること。乙女ゲームのこと。アルティナ様と殿下が両想いだってこと」

「ふぅん? 別にいいんじゃない?」


 私はシュン君の言葉に目を見開く。

 いや、予想以上に簡単に言ってくれるね?

 シュン君は私の驚きを察したのか怪訝な顔になる。

 そして、嫌そうに質問した。


「何」

「いや……簡単に言うから……」

「俺、関係ないし」

「いやいや。関係あるよ?」

「ないです」

「あります。シュン君には私の恋人(仮)になってもらうから」

「はぁっ⁉︎」


 シュン君はギョッとした顔で叫ぶ。

 でも、周りの視線が気になったのか……ゴホンッと少しワザとらしい咳払いをした。


「なんでだよ」

「話聞いてたでしょ? 傾く要素がなければいいって‼︎」

「だから?」

「だから、私に恋人(仮)がいれば……ヒロイン()が他の男性と親しくならないと思わない?」

「…………はぁ……」


 シュン君は馬鹿な子を見るみたいな目で私を見つめる。

 いや、なんやねん。その顔……。


「馬鹿じゃね? 恋人がいても浮気とかあんじゃん」

「二股とかいけないと思う。というか、二股とか無理」

「ゲームの強制力とかあんじゃん」

「あるかもしれないけどっ‼︎ でもっ、アルティナ様の幸せにするために……不安要素は出来る限り排除したいの‼︎」

「…………なんでアルティナ様のために、そこまで出来るのかなぁ……」

「だから、アルティナ様は最推しで……」

「それだけじゃないだろ」


 真っ直ぐと見つめる真剣な瞳に、私は言葉を詰まらせる。

 本当は、最推しだからって理由だけじゃないのが……分かってるんだね。

 ここまでするのは変だって。

 …………私がここまでするのは。



「…………よくあるパターンだよ。病弱娘の心の拠り所がゲームだったってだけ。これ以上、言う必要ある?」



 真っ白い部屋の中。

 つまらない日々を彩ってくれたのが、ゲームだった。

 アルティナというキャラクターだった。

 ゲームだと言われたら、それまでだけど……でも、本当に好きだったの。

 どこにでもあるような話だとも思う。

 でも、あんなは日々をこれ以上は語りたくないから……。


「………………はぁ……」


 シュン君は大きな溜息を零す。

 そして、ぐわしっと私の頭を勢いよく掴み上げ、まるで男の子にするみたいに乱暴に撫でた。


「貸し一な。同郷だから、協力してやるだけだから」

「……………ありがとう……」

「どう致しまして。取り敢えず、関わるにはこちらでも色々と上に報告させてもらうが……文句言うなよ?」

「………ん? うん……?」


 ちょっと意味が分からなくて首を傾げる。

 すると……シュン君はニヤリと笑って、衝撃事実を告げた。



「良かったなぁ? お前が協力を頼んだ男は、ルナリス王国所属の諜報員だ。情報を集めることに関してだけは、安心してくれていいぜ?」



「………………なんですとぅ?」


 思わず真顔になったけど、シュン君はにっこりと笑うだけでそれ以上何も言いませんでした。





 ……………どうやら、巻き込んだ無関係転生者君は、予想以上にヤバい人材だったようです。









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