08.最果ての街ベリドット
ベリドットは鉱石の街。
本来、鉱石はその地に堆積した成分が固まり出来上がるものだが、
魔力や魔原子などが集まると、それは魔石となる。
元々は特段何もない街であったが、
ある時に、1匹の魔物がそこに住み着いた。
住民たちは最初こそ、街を守るために魔物と戦ったが、
いつしか、その魔物を神と称え崇めることにした。
神と呼んだこともあながち間違いではなかったのだろう。
その魔物には知恵があり、人の言葉を理解した。
人が自分に降伏したこと、自分を崇め、敬う気持ちを理解していた。
10年、20年経ち、その人間たちの信仰が仮初めのものではないと気付いた時、
その魔物はいつしか人間を隣人であると認めていた。
外敵から街を守り、そして人間は食べ物などを捧げ、
街は更に発展していくこととなる。
そして魔物が巣を作ったカリカルチュア山には、豊富な魔素が溢れ、
いつしか魔石の産出地として有名になっていくのだった。
そして、その魔物こそが魔鳥ベリドット。
街の守神であり、人間を護る存在である。
「…ようやく着いた」
力が手に入ったとしても、まだ使いこなせるわけではなく、
魔物に襲われれば、戦うより逃げる選択を選び続けた。
救いだったのは、この英雄の力を得てからというもの、
身体能力が上がった、ように感じる点だ。
魔物の動きが良く視えるようになった。
身体が以前に比べ軽く感じるようになった。
ただ単に、少しだけ魔物に襲われるという異常事態に、
感覚がマヒしてきただけなのかもしれないが。
そうして、あの洞窟を出てから2日ほど歩き続け、
岩場が増えてきたなと思い始めて半日ほどした頃、
山並みにそびえる町を発見したのだった。
空には綺麗な夕焼けが広がっており、
夜の帳がこれから降りてくることを示していた。
暗くなる前に着けたのは僥倖だった。
そうアルシュは安堵する。
この2日も野営を試みたのだが、火も起こせない、
食べ物も飲み物もない。魔物の気配を感じては飛び起きるといった、
全く気も休まらない時間を送るのは、もう体力的に限界だった。
ベリドットには門が存在しない。
門は外敵の侵入を阻むことが一番の目的だと思うが、
つまりはそもそも外敵が少ない土地なのか、あるいは…
「お前さん、旅人かい?」
ふと顔を上げると、人の好さそうな男性が話しかけてきた。
「え、えぇ‥…」
体力的な限界も含め、久しく人と喋っていなかったため、声が掠れる。
「あちらの方角から2日ほど掛けて歩いて…」
そういうと、男性は少し目を丸くしたようだった。
ふーむ、と顎髭をさすりながら口を開く。
「向こうの方って何か街があったっけか。
このベヘリットも最果ての街って有名なんだけどな」
あの洞窟の事を話すかどうか迷ったが、黙っておくことにする。
人為的に作られた場所であるとは思うが、
何の意図で作られ、どうしてあそこに閉じ込められていたのか、
アルシュも全く把握出来ていなかったためだ。
「あの辺りに集落があって、私はそこから…」
言いづらそうにするアルシュを見て、
彼は何かを悟ったのか、少し沈んだような表情を浮かべる。
「…それは大変だったんだな。あんた、今日は宿は?」
「…いえ、まだ何も」
「よし分かった、あんたうちに泊まってけ。
俺はグレイズ、宜しくな!」
はい、ともいいえ、とも言えないまま、グレイズに引きずられていく。
とても強引で、こちらの事情など気にしない人ではあったが、
久しぶりに人の温かさというものに触れた気がした。
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