03.赤い悪魔は死を運ぶ
扉が吹き飛び、鉄格子に当たって破片をまき散らした。
粉塵で入口が見えないが、何か大きなものが動いている気配がする。
呼吸が浅くなる。
心臓が早鐘を打つ。
身体が死の危険を訴えかけている。
あまりに頼りない、黒の剣を握りしめ、
相手の動きを待った。
姿を現したのは、爬虫類と呼ぶにはあまりに体長の大きい、
自分の5倍程はある、恐竜のようなフォルムをした生き物だった。
(…恐竜…?なんだそれは…?)
ぐるぐると忙しなく動く頭とは逆に、身体は固まったまま。
突如吹き飛んできた、鉄格子の破片を避けられたのは奇跡だろう。
全力で横に飛び、ゴロゴロと転がって壁にぶつかる。
顔を上げれば、ひしゃげた鉄格子の向こう側に敵の姿が見える。
唸り声をあげ、涎を垂らす、狩猟者の姿がそこにあった。
ダメだ、どうしようもない。
こんな相手にどうすればいい。
混乱が収まらないうちに、狩猟者は尾を振りかぶり、
鉄格子を破った時のように、勢いよく叩きつけてきた。
(…死ぬ!)
死にたくない一心で、黒い剣を盾代わりに突き出す。
衝突し、鈍い音が響く。
当然のように、勢いを殺しきれずに壁へ叩きつけられた。
ずるずると壁から滑り落ち、剣を刺し何とか倒れることだけを避けた。
意識は既に絶え絶えだ。痛みは感じない。
逆に笑いが漏れてくる。
間違いなく、このまま死ぬ以外の選択肢がない。
このまま倒れてしまえば、爪で切り裂かれるか、噛み砕かれるか、
その辺りが関の山だろう。
逆に心が穏やかになってくる。
死ぬ間際というのは、こういう感じなのだろうか。
ふと、真っ赤な視界に光が飛び込んでくる。
(……羽?)
アルシュの目の前に、純白な羽がふわりと舞い降りる。
無意識に、手を伸ばしていた。
そして、それを掴んだ瞬間。
頭の中で記憶が、映像が、爆発した。