01.白い少女はかく語りて
「…あ、マズいかも」
ここではないどこか、全てが白で染まった空間。
絹のような銀髪を称えた、少女と呼んでも良い風貌の女性は、
彼女の目の前にある、球体を見つめながら独りごちた。
「どうされたんですか?」
傍らにたたずむ、この世界では目立っている黒い物体が言葉を発する。
彼女はビクっと身体を震わすと、目線だけそちらに向けて、
「リソースが足りなくて、転生中に強制終了しちゃった」
白い彼女はあはは、とあまり悪気のないように笑いを零す。
「……ご主人?」
黒い塊がぶわっと毛を逆立てる。正体は猫のようだ。
「…あ、あはは」
彼女は冷や汗を流しながら固まっていたが、
身体ごと黒猫に身体を向けると、キッと目尻を吊り上げ、
「だって!仕方ないじゃない!私だって何日動きっぱなしなのよ!
特にこの世界ってやけに今リソースの減りが速いしさ!
それにずっと掛かり切りだったら集中力だって落ちるじゃん!」
逆ギレにもまったく動じずに、器用に肩をすくめてジト目を向ける。
「休憩してくださいっていったのに休まなかったのご主人でしょ…」
「休憩したらわからなくなるって毎回言ってるでしょ!」
「はいはい…それで、どうするんです?割と重要な案件だったでしょう?
ただでさえ、今回のこの魂は普通の処理じゃいけないって言われてたやつですし」
割と本気のトーンで言われて、うっ、と黙り込む。
口元に手を当てて30秒くらい考え込み、そして口を開いた。
「うーん……ある程度の設定までは終わっていたとは思うけど、
人物のバックボーンに当たるところは未設定のままだったしなぁ。
本来は貴族の三男に記憶を少し変えて生まれ変わるはずだったけど…」
「けど?」
黒猫は小首を傾げて問い返す。
「スタート地点が設定されていないし、人物の設定すら怪しい状態だったし、
このままだとどこの何に魂が引き継がれるかがわからない…のよ」
彼女の徐々に声が小さくなっていく。
割とマズい案件であることだけはわかっているようだ。
「つまり、私たちが意図した通りの転生にはなっていないということですね?」
「うん……そうなる」
それを聞いて、猫とは思えないほどの長い溜息をついた後。
「良いじゃないですか。予定調和は嫌いって言ってたでしょう?
これで多分、あの人たちの考えている通りにはならないはずです。
……ご主人が怒られるだけで済んだら儲けものでしょう」
「そう…そうかしら?大丈夫よね…?」
「えぇ、多分…きっと……恐らくは何とかなるかも…」
「そこはちゃんと慰めてもらってもいいかな」
こうして、彷徨う魂は一つの世界に芽吹くことになる。
このイレギュラーが引き起こしていく事態に、更に冷や汗をかく事態になることはつゆ知らず、
ひっそりと世界が動き出した瞬間であった。
初の作品投稿となります。
ゲームでも、最初からチートで最強!というのが苦手で、
限られた手札や修練した技術を活かして強敵を倒していくのが好きでした。
ないない尽くしの英雄(仮)の主人公が足掻きながら進んでいく物語です。
慣れない文章ではありますが、よろしくお願いします。