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side.C

「…ったく」


走り去っていくあいつの背中を見て呟く。


俺は神だ。いや、自分で神と名乗っているだけで生まれた時から神だったわけじゃない。どこが神だって?

なんと俺は時間を巻き戻せるのだ。すごいだろう?


ある日自分がこの力を使えることに気がついてちょっと使ったら何かもっと上位の神のようなやつから注意をされた。「むやみに過去を変えてはならない」らしい。


正直知ったこっちゃ無いが、タイムパラドックス?みたいな何かで俺が死んでも困るしあまり使わないことにした。いつでも時間を戻せるって分かってればそんなに気持ちが落ち込むこともなかったし。


ちょっと時間を巻き戻すだけを繰り返し、俺はまぁまぁの人生を送っていた。友達にも恵まれ、仕事にも恵まれ。特に不自由することはなかった。


そんな日々を過ごしていた時だった。友達の妻が死んだらしい。それなりに仲のよかったやつだったし、妻の女性も知らないわけじゃなかった。不憫に思った俺はめんどくさいがもう一回楽しい時間を過ごせるように時間を巻き戻してやることにした。ただ問題があった。


時間を巻き戻すだけでは違う未来にはならない。ビデオテープやDVDを戻すだけの話だ。そこに変化がなければ同じ結末になるのは当たり前。しかも俺は神から「むやみに過去を変えてはいけない」と言われている。


どうするか悩んだ俺は少しずつ変化を加えていくことにした。どういう原理かはわからないが、俺と長く過ごしたせいかあいつは時間を戻す前の記憶を少し持って帰れるようだった。夢の中の記憶のように非常に曖昧なものらしいが。だからループの度に刷り込みのように、神に気付かれないくらい小さな変化を加えた。


そんなことをして何回も時間を繰り返した。あいつの背中を見送るのももう7回目だ。きっとあいつはまたあの女性と結ばれるのだろう。


けど6回目でついにバレた。


「次にその力を使ったらお前の存在を抹消する。」


なんとも物騒な話だ。ただ俺の中にはやめるという選択肢はなかった。2回目のループからはあいつと卒業後も付き合った。なんだかんだでもう180年は一緒にいる。俺しか感じてないけど。

そうしたらなんだか情を覚えちまったんだ。きっとあいつみたいな人間がもっと沢山いれば、この世の中はいいものになっていたに違いない。


だから使った。


神は全てを観測できるらしい。普通時間を巻き戻したら俺以外の人間は記憶が消えるのだが、神はそうではなく巻き戻したことも把握できるらしい。全く面倒なやつだ。人一人の命を救ったことでその神のボーダーラインを超えてしまったらしい。


「警告はしたぞ。」


脳裏にそんな声が聞こえてくる。


(あぁ、わかってるよ。)


「警告どおりお前の存在を抹消する。」


(あぁ、ちょうど疲れてたところなんだ。むしろこっちからお願いしたいくらいだぜ。)


もう何年生きた?ざっと220年くらいだろうか。世界最高齢ぶっちぎりだよな。

全くつまらない人生だった。だってよ、人の幸せのために200年くらい使ったんだぜ?馬鹿みたいだろ?

だけど…


(まぁ、楽しかったっていえるか。)


またあいつが結婚した知らせや、子どもができた手紙を送ってくるのを見ることができないのは残念だが。


「……」


体が薄い光に包まれていく。そんな俺の姿見てもみんな驚かないってことはもう見えてないか、光なんて見えて無いんだろう。意識が薄れていく。


(折角神の俺が手間暇かけて助けてやったんだ。幸せにならねぇと承知しないからな。)


目をつぶった瞬間に視界が真っ暗になった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「…い……おい!」


何だうるさいな。俺は疲れたんだ。


「おいってば!」


無理矢理体を起こされた俺の目の前にはあいつの顔があった。


「あ…れ…?ここは?教室で神に消されて…」


「はぁ?お前大丈夫か?」


あいつが呆れた顔でこちらを見てくる。なんだこいつ、折角助けてやったってのに憎たらしい。


(ってか)


「おい、お前今何歳だ?」


「何歳ってお前と同じ歳だろ、飲みすぎだぞお前。」


周りを見渡すと大衆居酒屋のようだった。俺は制服じゃなくてスーツを着ていた。


「…いいから、何歳だ。」


「55だよ、来月で56。お前はもう56だろうが。」


「お前の奥さんはどうしてる。」


「はぁ?…家で寝てるんじゃないか?」


確かこいつの妻はこいつが52の時に死ぬはずだ。


「…癌ってどうなった。」


「お前、何年前の話してるんだよ。8年前に病巣が見つかってすぐに治療したから今はなんとも無いっての。ま、気付けたのはお前が昔から癌の話してたからっていうのもあるし感謝はしてるけどな。」


(治ってる…?じゃあここはどの時間軸…)


ためしに1分ほど時間を戻そうと意識を集中するが戻ることが出来ない。


(戻れない…)


「おーい、大丈夫か?」


「…ん?あぁ、お前の言うとおり少し飲みすぎちまったみたいだ。」


「しっかりしてくれよ、お前が倒れたら妻や子ども達のほうが心配するぜ。」


「お前はしないのか?」


「…恥ずかしいこと言わせんな。ほら、会計済ませておいたから帰るぞ。」


俺達は二人そろって店を出る。


(…まったく、粋なことしてくれんじゃないの。)


見上げた空に浮かぶ星が瞬き、ウィンクをしたような気がした。


「おい、いくぞー。」


「おう、今行く。」


2人の男が肩を並べて歩き出す。


これは幸せな時間を繰り返したかった男と、少し特殊な力をもった脱力系な男が起こした少し不思議な物語。


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