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エッセイ

ちょいとあそこへ行って来る~駅からハイキング・上尾~

作者: 仲山凜太郎


 6月1日。JR東日本のウォーキングイベント「駅からハイキング」に参加するため上尾に行ってきた。

 上尾は毎年6月第1土曜日にこのイベントを開催しており、私も今年で3回目の参加になる。

 駅からハイキングについては、私が最初に書いたエッセイ「駅からパンキング」でも触れたが、要はJR東日本の駅をスタートとした街の名所やイベントを訪ね歩こうというものだ。

 スタート地点でおすすめコースの地図と缶バッジ+αをもらって出発、その後は特に制限も無く、極端な話、それらをもらったらそのまま帰ってもOKだ。もっとも、そんなことなら何のために来たのかわからない。参加者は地元ではない人たちが大半なので、ほとんどの人はマップのおすすめコースにしたがって歩く。私もその1人だ。

 期間はたいていのコースで1~2週間開催されるが、今回は1日限り。そのためか、他のコースにはない開催の挨拶なんてものがある。お偉いさんには悪いが、この手の挨拶をまともに聞いている人はほとんどいない。

 だったら止めればとも思うが、中には真面目に聞いている人もいる。そう、挨拶はそういう人達のためにあるのだ。少数でも大事にする姿勢である。


 朝9時スタート。もっとも受付は11時までしているので、のんびりしたい人はゆっくり朝寝を楽しんでから来るのだろう。

 このコース、距離は約15キロ。駅からハイキングの中ではかなりの長距離であるが、私は結構お気に入りである。スタート地点は駅前なだけにそれなりに賑わってはいるが、10分も歩けば住宅地になり、開発地になり、寺や神社の並ぶ昔ながらの町並みになり……という具合に歩いていて変化に富んでいる。地元のサービスも他のコースとは比べものにならないぐらい充実している。

 マップなどでサービスの内容を簡単に確認すると

「それじゃあ行ってきます!」

 出発地点では、関係者たちが立ち並び、参加者を見送っている。関係者の中に上尾市のイメージキャラ「アッピーくん」の姿もある。これは他のコースにはない光景だ。私もテンションが上がっていたのだろう。見送る関係者たちとハイタッチを交わして歩き出す。


 スタートしてからしばらくは道路沿いのせいか普通の町並みだが、市民体育館を過ぎて左に曲がるあたりから周囲の風景は大きく変わる。車の姿がほとんど見えなくなる。道路はあるのだが、めったに車が通らない。

 なんか「開発に着手したばかりの住宅街」みたいなところを通り過ぎ、上尾道路をくぐる場所では中学生の描いた壁画が見られる。

 最近、アートだのなんだの称して勝手に店のシャッターや電車の車体、中には文化財にまで勝手に絵を描く輩がいるがそれとは違う。技術的には未熟かも知れないが、真っ直ぐな絵で、見ていてなんだか微笑んでしまう。

 それを過ぎ、南の国道51号線に沿って歩く。ここいらから地元サービス&見所ラッシュが始まる。

 矢島園のお茶とお菓子の無料サービス。お菓子はお茶を使った豆菓子とかりんとう。抹茶ソフトも売っている。出発してから小1時間。時間的に一服しやすいのはにくい演出……ではなく多分位置関係のせいだろう。

 

 馬締寺。地元の人がガイドをする中、境内のモクコクの木と見合わせる。この木は低く、穏やかに横に広がっている。

 お寺の見所となる木というのは、高く、どっしりとそびえ立つのがほとんどである。「木」よりも「樹」の字のほうが似合う。少し先にある八枝神社にもそういう樹がある。まるで背筋を伸ばし、大きく立ち上がって大見得を切っているような樹。あまりに大きく、力強い。正に人間を超越したような力の樹である。

 しかし、ここのモクコクの木は違う。そう、ここにあるのは「樹」よりも「木」が似合う。静かに優しく控えめにそこにいる。まるで穏やかな顔のお婆ちゃんが縁側に座りながら

「おや、いらっしゃい。こんなに年をとって、こんな台に枝を支えてもらってやっと形になっている老木ですが。御利益を授ける力もまだ少ぅしぐらいは残ってますから。頑張る人達の手を引いたり、背中をちょいと押すぐらいは出来ますよ」

 と静かに微笑みながら挨拶してくる。そんな雰囲気を持っている。

 そんな木と向かい合っているだけで余計な力が抜けてくる。


 道を歩くと、地元の人だろうか、畑で取れたというニンニクを売っている。他の参加者が「でけぇなぁ」と感心して1袋200円のものを買っていた。

 明治時代に作られたという家が、参加者に「ちょっと見ていってください」と内部を案内している。

 カフェが無料でアイスコーヒーを振る舞っていた。それを飲みながらメニューを見るとどれも美味しそうだ。しかし、時間があまりにも中途半端すぎた。セットに付いていた春キャベツと鮭の味噌汁がすごく美味しそうだったのだが、断念する。


 そして私にとって今回のメインストリートに入る。

 八枝神社から榎本牧場まで約3㎞弱。川沿いというには川があまり見えないが。左手にゴルフ場を見ながら歩く。

 初夏の日差しの中、草の緑と空の青、雲の白で視界が覆われる中、のんびりと歩く。草の中、ぽつりぽつりと白やピンクの花が咲き、蝶が舞っている。

 中央付近に休憩地点でもある小塚浅間塚。昔、富士山信仰の時代に各地に作られた「なんちゃって富士山」のひとつがここにある。コースに合わせて行われるスタンプラリーのはんこを押してもらい、無料の麦茶を一杯。そして密かに楽しみにしていた冷やしキュウリ……がない! え、なぜ、去年はあったよ、冷やしキュウリ。1本100円。

 仕方ないので代わりに売っていた団子を買い、なんちゃって富士山に登る。

 麓から頂上まで約30秒。登頂成功! やはり富士山はいい。

 ……気のせいかな、静岡県民と山梨県民の人たちがゴミを見るような目を私に向けているような……

 小塚浅間塚でもらった飴をなめながら再び歩く。祭りの練習だろうか、太鼓の音が聞こえる。これから訪れる丸山公園で今日はイベントがあるが、まさかその太鼓の音じゃないだろうな。

 ゴルフ場を過ぎたせいか、周囲の広々さが少し無くなる。左右にちらほら見えるのはこの先にある榎本牧場の牧草畑だろうか。緑に囲まれた穏やかなコース。

 ちょっと視線を上に向けると、歩道につき出た枝に、鮮やかな黒っぽい紫の実がなっている。木苺だ。ひょいと手を伸ばしていくつか取り、口にする。酸っぱいと思ったがそんなことはなかった。確かに酸味は感じられるが、それよりも「甘い」のだ。また手を伸ばしておかわりを取ってしまう。自作小説で初夏の話があれば、登場人物が自然の木苺を取って食べるシーンを入れよう。

「気ぃつけろよ。見た人がびっくりするぞ」

 通りがかりの他の参加者が声をかけてくる。見ると手が汁で真っ赤だ。口を拭くと、ハンカチも汁で赤く染まる。確かに、手と口を真っ赤にしたおっさんが迫ってきたらみんなびっくりするだろう。


 牧草の畑を抜けると、微かに土に混じって牛糞の匂いがしてくる。

 榎本牧場だ。

 場所としては中間地点を少し過ぎた距離だが、手頃な目的地なので、私はここを中間地点と認識している。

 牛舎をのぞくと、今年の3月に生まれたという牛がいた。生後3ヶ月のくせに私より大きい。このまま成長すれば、きっと来年の今頃はゴジラ並の大きさになっているだろう。

 参加者割引サービスもあるので、ここでちょっとジェラードを買って一休み。考えるのはみんな同じらしく、売り場では私同様、駅からハイキングのマップ(割引を受ける証明書)を手に並んでいる人が多い。

 おっさんである私が頼むのはバニラ一択。ここではミルクと言うが。横に並ぶ他の味など眼中にない。バニラアイスはおっさんが食べても違和感のないものだ。抹茶味というのは、お洒落臭が感じられてかえっておっさんには似合わない。

 器はコーンとカップとかある。カップの方が良いかなと思ったが、いざ注文の段になると、「コーンで」と無意識に言ってしまう。

 屋内はほぼ満員なので、外に出てついてきたプラスチックのスプーンでジェラードを口にする。初夏の暑さと疲れた体に冷たさと甘さが染み渡る。これである。ソフトクリームとかジェラードは、屋外で食べた時にその真価を発揮する。自身がおいしいのはもちろん、環境がおいしさを倍増するのだ。

 微かに漂う牛糞の匂いも場の演出と考えれば気にならない。目の前の豚たちもそう考えればなかなか愛おしい。

「おっとっと」

 食べ始めて1/3も経たないうちに溶けたジェラードがもった手に垂れてきた。慌てて周囲を削るように食べ、解けてもコーンの外には行かないようにする。こうなると味わうよりも口に運ぶ作業に近くなる。

 これが不思議である。おっさんは食べるのが遅い。まして暑い日など、半分の食べないうちに溶け出す。

 だからこそ先ほどカップの方が良いかなと思ったのだ。だが、やはり食べ終えたあと、冷たさと甘さに染まった口の中をコーンのさっぱり、パリパリ感でリフレッシュしたいのだ。パフェのフレークと同じである。これがないカップは寂しい。芝居が終わってもカーテンが閉まらない舞台のようだ。

 だが、この理由は単なる格好付けに過ぎない。真の理由は別にある。それは……おっさんの習性である。

 海を泳ぎ回った鮭が最後に生まれ故郷の川に帰るように、多くの日本人グルメが最後にお茶漬けに帰るように、おっさんはコーンに帰るのだ。

 これからも私はソフトクリームやジェラードを外で食べるとき、カップがあっても迷うことなく「バニラのシングル、コーンで」と言うだろう。

 コーン、コーン、コーン。

 私の前世はキツネだったに違いない。


 コースも後半に入る。

 諏訪神社で一口まんじゅうとお茶の無料サービスを楽しみ、後半の山場、上尾丸山公園へ。

 ここは菖蒲園から簡単なイベントも出来る広場。滝や小川など流れる水を生かした空間。子供用の遊具はアスレチックを思わせる「動く」ものが多く、実に私好みの公園になっている。

 ここではちょうど花しょうぶ祭りをやっており、菖蒲田には色とりどりの菖蒲が満開……ではなかった。ぱっと見た感じ、花が咲いているのは全体の1/4ぐらいだろうか。こういう自然のイベントでは、開催時期に合わせて満開になってくれるとは限らない。毎年、テレビで桜祭りや梅祭りで紹介するとき、開催時期にはまだ咲いていない、ピークをとっくに過ぎてほとんど散ってしまったなどというのを目にするぐらいだ。

 当日は餅つき踊りというのをやっており、ふるまい餅が出る。参加者がこれにありつけるかは結構微妙なところで、私は1年目はありつけたが2年目には間に合わなかった。そして今年はラスト数個というところで間に合った。

 子供達が「きよしのズンドコ節」に合わせて太鼓を叩く中、ベンチに座って餅を食う。初夏とは言え、つきたての餅はやはり良いものだ。

 そうそう、ここでは今回のコースで行われたスタンプラリーの抽選が出来る。今回の成果はミニグリーン。100円ショップで売られているような小さな観葉植物が、浮き輪のような厚手のビニール袋に入っており「1年はこのままで」という注意書きがある。1年ほど経って、中のグリーンが袋一杯に育ったら、袋から取り出して育ててくださいということらしい。


 水の音と子供達の声を後にして公園を出ると、今回のハイキングもほとんど終了も同然。

 実際にはあと十連寺と川の大じめがあるが、公園から間がある上、間にあるのは住宅街。ちょうど昼食にちょうど良い時間帯にアリオ上尾に着くとこともあって、気が抜けてしまう。15㎞という長距離のため、参加者の中には後半バテる人もいるだろう。十連寺ではガイドが頑張ってはいるものの、ちょっと損な場所である。

 駅からハイキングの中には、参加者が飽きないよう、年ごとにスタートとゴールを逆にするコースがある。ここもコースの向きを逆にすれば、十連寺とかも参加者の気分が乗っている内に訪れることができるだろうに。

 私も軽い疲労を感じながら、ミニグリーンを手に帰路につくべく上尾駅の改札を通り過ぎた。

 しかし、私は大事なことを忘れていた。

 去年も一昨年もそれでひどい目に会ったのに。きれいに忘れてしまっていたのだ。

 初夏。

 良い天気。

 時期的に半袖での外出は初めてかまだ数回。

 外を数時間歩き続ける。


 もうおわかりだろう。

「いだだだだだだだだだだ!」

 参加当日から数日の間、私は風呂に入る度、肘から先が真っ赤に日焼けした腕がお湯に浸かる度に悲鳴をあげることになった。


『夏風呂や お湯が染み入る 日焼け肌』


 お粗末。


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