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第35回 治る病と、治らない病

 新聞広告などで目にする事がある『精神病は病気ではありません』といったタイトルの書籍ですが、あの様な広告を見ると病気で苦しんでいる側からすれば不快以外の何ものでもありません。


 書籍の内容まで確認する事はありませんが、私が罹患しているうつ病を含め、多くの人が実際に病で苦しんでおり、なおかつその為に仕事にすらまともに就けなかったり、かなり制限された仕事になってしまう場合が極めて多いのが現実だと考えます。


 私もそうでしたが、罹患して仕事をしばらく休養という名の入院をしましたが、戻ろうとしたら事実上の解雇でした。あくまで企業側としては自主退職という形ですが、それまでの席が無くなっており、『君の戻る席は無いけども?』と言いながら自主退職というかたちを取らせるのは、実際労働法規からすれば完全な違反です。


 そういった中で仕事を失い、さらに追い詰められれば病状が悪化するのは当然の事だと思います。もちろん私の例のような場合が全てとは言いませんが、結局仕事を最終的に失うという人は、私の知る限りとても多いです。


 仕事を失い収入も途絶えれば、当然マイナス思考に陥るのは当然でしょう。そもそも仕事を失った時点でマイナス思考に陥る人も多いはずですし、精神疾患に罹患した事自体でマイナス思考になってしまう事も多いと考えます。


 そういった中で『精神病は病気ではありません』といったようなタイトルの本ともなれば、苦しんでいる人に対して追い打ちをかけているのも同義です。


 そもそもうつ病などそうですが、完治という言葉は使いません。完治とは病気が治る際に使われる言葉ですが、うつ病などの場合に使われる言葉は寛解です。


 寛解とは病気の症状が治まった(消えた)状態であり、再発する事がある場合に使われます。癌などの場合も寛解という言葉が使われ、実際に再発する事があります。同じように精神病は再発する物があるので、そう言った種類の病気には寛解が使われるのです。


 そう言った意味ではうつ病を含めた精神病は、全てとは言いませんが治らない病という事も出来ます。あくまで症状が消えただけであって、治った(完治した)訳では無いのです。


 それどころか様々な要因があるとは思いますが、他からすればちょっとした事と思えるような事でも病状が悪化している例は実際に見た事が有ります。人によって感性が異なるためだと思いますが、病気で心が弱っているようなときは尚更でしょう。


 もちろん適切な治療を続けていれば、病状は安定し寛解の状態になるでしょう。しかしなかなかそうならない人が多く現実に存在し、病と闘っているのを『病気ではない』とするのは、患者を馬鹿にしているとしか思えてなりません。


 これらの事は、元々日本では精神病に理解があまりなかった事も大きく影響はしていると思います。しかし今は情報社会で、多くの人がスマートフォンというコンピュータを持っている世の中です。そしてスマートフォンでちょっと調べれば分かるような事を無視して、一方的な決めつけを行う人は今も絶えません。


 何よりもうつ病などは誰しもきっかけさえあれば罹患する可能性のある病気です。


 厚生労働省の統計では、平成29年に精神疾患とされている方は400万人を超えたそうです。これは日本全体の3.2%に相当する値であり、100人に3人は何らかの精神疾患を患っている事になります。そう言った統計が出ていても病気としてすら認めないのは、苦しんでいる病人に鞭打つ行為であるとしか思えません。


 具体的な数値でいえば、うつ病などを含む気分障害とされるものは、平成14年に約71.1万人だったのが、平成29年には127.6万人となっているとされています。他にストレス関連障害も50万人だったものが83.3万人にふえていたりするなど、主にこの2つの患者数が増えているのが現状です。おおよそ8.6%程度の伸び率で気分障害の罹患者は増えていますし、ストレス関連障害も2%ではありますが伸びています。


 これが日本の現状なのに、それを無視した行為は現実から目を反らすものであり、正常な思考を放棄していると同義だと考えます。

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