第27回 人としての尊厳(前編)
言葉では色々な言い方があると思いますが、根本的には生活のために一般的に働き、同時に自らのやり甲斐ですとか、目標などを達成するために仕事をするもので、もちろん与えられた仕事を淡々とこなすことも1つの方法でしょうが、どちらにしても仕事をした上で生活するのが本来当たり前であり、間違っても仕事のために生活はしてはならないと思います。もちろん本人が望めばそれはそれで構わないのでしょうが。
就職氷河期以降、失われた○○年という言い方が出てきました。
この言葉自体は確かに一定の的を射ていると思います。実際にこの中で失った物は多いと考えますし、それはもしかしたら2度と日本社会には戻らなくなるものなのかもしれません。
その中で絶対に失ってはならない物として、人であることは当然のことのはずです。しかし残念ながら、どの程度一部といって良いのか分かりませんが、この失われた○○年の中で人としての尊厳が失われていっているように感じています。
前の章などでも書きましたが、いくらバブル時代にも長期間労働で似たことがあったという人がいたとしても、その場合は適切とはいわなくとも相応の報酬が出ていたはずです。しかしバブル崩壊後はそれが次第になくなるようになり、2010年を過ぎてからは深刻さがまし、一部大企業では長時間労働などに伴う自殺者まで出るという時代になっています。実際には中小企業で既に出ていたと思いますが。
しかしながら大企業で長時間労働に伴う自殺があってからは、若干ですが社会の空気に変化は訪れてきたと思います。実際に法律として労働時間の規制を行う動きは出ていますし、様々なメディアでも取り上げられたりと、以前ではほぼ考えられなかったことです。
ですが残念ながら取り上げられる大半は大企業でのことであり、中小企業のことがメディアで取り上げられることは少ないように感じます。大企業は確かに規模が大きいため、その従業員の数も多くなりますが、それでも日本において中小企業に勤める人の割合は、その約半分をはるかに超える69%程度と言われており、国内の基幹を支えている重要な立ち位置である事に変わりはないはずです。従業員数として考えてみても約2780万人は、大企業に勤めている人が約1230万人と、倍以上の差があります。
大企業で長時間労働による問題が起きていて、中小企業では起きていないという事などあり得ません。むしろ大企業による圧力により、中小企業に生産等の圧力がかかり、労働環境が悪化してしまう事例もあります。いえ、実際にそうなっている中小企業は多いのではないかと思えます。
しかしながらメディアで取り上げられる長時間労働の問題は、大企業へ人を取られてしまい人手不足という事がほとんどだと思いますが、人手不足という事は同時にそこで働いている人々に過重労働という形で影響が出ているのではないでしょうか。
特に製造業であれば、いわゆる下請けという企業など全く無く全て自社で製品の開発から製造まで行っていれば別かもしれませんが、一般的には下請け企業という名の中小企業がいて、そこで作られた部品を最終的に組み合わせて製造し、完成した物を販売していると思います。
以前に聞いた話ですが、納期までに製品を相手企業委納められないと、次回からの受注が無くなるというもので、しかもそれは製品を製造している会社の他にも競合他社がいくらでもいるからであり、大企業側は困らないからという物でした。
これがどこまで本当のことであるかは分かりませんが、そう言った話がある以上はそう考えても仕方がないことが起きているのではないかと推測できます。当然受注がなくなればその企業は売り上げが落ち込むのですから、必ずどこかにしわ寄せが行くはずであり、それは従業員の解雇といった形で現れると考えられますし、中小企業でパートやアルバイトが多い場合、比較的容易に辞めさせることが出来るからと考えることも出来ます。
話を戻しますが、雇用形態にかかわらず、また企業規模にかかわらずに労働時間などの労働の問題が発生し、現実に精神を病んでしまう方が増えています。これは企業側が明らかに無理な労働などをやらせている場合、企業の責任のはずです。しかしながら前述した自殺者の問題が取り上げられるまでは、さほど社会では問題になっていなかったと思えます。
そう言った上々は私がいた会社でもあり、ある方が仕事を辞めることになったのですが、本人からとある精神疾患の病名を聞いていました。しかし会社側はそれと辞めることは全く関係がないとし、しかも本人は病気では無いとまで言い切っていたのです。
これこそ人を人としてみない典型的な例ではないかと思います。
その後の事ですが、私も長時間労働などで精神を病んでしまい、長期入院まで経験したことがあります。ですが会社はその責任を全く認めませんでしたし、当時労働基準監督署に相談しようとしても、窓口でまともな対応すらしてもらえない状況でした。はっきり言えば労働基準監督署は『面倒話は持って来るな』といった態度が透けて見えたほどです。
労働基準監督署の仕事とは何でしょうか?
ウィキペディアによると『法律に基づく最低労働基準等の遵守について事業者等を監督することを主たる業務とする機関』とあり、『労働者の労働条件の確保等を目的として事業場(会社、建設現場等)に立入って、賃金台帳その他の労務関係書類や安全衛生管理の状況を調べ、法違反等が認められた場合は行政指導を行う。その他、各種届出・申請の受付や、未払賃金の立替払事業に関する認定・確認などを行っている』とあります。
つまりは労働者に対して会社側が違法行為等を行っていないかを調べ、指導を行える公的機関です。
しかしその労働基準監督署がきちんと機能していなかったからこそ、こういった事態にまで発展したのではないでしょうか。




