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第八話:灯台下暗しだと思いますよ?

 こうして、科学部に入部(仮)した俺だったが、目的は何一つ果たせていない。友達をつくるという目的のために部活動へ入部しようと決意したのに、科学部の部員は一人だけだったからだ。

 一歩前進ってことでいいのか……?

 それは定かではないが、まだ友達をつくることを諦めたわけではない。

 今日も一日頑張ります。




「おはようございます、平くん。今日はいい天気ですね!」


 いつも通りの道を歩いていると、後ろから声をかけられた。

 今は朝。眩しすぎるほどの快晴である。


「ああ、おはよう。いい天気だな」


 何気ない言葉で返す、というより急なことだったので話すことが思い浮かばない。


「素っ気ない返事ですね。まあいいでしょう。それより、昨日友達もできたことですし、そろそろ女の子に惚れたりしませんか?」


「そんな簡単に惚れない。そして、そんな哀れみの目でこっちを見るんじゃない。かわいそうだろ、俺が」


 千春はぽけーっとした目でこっちを見ているが、そんなにこの快晴が心地よいのだろうか。俺には暑いだけだが。


「それもそうですね。まあ気長にいきましょう。平くんが女の子を好きになれる時は、じきに来るでしょうから(チラッ)」


 チラチラこっちを見ながらそう言うが、俺は全く女の子を好きになりそうにない。


「全くそんな気がしないが」


「灯台下暗しってやつですよ」


 ? 最後によく分からないことを言っていたが、そのまま学校に入った。




 そして今は放課後のホームルームの時間。入学して一か月ほど経ち、学校に慣れてきた一年生の学校運営への参加、つまり、委員会や生徒会、クラス役員を決める時期である。


「はーい。では今からクラス役員を決めますよ〜。まずはクラス委員長からです〜」


 ゆるい口調でそういうのは一年一組担任の水無月先生。下の名前は忘れた。いろいろたわわな先生である。特に上半身とか。


「もう、どこ見てるんですか平くんは。やはり変態だったのですね」


 隣の席の千春は俺の視線に気づいたのか、突然そんなことを言ってくる。まあ事実だけどさ。


「女の子は好きになれないのに、そういうことには興味あるんですか。それはそれは都合のいい病ですね」


「偶然目に入っただけです……。多分……」


 しぶしぶそう返して、先生の話の続きを聞くことにする。


「クラス委員長になりたい人はいますか〜?」


 シーンと静まって、手を挙げる人は誰もいない。

 一年生の委員長なんて分からないことだらけで、やりたいやつなんていないだろう。


「むー、誰も挙げませんね。では推薦にしましょう〜」


 やっぱりこの流れになったか。誰も立候補しなければ、推薦させる、定番の流れだ。


「はい! 氷見さんがいいと思います!」


 すると突然、一人の女子生徒が立ち上がってそう言う。


「へ? 私?」


 千春はキョトンと驚いているが、別に不思議なことではない。入学当初から、皆に人気があり人望も厚い。このクラスで委員長に最も相応しい、最適解であった。


「そうですね〜。水無月さんはしっかり者ですし、私も推したいと思っていたところですよ〜。みなさんどうですか〜?」


 先生は変わらずゆるい口調でそう言い、クラス全体がそういう雰囲気になってきている。

 問題は千春がしたいかどうかだが、おそらく断らないだろう。みんなの前に立つのとか好きそうだしな。

 千春が委員長になったら……忙しくて部活には来ないだろう。

 唯一と言っていい話せる友達も、また離れていく、というより元から千春は誰とでも話していたというべきか。

 また一人になる、いや、元の生活に戻るだけ。何も変わらないはずだーー



「私は……お断り、します」



 その言葉が耳に入ってきて、俺は耳を疑った。

 どうして断るんだーー


「推薦してくれたのは嬉しいのですが、部活動で忙しいので」


 部活動を優先して? 二人しかいない端っこの部活にどうして?


「そうですか〜。それは仕方ないですね〜」


 その後、結局千春を推薦した人に風があたり、委員長になった。

 しかし、千春が部活動を理由に辞退したことに疑問が残る。


「なあ、どうして断ったんだ? あんな部活動のために」


 ホームルームが終わった後、荷物をまとめていた千春に尋ねる。


「あんな部活動とはなんですか。一緒に決めた大切な部活ではないですか……」


 いつもとは正反対の、落ち着いた声でそう答える。


「でも、俺なんかの底辺に付き合う必要なんてないぞ?」


「そんなに自分を卑下しないで下さい。あなたは私の命の恩人です。しかもいつも言っているではないですか、私はあなたの友達ですと」


 嬉しい。その言葉は嬉しすぎる。高校でのぼっち生活で開いた傷に染み込んでいく。


「そうか、ありがとう! これからも『友達』としてよろしくな!」


 おそらく高校生になって一番の明るい声を出した気がする。


「もう、何が『友達』ですか……。毎日こんなに話しかけるのは平くんくらいなのですから……」


「何か言ったか?」


「何も言ってません!!! 早く女の子を好きになれるよう頑張って下さいね! この鈍感クソ野郎 」


 なんでお前は怒ってるんだ……。

 よく分からないまま、俺たちは科学室へ向かうのだった。












少し投稿頻度が下がります。申し訳ありません。

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