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第七話:シュレーディンガーの猫

週末に更新します。ペースは遅いですが、よろしくお願いします。

「おい! 大丈夫か!」


 俺はそう叫ぶが返事はない。急いで助けないと!

 側へ駆け寄って白衣を着た体を揺すってみるも、うつ伏せになったままピクリとも動かない。

 倒れているこの子の側の実験机には実験器具が並べられ、フラスコの中の液体がコポコポと泡を出している。まさか、実験に失敗してか⁉︎ だとしたら、この部屋の空気を吸う俺たちも危ないかもしれない。


「千春! 救急車だ!」


「は、はいぃ!」


 制服のポケットからスマホをあたふたと取り出しているが、操作にてこずっているのが横で見ていてもよく分かる。


「その必要は……ないのです……」


 急にうつ伏せの死体が動いたかと思うと、それは起き上がってこっちを見た。


「ひぃっ、ゾンビ……」


 千春は本気でそう言っているが、この人は生きていたらしい。本当に良かった良かった。

 と、ここで俺はあることに気づく。


「お前、俺を自転車で轢いたやつじゃないか」


「なんと! その節はどうもです。その後お体に異常などはありませんですか?」


 どこかで見覚えがあると思ったら、やっぱりその通りだった。俺は入学初日、登校中に自転車に轢かれ、それが原因で遅刻したのだ。そこから高校のスタートに失敗し、こういう状況にいるわけだが、どれも俺の不注意が招いたものだと自認しているので、この子に何の恨みもない。


「ああ、全く問題ない。それより、何でここで倒れてたんだ?」


「シュレーディンガーの猫、というのを知っているですか?」


「「シュレーディンガーの猫?」」


 俺と千春は口を揃えて聞き返す。突然何だ?


「思考実験の一つです。思考実験とはその名の通り頭の中で想像するだけの実験のことです。まず、蓋のある箱を用意して、この中に猫を一匹入れます。箱の中には猫の他に、放射性物質のラジウムを一定量と、ガイガーカウンターを1台と青酸ガスの発生装置を1台入れておきます。ここでもし、箱の中にあるラジウムがアルファ粒子を出すと、これをガイガーカウンターが感知して、その先についた青酸ガスの発生装置が作動し、青酸ガスを吸った猫は死ぬことになります。しかし、ラジウムからアルファ粒子が出なければ、青酸ガスの発生装置は作動せず、猫は生き残るのです。一定時間経過したら、猫は生きているでしょうか、それとも死んでいるでしょうか。ただし、アルファ粒子が出る確率は二分の一です」


 ……いや、何言ってるのか分からんわ! 千春も突然パソコン渡された猿みたいな顔してるじゃないか! なんかその顔可愛いけど!


「わけが分からないという顔ですね。もっと詳しく言えば量子力学の話になるのです。簡単に言えば『二分の一で生きるか死ぬかの箱の中に猫を入れたら、一定時間後、猫は生きているのか死んでいるのか』ということです」


「それは……箱の中を確かめるまで分からないんじゃないか?」


「なんと! その通りなのです!」


 この子はそう答えるが、結局何が言いたいんだ? 話の真意が掴めぬまま、その子の話を聞き続ける。


「つまりです! 箱の中を見るまで、箱の中には生と死が重なりあった猫が存在していると言えるわけです。実際にはそれは絶対にありえないことですが」


「その話はなんとなく分かったが、つまり君の本当に言いたいことは何なんだ? この状況でする話でもないだろう」


 この状況とは、うつ伏せに倒れていたという状況のことだ。


「いえいえ。関係しかありません。なぜなら、私はそのシュレーディンガーの猫を実際に再現していたのですから! もちろん死ぬことはないですが気絶はします。先ほどまでの私のように」


 この子は淡々と答える。実際にやるとか……。でも、観測者がいないとその実験は成り立たないのでは? と思ったので聞いてみる。


「その実験を見守っていたのは誰なんだ? 観測するやつがいないとそもそも成り立たない実験なんじゃないか?」


「そうです。私はそこで重大なミスをおかしたのです。実は……私には……」


 彼女は口ごもって何か言おうとするが、声が小さすぎて聞こえない。なんだ?


「実は……私には……


 友達が、いませんでした!」


「……」


「……」


「……2人揃って黙らないでください」


 千春も俺も返す言葉が浮かばない。いやまあ俺も友達いないんだけどさ……。


「友達の件はいいとして……私は感謝しているのです。あなたには命を救っていただいて」


 ん? 俺は命を救った覚えはないぞ?


「あなたが私を観測してくれなければ、私は一生、生と死が半分の人間でした。それを生に傾けてくれたのですから、あなたは命の恩人です」


「そういうもんか? なんか違う気がしないでもないが……」


 また、命の恩人になってしまった。高校に入って二度も命の恩人のと呼ばれようとは。


「命も助かったことですし! 部活の話をしましょう! 科学部は今何人いるのですか?」


 千春はそう話を切り替え、本来の目的に戻る。そういえば部活動見学に来たんだった。


「私は滑川南兎(なめりかわなんと)。科学部の部長です。部員は私一人です」


「一人だったのですね! はい! ここです! ここに入部しましょう平くん!」


「え⁉︎ もう決定すんの?」


 さすがに急すぎないか? もうちょっと考えてから……。


「そんな風ではいつまで経っても決まりませんよ! 新生科学部ここにばくたーんいえーい」


 いえーいとハイタッチを求められ、仕方なく科学部に入部(仮)する俺であった。


参考:シュレーディンガーの猫についてウィキペディアより一部引用

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