第四話:告白させられた側のお話
今、平くんが屋上で待っている。告白してくれと頼まれたときは少し驚いたけれど、冷静な今なら落ち着いて話せる気がします。
いつでもいいと平くんは言ってくれたけれど、少しやってみたいこともあるので早めに告白は終わらせてしまいましょう。平くんは私を少しでも好きになってくれるでしょうか?
いつも通りの私では効果が薄い、……いえ、いつも通りの私でもし断られたら、と考えると悲しくなるので少しキャラを変えていきます。もっと元気でフレッシュな女の子に。
「こんにちは! 平くん! 実はお話があってここに来ました」
平くんは扉横のベンチに座っていました。昼食はサンドイッチでしょうか。案外ベジタリアンなんですね。
私は気を引き締めます。ここから戦闘開始です。その心、絶対に撃ち抜いてみせます。ばっきゅーん♡ い、いけません、緊張のあまりキャラが壊れそうです。
ひぃひぃふーひぃひぃふー、心の中で深呼吸です。ふぅー。……いきます!!!
「平くん、私はあなたが好きです!」
言っちゃいました。ついに言っちゃいましたよ。人生初の告白です。これが偽物だと分かっていても、緊張はするものですね。あ、緊張といえば、適度な緊張はアドレナリンを分泌してパフォーマンスをあげるらしいですということを最近知りました。
いえいえいえいえいえ、そんなことより、返事です。いえすおあのー? さあどっちですか平くん!!! 私は心の中で願います。
イエスイエスイエスイエスイエスイエスーー
「なんか違うんだよなあ」
返ってきたのはそんな言葉でした。
一瞬耳を疑いました。でも、これは、紛れもないリアルです。
違う? 違うってどういうことですか。私は勇気を出して告白したんですよ?
そんなのは、そんなのはーー
「……どいです」
「ん?」
「ひどいです!!!」
いつのまにか涙が出て、私は叫んでいました。もう止められそうにありません。
「その返事はひどいです!!! 頼まれたとはいえ私は全力で告白したんです!!! なんか違うなんかで済ませないでくださいよ!!!」
ありったけの大声で叫びます。全部言っちゃいました。ほら、平くんも、そんなに悲しそうな目をしないでくださいよ。
「ごめん、俺は君のことを好きになれない」
言われちゃいました。知ってますよそんなこと。でも、少しくらい期待してもいいじゃないですか。私の命の恩人なんですから。
さあ、早く、元気ましましなフレッシュな女の子に戻りましょう。しんみりしちゃうのもあれですしね。
「正直に言ってくれてありがとう! これからも仲良くしてね!」
これで無理矢理にでも締めくくります。後は元の私で。
「はい! 告白はここで終了です! どうでしたか平くん」
「その……なんかごめんな。お前は本気で言ってくれたのに」
「そのことはもういいです」
もっと大事なことがありますから。やっぱり言わなきゃ直らないのでしょうか。
ーーどうして、名前で呼んでくれないの?
気づくまで待ってあげてもいいのですが、それでは一生お前呼びかもしれませんからね。それは耐えられません。
「もしかして、授業中お前の生足じろじろ見て、舐め回したいとか思ってたこと、とか?」
え? なんですかそれ? そんなのは初耳ですよ?
「なんですかそれ! 生足じろじろ見て舐め回したいとか思ってたのですか⁉︎ 変態ですか⁉︎ 変態ですね⁉︎」
想像したら熱くなってきました……。平くんがそんなに大胆だったなんて……恥ずかしすぎます……。
「そんなことではないのです。そんなことはそんなことではないのですが、それも今はいいです。それより、どうして私の名前を一度も読んでくれないのですか! いつもお前お前って、私もそろそろ傷つきますよ!」
自分で言うのも癪ですが、もう言っちゃいます。本当に仕方のない人ですね。
「ごめん、それは気にしてなかった。じゃあ、千春でいいか?」
ひゃい⁉︎ 急に下の名前で呼ばれて私は驚きを隠せません。でも、これはこれで悪くはないですね、えへへへへへへへへ。
「平くんはデリカシーがなさすぎます。さっきの生足の件といい、今のことといい……。……これも異性を好きになったことのない影響でしょうか?」
「さあな、分からん」
素っ気ない返事です。距離が近くになったり遠くになったり。やっぱり異性に慣れていないのが原因でしょうか。これは教えがいがありますね。
屋上の扉にある時計を確認すると、もう長針が二十五分のところを差していました。まだまだ話足りないのですが。楽しい時間というのは早いものです。
「異性と気軽に話せるのは良いことですが、行き過ぎはセクハラになりますからね。私以外にはそんなことしちゃダメですよ!」
そう言い残して私は屋上を去ります。
正確には、去りました、が扉の脇に待機中です。少しくらいドキッとさせてやるんですから。
平くんの足音が徐々に近づいてきます。一歩、また一歩。そして僅かに扉が開いた瞬間ーー
「私と付き合ってください!」
もう一度、全力で想いを叫びます。
ーーごめん、君とは付き合えない。
でも、また、振られてしまいました。不意打ち作戦失敗です。想いを受け入れて貰えないのは、案外悔しいものですね。私の一方的なものですが。
「少しくらい、好きになってくれてもいいじゃないですか……」
小さな声でそう残して、私は教室へ戻るのでした。