表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/10

第ニ話:可愛い=好きかどうか問題

「へ?」


 氷見の笑顔が初めて苦笑いに変わった瞬間だった。

 だけど、一度言ったからにはもう引き下がれない。


「俺に告白してくれ! 頼む!」


 もう一度念を押して言う、が、そこで俺はあることに気づいた。教室中の視線が全て俺と氷見の方に集まっているということに。

 しまったっ! つい熱が入って大声で言い過ぎた!


「え? 何あいつ女子に告白させてんの?」「自分で言う勇気ないから女子に頼み込むって……」「それでも男かよ……」教室がざわつき始めるがもう時すでに遅し。これじゃあ俺が無理矢理氷見に告白させようとしてるみたいじゃないか!


「ちがっ、違う! 違うんだみんな!」


 必死で呼びかけるが初日遅刻男に耳を傾けるクラスメイトがいるわけもなく。


「へ? 告白してくれ? それはどういうことでしょうか? 告白されてる? 告白して欲しいと告白されてる? えへへへへへへへへ」


 そして、何故か氷見は壊れた。

 両手で赤い頰を覆いながら、俯いて何かブツブツ言ってる。


「あのな、これは俺がお前に無理矢理告白させようとかそういうことじゃなくてだな。これには深い事情があって、俺がお前のことを好きとかそういうわけじゃないからな⁉︎」


 必死に弁解するも、聞いている様子がない。時間を置くしかないかと考えていると、ちょうど一時間目の始業ベルが鳴った。




 一、二時間目中、氷見はずっと俯いて何やらブツブツ言っていただけだった。


「俺のせいだよな……。俺が急にあんなこと言ったせいで……」

 これはなんとかしないといけないな、と思いながらも、なんと声を掛けたらいいのか分からない。


「あのー、氷見さん……?」

 とりあえず名前を呼んでみるが反応はない。

 ついでに肩を叩いてみると、氷見の体が急にビクンッと跳ねた。


「は、はい! なんでしょうか! 告白ですね! もちろん大丈夫ですよ! 告白くらい任せてくださいよ!」


 氷見が急に元に戻った、のは良かったが、目がこっちを向いていない。完全に警戒されてるな……。


「告白してくれっていうのは、別に俺が好きとかそういう意味じゃなくてだな。ただ純粋にただの告白をして欲しいんだよ」


 言葉で説明するが、上手くいかない。どう説明しても無理矢理させようとしてる風にしか聞こえないぞ。


「ただの告白⁉︎ それはつまり愛の告白をしろということですか⁉︎ でも、私平くんのこと好きじゃないですよ?」


「それは分かってるんだが、愛とかそういうものでもなくてだな。とりあえず理由を聞いてくれ」


 理由を話せば分かってくれると思うが、この理由を言うのに抵抗がある。誤解を解くには仕方ないか。


「その理由っていうのが……



 実は俺、女の子を好きになったことがないんだよ」



「そ、そそそそそそそそれはつまり⁉︎ 男の子が好きってことですか⁉︎」


「ちげえよ! どんな勘違いしてんだ⁉︎ 異性を好きになれないだけであって、同性が好きとかじゃないからな⁉︎」


 ここで、俺は同じ過ちに気づく。俺たちは大声で話しすぎた。

「え? 平は男が好きなのか……」「あいつに近づくのやめとこう……」「俺結構平好みなんだよな」

 まずいっ! また変な俺像が広まってしまう! そんで最後に聞こえたの誰だ⁉︎ 怖すぎるわ!


「やっぱり平くん、男好きだったんですね! 大丈夫です、私はそんな平くんでもずっと友達ですよ!」


「マジで違うからああああああああああああ」


 それから、『平は男が好き』を払拭できないまま、三時間目を迎えるのであった。

 三時間目中は氷見の方を見る度に「大丈夫ですよ!」や「ずっと友達ですから!」とガッツポーズをとりながら言われた。そんなフォローいらねえから。マジで。




 三時間目も終わり、登校初日にして既に『事故男』『告白懇願男』『ホモ』という三つの属性を手に入れた俺だったが、悩みを解決できるならそんなものどうでもよかった(いや、もちろんないほうがいいよ?)。悩みというのは「女の子を好きになったことがない」というものだが、これは今までずっと背負ってきたものだし、これからあっても困るからだ。

 今までのことをまとめて言うなら、ーー恋をしてみたい、ということだ。

 そこで、俺は今偶然隣の席になった女子、氷見千春に協力を求めているところである。


「つまり、異性を好きになったことがないから、私に告白させて恋心を目覚めさせようということですね!」


「ああ、その通りだ」


「でも、どうして私なのですか?」


「それは、お前が可愛いからだろ」


「へ? 可愛い? 私が?」


 氷見は照れながらも、質問する。


「コホンッ、私が可愛いかどうかは置いておいて、いや可愛いのは確かなんですけどね、可愛いということが分かるのに、何故好きということが分からないのでしょうか?」


「それは可愛い=好きじゃないからだろ。可愛い=好きなら、女優とかアイドルに恋してることになるぞ」


 中にはそんなディープなファンもいるんだろうが、大半は女優やアイドルが可愛いと分かっていても恋にまでは発展しないだろう。


「なるほどですね。 事情は分かりました! では告白しますよ〜!」


「待て待て待てっ! 急すぎるから! できれば昼休みか放課後にしてくれ。あと場所は屋上か二人きりの教室、これでいきたい」


 万全の状態でいきたいからな。完璧なシチュエーションを用意しないといけない。


「そういうものですか?」


「そういうもんだ」


 そして、昼休みになった。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ