プロローグ:『惹』かれたではなく、『轢』かれたです。
週末に投稿します!
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「私と付き合ってください!」
頰を撫でる風がまだ生暖かい春の日の昼休み。
午後の授業のため生徒たちがそれぞれの教室へ移動し始める頃。
俺はある女の子から告白されていた。
学校の屋上で二人きりというこれ以上ないシチュエーションで。
屋上から教室へ戻る、不意を突く絶好のタイミングで。
目の前にいる彼女の頰は少し火照って、目鼻立ちの整った顔はさらに可愛さを増している。百人に聞いても百人が「可愛い」と答えるだろう。
こんな状況で、こんな可愛い子に告白されて、断れる男などこの世にいるはずがない、そのはずなのに、どうして、どうして俺はこの子をーー
「あ、あのっ、私、一年一組の氷見千春っていいます! 平くんの誰にでも優しいところとか、かっこいいところとか、もう全部好きです!」
「……」
「あの……お返事は……?」
どうして、どうして俺はこの子をーー
まったく好きにならないんだろうか
キーンコーンカーンコーン
やばいやばいやばいやばいやばいやばい
キーンコーンカーンコーン
間に合えええええええええええええ!
ガチャンッ。
「がはっ」
俺はその場で膝から崩れ落ちる。
なぜ、こんなに落ち込んでいるかって? 決まっている、遅刻したからだ。高校初日というオプション付きでな!
「高校初日に遅刻とか……。どんな顔して教室入ればいいんだよ……」
これから、教室に入るとどうなるか。もちろん浮くのである。
遅刻してくる奴を好意的に思う人間なんてまずいない。入学初日となれば尚更だ。
「まずは、学校に入らないとな。こういう場合は看守さんに言えばいいんだっけ」
俺、平福光、普通の高校生(高校初日に遅刻したのはともかくとして)の通う私立常願寺高校は、私立高校なだけあって警備が厳重だ。遅刻した場合、看守へ生徒手帳を提示しなければ入れない、と入学要項に書いてあった気がする。
それから、なんとか手続きを済ませ、教室の前まで辿り着いた。問題はここからだ。
「不良っぽくなく、なおかつ好印象に……」
考えるだけで刻々と時間だけが過ぎていく。
さて、本当にどうしよう。
俺がここまで慎重になっているのにも理由があるし、実は解決策も一つ思いついている。ただ、これが解決策と呼べるかどうかが問題だ。
その解決策とは、”遅刻した理由を話す” というだけのことだが、この理由がなんともいえない。
思い返せば、それは今日の朝のこと……(今も朝だけど)
心地よい風が優しく吹いて、桜の香りもほのかに漂うそんな朝。
新入生にとってこんなにいい初登校はないだろう、なんてことを思いながら、俺は学校へ向かって歩いている。
高校という新たな環境に、期待や不安を抱くのはもちろん、高校というかけがえのない三年間を無事終えられるよう願ってい……
「え?」
俺は目の前の光景を見て愕然とする。
女の子が歩いている正面から、自転車が突っ込んできている……だと……!
自転車に乗った男はスマホをいじって女の子に気づいていない。このままじゃ、ぶつかる!!
「危ない! おいそこの女の子! 自転車来てるぞ!!」
俺は叫びながら、猛スピードで駆け出す。
くそっ! 間に合わないっ!
「え?」
やっと女の子は気づいたがもう遅い。
それから、ドンッっと大きな音がなったかと思うと、いつのまにか、俺は空を見ていた。腹部が猛烈に痛い。
ん?
あれ?
何で、俺が倒れてんの?
混乱した頭で状況を整理しようと試みる。
女の子が轢かれそうになってて、俺は助けようと走った。でもそれは間に合わなくて女の子は轢かれ……たのか⁉︎
あの女の子のことを思い出し、即座に起き上がる。もし、大怪我なんてしてたら……。
「おいっ、大丈夫か……いない⁉︎」
そこに女の子の姿はなく、俺の後ろには通り過ぎた自転車が走っているだけだった。
ぶつからなかったのか……? あの距離で?
どういうことだ? 考える、が、整理が追いつかない。
「あのー、大丈夫ですか?」
そのとき、ふと、右側から声が掛かる。そこには、俺と同じ制服を着た、一人の女の子がいた。
「あなた今、私に轢かれましたけど……」
「俺がお前に惹かれた? 何言ってんだ……初対面の人を好きになるわけないだろ……」
「あなたこそ何を言ってるのですか? 『惹』かれた、ではなく『轢』かれた、です」
しばし、考える。そして気づく。
「あーそういうことね……。だから俺は倒れてたのか」
「逆になんで今まで気づかなかったのですか」
うん。ほんとそれ。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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