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3 かいどう

「まさか、ここが、街ですか?」

「いいや、この先。ボクは前にも来たことあるんだ」

「つまり、街道……ですか?」

「かいどう? たぶん、そうだよ!」

「はぁ」

「ここがいちばん、街への近道だよ!」

「回り道しません?」

「ここしか、安全な道、ないよ? それとも、山、登る?」

「普通に街道を歩きましょう」

「わかった!」


 街道というには、あまりにも寂れています。

 蔦が生い茂り、草はぼうぼうです。

 あちこちを木が占領していて、足元は沼でぬかるんでいます。


「あっ、あの耳は!」

「え、どこですか? ……って、うわ!」

「ほら、あそこ、あそこ! あれ? こずえちゃん、どうしたの?」

「あ、足が、はまってしまいました」


 ぬかるんだ沼に、足がずぶずぶと沈んでいきます。


「待っててね、こずえちゃん。今、助けるよ! うわぁ!」


 メディアは蔦に足をとられて、宙ぶらりんになりました。

 どうやったら、そんな器用な体勢になれるのでしょうか。


「よ、姉ちゃん! いや、姉ちゃんってほどデカくないか」

「うわっ、びっくりしました! だ、誰ですか?」


 とつぜん足元から、少し大人びたお姉さんの声がしました。

 すると、沼が波紋をつくって、わたしの目の前にわたしが出てきました。

 沼の色をしていますけど……。


「どう? そっくり?」

「ひゃあ!」


 沼製のわたしの身体を突き破って、白髪のお姉さんが出てきました。

 わたしは動くことができず、ただただ、沼に沈んでいきます。

 頭に角が生えていて、左眼に星の文様が描かれています。

 全体的にすらっとしていて、黒くて、ぴっちりした衣服を身にまとっています。


「獣人さん……とは、違いますね」

「アタシは魔族だよ。そういうアンタこそ、珍しいね。何だろう」


 魔族さん、ですか……。はじめて見ました。

 わたしは蔦につかまり、自力で沼を脱出します。


「お、やるじゃん。アンタ、名前は?」

麦野梢むぎのこずえです」


 ディエスさんは、沼から出てきたのに、汚れひとつありませんでした。

 もしかして、もしかしたら、本当に魔法がつかえるのかもしれません。


「こずえさんだね。アタシはディエス、よろしく」

「はい、よろしくおねがいします!」

「じゃ、アタシ、用事があるから。お友達は……自力でなんとかしたみたいだな」


 わたしは小さくお辞儀すると、ディエスさんは沼に消えていきました。

 にこにこして手を振ってきたので、手を振り替えします。


「こずえちゃん、待ってよー!」


 わたしは、ヘロヘロになってやってきたメディアを引っ張り上げます。

 近くに生えている大きな草葉で泥を落とします。


「へぇー、魔族に会ったんだ。珍しい。ボク、会ったことないよ!」

「魔族さんって、珍しいんですか?」

「うん。街でも見かけないんだって。ツノが生えてて、眼がきらきらしていて、気が強くて、意外と優しくて、マホウが得意らしいよ! ボクが知ってるのは、それくらいかな!」

「へぇ~、魔族さんって、優しいんですね!」

「うん。本に書いてあったことだけどね!」


 わたし達は、無事に蔦と沼の地帯を抜けると、開けた土地に出ました。

 大きめのログハウスがぽつんと立っています。冷たい空気がおいしいのです。

 小屋の裏手は、断崖絶壁になっています。

 絶壁の付近は、白い岩肌がごつごつしています。

 澄んだ青空と、山の陰がくっきりと見渡せます。

 景色は木に囲まれていて、絵画のようにも見えます。


「きれーい! くうきが、おいしい!」


 メディアは草地に転がりました。

 白い小さな蝶が飛び交い、ところどころ花が咲いています。

 あとは短めの手入れされた草が生えています。


「ここが、街ですか?」

「うーんとね。街は、この下だよ!」

「うわぁ……」


 わたしは歩き疲れて、尻餅をつきました。


「あっ、こずえちゃん、さっき見えた耳!」

「みみ?」

「あれは、もしかして……、もしかしなくても……」

「ちょっと、お邪魔してみますか」


 ログハウスの窓越に、猫の三角耳が、ぴょこんと飛び出しています。

 わたしは立ち上がり、ログハウスの扉をノックしました。


「ごめんくださーい」


 しばらくして、ドアがゆっくりと開かれます。


「はーい、どちらさまだよぉ?」


 その子は、猫みたいな獣人でした。

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