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恋の伝道師・片桐上ノ助の独白  作者: 守田一朗
第1部 恋の伝道師と、その幼馴染と親友のお話
3/12

第一幕 誰がために、恋愛成就の鐘は鳴る2

 そうして、帰りのHRも終わり、下校時刻となる。今日も無意味で有意義な一日だった。あとはもう帰るだけである。世の高校生は絶対部活動に所属しているから、それぞれの活動に放課後は励まなければならない。ちなみにワタクシは帰宅部であったから、全力で家に帰らねばならなかった。

「夜野!帰って野球しようぜー」野球をするなら野球部に入れ、という人もいるだろうが、それは違う。パワプ○という対戦型の野球ゲームで我々は真剣に闘い、時にカーソルをぐちゃぐちゃと回転させすぎてデットボールをだし、殴りあいの喧嘩になることもしばしばだが、それはあくまでお遊びなのだ。本気でやるヤツの邪魔をしてはいけない。たまに、「サッカーしようぜ」と言ってウイ○レをやることもある。ファウルのしすぎで10試合中7試合は蹴りあいに発展して、残り3試合はジダン並みの頭突きを繰り出すのが常である。諸君がどれだけ我々のことを阿呆なやつだと思っても、それを馬鹿にしてはいけない。本気でやるヤツの邪魔をしてはいけない。

 これだけくだらないことを真剣に付き合ってくれるのが、夜野朝日という男である。ワタクシ恋の伝道師の無二の親友、そしてこの物語の主人公となるべき男である。

「わり、俺今日用事あるから先帰ってて」夜野はこのとき珍しく帰宅の誘いを断った。彼が学校に居残るということはほとんどない。自主的に図書室で勉強する輩に「家でやれよ」と水を差し掛け、教室にいつまでもだべって時間を潰す輩にも「家でやれよ」と毒づき、果てには部活動に精を出す輩にも「家でやれよ」と楔を打ち込む。そんな男なのである。お家大好きっ子かつお家万能主義の彼が、今日は学校で用事があるからすぐに帰れないとはどうしたのか。ワタクシは親友であるのだから、当然のごとく彼の異変をこのときいち早く察知してしかるべきである。

「おけ、じゃあな」ワタクシは何の疑念も抱かず帰路についた。


 彼と別れ、一人駅の改札前に立つ。定期券がない。バッグの中を漁り、ポケットをまさぐる。ズボンのファスナーを下げかけたところで、思いとどまる。どこかに落としたか。いや、違う。体育の授業だ。着替えるときに一度机の中に投げ入れた覚えがある。そうだ。めんど。戻らなきゃ。

 道行く同じ制服の人々と逆方向に進んでいき、再び学校に舞い戻る。グラウンドからは数多の部活動から汗臭い掛け声が聞こえてきた。軽音楽部の方からぷおぷおと1年生の初々しい自主練の音もこだまする。よく見たら3年の先輩だったが、それはいい。

 グラウンドを横目に、正面玄関から進入する。靴箱を空け、内履きをとる。念のため、恋文が入っていないか確かめる。よし、見逃していない。そうして、靴を履きなおし、校舎内へ入り、階段を駆け抜け、教室棟に着く。1-A、1-B、1-C……他のクラスの人はもう帰っていないようだ。空になった教室に、ふわりとゆれるカーテンの隙間から夕日が差し込んでいるのを見て、なんだか寂寞とした思いに駆られる。青春を堪能している気がした。無駄な感傷に浸りながら、いつも通り1-Dの教室を丁寧に空けようと扉に手を伸ばした瞬間、違和感に気付く。この教室の扉だけ仕舞っていて、人の気配をかすかに感じる。

 ワタクシはただの伝道師であって、別に拳法の達人でもなければ、超能力者でもない。が、第6感というモノをそのときは不思議と信じた。ナカニダレカイル。勝手に一人で怪談めいたことをして、妹と見た昨日のスプラッタ映画を思い出す。怖いとあほみたいに震える真似をした。バカをしている内もやはり時間は止まってくれない。

 下校時刻の予鈴がなり、一介の駆け出し伝道師の始まりを、その音が告げる。そして、その音をきっかけに意を決したのか、中から声が聞こえてきた。

「ずっと好きだった。ほんとに。その、で……俺と付き合ってほし、いや、ください」

 我が親友ながらぐだぐだの告白である。その声はみなさまご存知の通り、我が親友、夜野朝日のものであった。そうしてお相手の声が聞こえる。

「ごめん、気持ちは嬉しいけど、ちょっと考えさせて」

 嬉しいけど考えさせてとはどういう意味か。我が幼馴染ながら複雑な乙女心である。その告白のお相手は、みなさま先刻御承知の通り、ワタクシの幼馴染兼想い人、夕闇明美であった。

 放課後の教室は、秘密の始まりで満ち満ちている。


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