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恋の伝道師・片桐上ノ助の独白  作者: 守田一朗
第1部 恋の伝道師と、その幼馴染と親友のお話
2/12

第一幕 誰がために、恋愛成就の鐘は鳴る1

第1部導入部分なので長めです。

 物語は大抵、放課後の教室から始まる。日常にはない「秘密」がある。

それは好きな子のリコーダーかもしれないし、窓から聞こえるピアノの音かもしれないし、机の上に置き忘れてあるノートかもしれない。はたまた、恋の伝道師が語るからには、告白の現場かもしれない。

その日の午前中のことをよく覚えている。片桐上ノ助その人は心の内で大きく呟いていた。

「えっちなことがしたい!」と。

 クラスメイトたちが机の横を横切る中、そんなことを考える高校男児がいる。そんなことは日本全国毎日の中で決して珍しいことではない。甲子園で青春を馳せる球児が授業中は隣席の横顔に現を抜かすこともあれば、軽音楽でライブを見事に決めたドラムマンが放課後マックで頭のなかを桃色でいっぱいにしていることもある。

 世の女性たちは自覚せよ。そして、ゆめゆめ疑うことなかれ。君らがどう否定しようとも、君らは大層魅力的あるということを。

 だが、まあだからといって、精力有り余る高校男児の溢れんばかりの迸る情動を、表にだそうとする者はあまりいない。いや、思うは当人ばかりで傍からみたら、バレバレであるのかもしれないが、それはいい。どうせ、隠そうとしてもバレルなら、いっそ堂々としていたほうがすがすがしい。隠そうとするとどうしても世の人々は「なにかイヤラシイものを隠しているんじゃないかしら」と疑ってしまう。実際、イヤラシイのだが、隠すともっとそれはイヤラシイさが指数関数的に増していく。「俺はえろくねーし」と隠せば隠すほどである。

 世の男性諸兄は自覚せよ。ムッツリスケベは一番危険であると。女性にとっても心の内を隠す輩は怖くて仕方ないし、何より自分自身に嘘をつく男が魅力的なわけがない。だから、赤裸々に叫べばいい。そう、「俺はえっちぃのだ」と。これで野郎からの人気は鰻登り、世間からは冷たく見られること間違いなし。そうして、女子に嫌われろ。そうすれば君が自ら遠ざけることになった、恋愛劇場の椅子が一つ空く。その座はワタクシが頂くから安心して退きたまえ。ああ、みんな馬鹿正直に生きればいいのに。そうして、椅子を譲ってくれたらいいのに。


 クラスの女生徒の一人が声を掛けてくる。ハッと我に返る。あまりに阿呆なことを妄想していたから何かアブナイものが漏れでていたんではないかと不安になる。女生徒は言う。

「ジョーっていっつも何か難しそうなこと考えてるよね。何考えてんの?」

世の女子諸君に改めて言っておく。こういう何考えているかわからないやつは大抵何も考えてないからそういうことを聞くな、と。

「うーん、まあ、いろいろ」

「またエロいことでしょ?ジョーはそういうところあるからなあ」女生徒はにやにやして聞く。

「ばっ、んなことじゃねーよ。俺はえろくねーし」

 えー、ほんとー?と女生徒はにやにや笑いをしたまま聞いてくる。

 俺はそれを適当にあしらって、次の授業の準備を始める。

 女生徒はそれを見て、つまんないのー、と同じグループの女子の輪に戻っていった。


「明美ってジョーと仲良いよね」

「まあ昔から家近かったしね」

「え、じゃあ小中一緒?」

「そうそう、小学校は登下校の班も同じ」

「えー幼馴染ジャン」


 そんな会話が聞こえた。何を隠すまでもなく、ジョーとは、ワタクシ片桐上ノ助の高校時代のあだ名であり、明美とはその幼馴染の女の子、夕闇明美のことである。世の男性は、幼馴染なんてマボロシ!モウソウ!トシデンセツ!と声高に叫ぶが、ワタクシほどの伝道師となれば、このような幼馴染がいるなど当たり前のことである。

 むしろ、彼女がいたからこそ、この先ワタクシが恋の伝道師としての役回りを持って生きることになったのである。幼馴染がいるだけでもう勝ち組だと燻る、色々こじらせたコマッタさんには、このような問いを返そう。初めからいないのと、後から失うことのどちらが辛いのか。哲学的難問に悩むがよろしかろう。


 2限目が始まり、授業中に先ほどの彼女の言動を考える。もしかして、もしかして。休み時間中に、わざわざ友達との会話を抜けて、お喋りに来るなんて、アイツは俺に気があるんじゃないか?可能性はあるんじゃないか。

 恋の伝道師は、人の言動を深読みをするのが得意である。そして、それはただの願望であることがしばしばある。特に、自分が好ましいと思っている相手にその傾向は顕著である。

 どれだけ、頭のなかで空想と妄想を繰り広げようとも、時間は平等に過ぎていく。昼休みになり、3限の体育も終わり、4限・5限と日常は過ぎていく。恋の伝道師は想像たくましいが、行動に移すことには至って慎重である。脳内ではテロリストや謎の能力者集団に追われ、負傷しつつも彼女を懸命にかばい、手を繋いで勇敢に立ち向かっている。今第3章くらい。大スペクタルの長編映画の完成も間近である。

 そこまでショッキングなきっかけがなければ彼女と結ばれることはないのかとの突っ込みは受け付けない。何故ならこれは脳内のお話だから。世にある冒険物語の大抵は、主人公の戦う勇敢な姿に女の子は惚れてしまうが、日常に戻ったときに果たしてそれは長続きするのだろうか。一躍輝く英雄だっただけに、あぐらをかいてテレビを見るほんのりのした日々の仕草を見たときとのギャップは計り知れない。

 というわけで、脳内以外で、ワタクシは大げさに自分を取り繕ってよくみせようとはしない。そんな姿に惚れられても後が大変だからだ。決して、そうした姿を見せたくても見せられないわけではない。正直に生きる。せめて、ワタクシだけはバカ正直に生きてみせる。ありのままを愛しておくれよ。


次回からはもう少し細かく区切ってアップ予定。2部は書き終わってますが、掲載日は未定ですm(__)m

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