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プロローグ

「「「ギルティ! ギルティ! ギルティ!」」」


 民衆が騒ぎ立てる。

 その中心にいる男女数名はビクリと身を縮こませた。

 全員が制服姿で高校生だ。

 そのうちの一人が怯えた様子も隠さず、誰に言うでもなく言った。


「なあ……ここどこだよ」

「わかんないよッ! さっきまで公園にいたのに!」

「もしかして、拉致られた……?」


 その一言で一人の女性が膝をつき、泣き崩れる。


「あんたたちが面白いことするって言うからついてきただけなのに……」

「俺たちのせいかよッ!」

「お前も来たいって言っただろッ!」


 倍になって返ってきた言葉に女性はさらに泣き出す。

 それを見た一人は呟く。


「くそ……俺なんて完全に被害者だぞ……」


 その男も総勢十名ほどの男女のうちの一人だが、他とは完全に輪から外れた位置にいた。

 目を隠すような長い黒髪。

 比較的体格や身長の大きな他の男性陣とは違い、もやしという言葉がふさわしいような小さな身体をしており、どことなく陰鬱な雰囲気の男だった。


「はぁ…………もうなるようになれだ」


 泣き崩れるのではなく、もうお手上げだ、というふうに男は座り込む。


「結局、どこにいても自分はいじめられる側になるってのは決まってるしな……」


 座り込んだ時に見えた、自分が着ているズボンの人為的な破れ方を見て悲観的に呟いた。

 もう一度、深くため息をつくと、なんとなしに上を向く。

 ふと、一人の男と目が合った。


 同じく拉致――られたと思われる一人。

 坊主のような短い髪は茶色に染められ、俺は喧嘩が強い、と言っているような外見をした男だった。


 目が合うなり、ニヤリと意地汚く口の端をあげ、すぐに怒りの表情を前面に出す。


「あああああ! くそッ! なんでこんなとこに連れてこられなきゃなんねえんだよッ! 全部てめえのせいだぞッ! わかってんのかこらぁ!」

「ちょ……痛ッ……! 蹴らないで……!」


 座り込んだ陰鬱な男を坊主の男は蹴りあげた。

 一切、容赦のない蹴りが何度も腕や足、脇腹や頭に襲いかかる。

 止めるものなどいない。


「やめっ……痛い……」

「うるせえ!」


 頭をかばうようにした腕から他の男女がこちらの様子を窺っているのが見えた。

 つまらなそうにこちらを見る者。

 ニヤニヤと毛虫が這うような笑みで見る者。

 坊主に加勢しようかと思っているのか、そわそわとしながら見る者。



“どいつもこいつもクズばっかりだ……!”



 陰鬱な男がそう考えた時、どこか別のところからも同じ声が聞こえた気がした。

 しかし、それを追求する余裕もなく、蹴りは容赦なく襲ってくる。

 さらに芸と勘違いしたかのように、周りの民衆までもが今まで以上の熱気で連呼しだした。



「「「ギルティ!! ギルティ!! ギルティ!!」」」



 ここで死ぬか、民衆に殺されるかの違いだけ。

 そう考えると、身体の力が抜けて蹴りがさらに重く感じた。

 脇腹からめり込み、内臓が直接蹴り上げるような衝撃に陰鬱な男は呪詛ではなく、胃液と消化しきれていない昼食と、少しばかりの血がブレンドされた吐瀉物をぶちまけた。


「うげっ……足にかかったじゃねえかッ!」


 坊主がそう言ったのが遠くのほうで聞こえた。

 もう言葉を喋る余裕などない。

 次の蹴りで終わりかもしれない。



“みんな死ねばいい”



 とてつもない違和感。

 ほんの少しだけ、限りなく同時と言っていいほどのズレで同じ言葉が聞こえるのだ。

 蹴りが来ることなど忘れ、頭を守っていた腕を下して声の主を探す。


 声の主はいなかった。

 それどころか、蹴りを食らわせてきた坊主の姿も見えない。

 いや、いることにはいたが……坊主ではなくなっていた。



「きゃああああああああ!」

「うわあああああああああ!?」



 一瞬遅れて、他の男女がこちらを見ながら叫んだ。

 こちら、というのは陰鬱な男ではなく、坊主だった男のほう。

 鼻から上だけが爆発して消え失せたように、不格好な半円を描き、顔がなくなっていた。

 生死の確認など必要もない。

 ただの肉片と化した坊主を見て、


「おぇ……」


 もう胃液と血しか出てこないのにも関わらず、何かを吐き出すように吐瀉した。

 そんな中、民衆だけは騒ぎを止めない。

 同じ言葉を何度も何度も叫び、そして――



 ダンッ――と、一斉に足踏みをして、叫びが止まった。



 いじめっ子、いじめられっ子、もうそんな関係に意味などなかった。

 吐瀉物と坊主の肉片にまみれた顔をあげると、全員が同じことを考えていることだけがヒシヒシと伝わってきた。



 次は自分かもしれない。



 わけもわからずこんなところに連れられて、わけもわからず自分の仲間――自分をいじめていたやつが死んだのだ。

 自分だけが助かるなんて妄想ができるやつなどいない。


 しかし、泣き叫ぶこともできない。

 陰鬱な男がいじめられたように、目立ったやつが先に殺されるのだ。


 みんなが声や、音を出すこともなく、ただ静寂に包まれる。

 そして……コツコツと誰かが近づく音が聞こえてきた。



「やっぱり俺が……?」



 陰鬱な男が後ろから聞こえる音にそう呟いた。

 音は真後ろで止まる。



“ああ……! 死にたくない!”

“大丈夫”



「え?」


 今度は全く違う声がズレて聞こえた。

 はっきりと、大丈夫という声が。

 声の主は後ろの人物ではない。

 もちろん、拉致られた他のメンバーでもない。

 頭から直接聞こえてきたとしか言いようがなかった。


 そんな思考を切り離すように、後ろの人物が腕を掴み上げる。

 さぞ、醜悪な面でこっちを見ているのだろうと、恐る恐る見れば、


「ようこそ!」


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