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4 ギターを熱く語れる者は幸いである。…この莫迦者め。

 それからおよそ30分間、私たちは掃除に勤しんだ。気がつけば、そろそろ校内

にも早朝練習の体育会系の部員たちや、出勤途中の先生方の姿を見かける様になっ

てきた。

志賀君は相変わらずご機嫌で鼻歌。そんなに楽しみなんですか。そうですか。ふん。

「…時に志賀君」

「…へ?何ですか?」

「キミは、『アレ』はやらないんですね」

「…アレって何です?」

「ほら、よくあるじゃないですか。箒をギターみたいに構えて弾くものまね。昔から、男子がお掃除の時によくやる、定番のお遊びですよ」

「……。はぁ」

志賀君は、心底呆れた様な顔になった。

…むぅ。単なる思いつきだったとはいえ、確かに愚問だったとは思うが、何という顔をするのだキミは。

「…あんなのは邪道です」

「じ…邪道、なのですか?」

「邪道も邪道です!ギターという、人類がその悠久の歴史の中で生み出した、最高の楽器に対する冒頭だ」

「…そ…そこまで言いますか…」

「言いますよ!ああいうのはギターも弾けない人の、上っ面だけの戯れ事に過ぎないんです!左手のフォームがいい加減なのはもちろん、右手のストロークだってテキトーですし、第一右手と左手のリズムがまるで合ってない!」

「…で…でも、たかがお遊びなのですから…」

「たかが…ぁ?」

しまった。志賀君のヘンなスイッチを押してしまった様だ。

「お遊びって言いますけどね、自分はロクに弾けないくせに、人を小馬鹿にして『弾いてる姿がカッコ悪い』だの『弾けない自分の方がサマになってる』とか『お前の弾いてる曲なんて知らないから、上手いかどうかなんて分からない』なんて抜かす連中の、いかに多い事か!あいつらは、ギターの難しさなんて何も理解してないんだ!」

「…ちょっと…志賀君…?」

「ギターっていうのはですね、1本でメロディーはおろかベース・ラインやリズムまで再現できてしまう、素晴らしい楽器なんです。でもその分、実に色々な事を負担しなくてはならないんですよ?親指でベース・ラインを刻みながら、残る4本の指でメロディーとかコードを表現するのに、どれだけの集中力を要するか…そんな事も理解できない連中が軽い気持ちで言う事が、実はどれだけ高度な技術を要するか…」

…キミがどれだけギターを愛しているかはよく分かる。分かるがしかしそれを私に強調してくれなくてもよいのだが。

志賀君は、まだやれポール=サイモンがカントリーから受けた影響がどうだとかデルタ・ブルースのベース・ラインとギャロッピング奏法は似て非なる物だとかを熱く語っていた。…彼が言う事の、実は半分も私には理解できなかったが。

「…何だかごめんなさい」

「分かっていただければいいんです」

志賀君は、いつもの優しい笑顔に戻ったけれど。

…このギター莫迦。

その情熱を、少しくらい私にも向けなさいよ、もう。

志賀君のギター好きは今に始まった事ではない。ギターの事を語る時の彼の瞳が好きだ。

あんなにも、ひとつの事に夢中になれる姿は羨ましい。…それは、私にはない物だから。

「鬼橋 文」として生まれ、この歳までそれを人生の第一義として生きてきた私には、これまで夢中になれた物などなかった。

だから、彼のギターに向ける「短絡(ショート)」と言って比喩してよいほどの情熱は、しかし私にはある部分であこがれの対象でもあった。

…とは言えども。

何なのだ?このもやもやしたどす黒い感情は。

掃き集めたゴミをを片付けながら、私はそんな、よく分からない負の感情を抱いていた。

道具用具をしまうために、私は物置小屋の扉を開けた。

…思わず、また鮎子おねえちゃんがいないか確認してしまった。

…さすがに今度はいなかったが。

終了の挨拶を終えると、志賀君はそのまま自分の教室へ向かっていった。

「…志賀君にも困ったもんですよねー」

二人きりになると、真子がやってきてそう言った。

「…何がだ?」

「いえ、かいちょも気苦労多いなーって思って」

「気苦労などしているつもりもないが?」

私は(しら)を切ることにした。

「そうですかあ?」

「隠すつもりもないが、志賀君と私の間には、気を遣う様な物などない…その、ええっと、何だ…そう、『らぶらぶ』なのだぞ?」

この「らぶらぶ」という言葉を用いるのには、まだ恥ずかしさを伴う。恋愛道の初心者に過ぎない私には、まだレベルの高い専門用語であった。

「ラブラブ、ですかぁ」

「む…も、もちろん、ら…らぶらぶなのである」

「彼からキス迫られちゃうくらい、ですよね?」

「その話はもうよろしい!」

真子はなぜか、勝ち誇った様にえへへと笑った。何だか悔しい。

「真悟の彼女からも、よく相談されるんですよ、あたし」

真悟…ああ、真子の双子という弟君の事か。

「…どういう事だ?」

「真悟もけっこうなギター馬鹿でしてね」

…ほう。それは興味深い。世に(あまね)く存在しているギター莫迦どもの、がぁるふれんど殿たちが抱く共通の悩み…か。ぜひ拝聴したいものだ。

「ほら、ウチはエレキ・ギター禁止じゃないですか。だからあいつ、ウチを受験しなかったんですけどね」

…そういえば、真子の弟君は、本校の生徒ではなかったな。てっきり、双子が同じ学校にいるのは混乱を生じるから避けたのだ、とばかり思っていたのだが。

「弟君の学校はどこだ?」

「前橋の徳英です」

「ああ、私立か。それなら校則も多少は緩かろう」

「で、真悟はさっそくロカビリー・バンドなんか組んじゃいまして」

「ろか…びりい…?」

「ロケンローです。50年代の古き良きアメリカです。グレッチです。セッツァーです」

「…すまん。真子の言ってる事が分からない」

「…えっと、あ、プレスリーって知ってます?」

「…ああ、その名前なら知っている。ドーナツを過食して死んだという噂の歌手だな」

「…また、やけにヘンな情報を知ってるんですね。まあいいや。そのプレスリーのやってた様なジャンルの音楽です」

「む…すると弟君は卑猥な腰つきで、『ふんのふんの』とかいう珍妙な歌を歌っているのか」

「…真悟が聞いたら怒りますよ、その偏見」

「気を悪くしたのなら申し訳ない。…で、その弟君の彼女殿の悩みとは…何なのだ?」

真子は、人差し指を立てて、何やら自慢げにこんな言葉を口にした。

「『ギター弾きの恋人にとって、最大のライバルは他の女でなく彼のギターである』」

「む…?そんな言葉があるのか?」

「昔、どこだったか若死にしたギタリストがいて、その恋人が言った言葉だそうです」

「若死に…?まさかそのギター弾きの死因は、痴情沙汰ではあるまいな?」

「まっさかぁ。単なる麻薬中毒だそうですよ」

…こら待て。それだって過分な死因ではないか。

「ロックのセカイじゃよくある事ですって」

「そういう物なのか」

「はいです」

…何ともはや、恐ろしいセカイもあった物である。どこの無法地帯の話なのか。

「で、さっきの言葉とは、どういう意味なのだ?」

「ギター弾きは、女よりもギターを抱いている時間の方が長いって意味だそうですよ。その…ジミとかヘンとか言うギター弾きなんて、ガールフレンドが寝室をのぞいたら、ギターを抱いたままベッドで鼾をかいてたんですって」

「地味…?変…?」

…ずいぶんとけったいな名前のギター弾きだな。日本人なのか?まあ、ろっくなどという奇矯なセカイに生きる…いや、もう死んだのか…生きた様な人物だ。私の理解の範疇を超えていても仕方はあるまい。

「真子はろっくに詳しいのか?」

「いーえ、全然。真悟から聞いたんです」

「…しかしなるほど。言われてみれば心当たりもある」

「ええっ!?かいちょ、志賀君の寝室のぞいちゃったんですかあ?『私の時はあんなにも優しく抱いてくれなかったのに』とか思っちゃいました?」

「ばばばばば馬鹿者~!」

ぽかり。

私はまたもこの不埒な後輩の頭を小突いた。

「いったぁ~い!って、かいちょ、また2mくらい…」

「真子の後ろめたい感情が、この私をして現実よりも巨大に見えさせてしまうのだろう」

「うそだ」

「嘘なものか。常人が2mも飛び上れるはずがなかろう」

―――常人ならば、の話だが。

「志賀君は、あの時だってとても優しく私を…って、あ」

「ええっ!えええっ!?キスだけじゃなかったんですか!?」

…………むむむ。

「…真子。キミはとても優秀な書記だった。これまでのキミの活動は、私も評価する事に(やぶさ)かではない。これまで本当にご苦労。後の事は心配せず、安らかに眠るがよい」

「…ってかいちょ、やだ、目がマジですよ?」

「…私は常に真面目に生きているが?真面目過ぎて、一度思った事はなかなか変える事もできない頑固者で、私自身も少々困っているくらいだ。…くくく」

「あのすみません今の無しです!忘れます!忘れちゃいますから!ほらもう忘れた!」

なぜか必死に命乞いする真子。…何をそんなに怖がっているのだろうか。

その後、彼女の誤解を解くために、志賀君が、落ち込んだ私を優しく抱きしめて頭を撫でてくれた時の話をカミングアウトしたのだが、真子は、

「え?それだけ?それだけなんですか?それ以上とかそれより先は?」

とか言っていた。

…何か変なのだろうか?

恋人たちの睦事(むつみごと)とは、普通はそういう物ではないのか?

手を握って、甘い言葉を囁いて。

時々髪を優しく撫でてくれたりもして。

気分が高まった時は…その…ええっと…キス…なんかもしちゃったりして。

「まったまたぁ。かいちょったらご冗談ばっかり」

「私は冗談のつもりはないが…こら真子、何で私を、そんな憐れむ様な目で見るのだ?」

「…前言撤回します。気苦労が多いのは、むしろ志賀君の方だと思いました。…わりとマジで」

「どういう事だ」

「志賀君も大概ですけど、かいちょも御大層ですよ」

「だから、何を言いたいのだ?」

「うふふ。お二人はけっこうお似合いだってコト、ですよ…あ、赤くなった」

「うっ、うるさいな」

「大正から昭和初期なら、きっとベスト・カップルですよ」

「半世紀以上も前なら…?だからどういう事か説明しなさい!」

しかし真子は、あははーと笑いながら手を振ると、一目散に駆け出して行った。

…あの子は何を言いたかったのだろうか?

恋愛道道場の門を叩いたばかりの私には、まるで理解できなかった。


「―――という事があったのだ」

その日の放課後。私は副会長の(てつ)(がや)兼子(かねこ)を相手に、生徒会室で今朝のいきさつを話していた。

「くす。真子ちゃんらしいですね」

「真子は?」

「うーん…今日はまだ来てませんね」

…逃げたか。

「はい。お茶をどうぞ。お茶うけに湯の花饅頭もご用意してますけど?」

「あ、すまない。いただこう」

兼子は、信頼すべき優秀な生徒会副会長である。私と同学年で、昨年の生徒会役員選挙では私と会長の座を争った仲だ。

結果は運よく私が当選させていただいたのだが、会長による指名制度が採られている副会長には、私は迷わず彼女を指名させてもらった。

彼女の手腕には私も一目置いていたし、控えめな性格でありながら、実務では見事な采配を振るうその行動力も評価していたのだ。

長い黒髪の美しい彼女は、聞けば実家は利根の温泉の湯元の名家だという。

物腰の優雅さ、言葉遣いの丁寧さ。育ちの良さが立ち振る舞いの中に現れている。

…わが鬼橋家も、実家は和歌山で400年以上続く名家ではあるが…私は分家も分家、末端の高崎の家の出なので、あまりそういった優雅さとは無縁だと自覚はしている。

容姿だって…ちんちくりんの私などとは違って、兼子は出るべき所は出ているし、背も女子としてはかなり高い方だ。

「…なあ兼子。キミは志賀君の事は知っているか?」

「くす。存じておりますよ?堅物の我が生徒会長殿のハートを射抜いた、勇気ある1年生さんだという事くらいは、ですが」

「勇気ある…?」

「それだけ、それまでの文さんには、みな畏怖を感じていた、という事ですね」

「…どうせ私は『鉄血宰相』で『アイアンメイデン』だからな」

「私は、そのニックネーム、好きですよ」

「決して好意的な徒名ではなかろう?」

「でも、文さんの事を的確に表現していると思います」

「私の事などどうでもいいのだ」

「…もしかして文さん、ご自身は嫌われていると思われてます?」

「そんな徒名が付くくらいだもの、嫌われているとしか思えない」

「そうでしょうか?本当にそう思われてますか?」

「む…?」

「嫌われている人に票など集まらないでしょうし、彼氏さんだってできないですよ?たとえば毎朝の校庭清掃だって、見る人は見てくれてます」

「そう言ってもらえると嬉しい」

…そういえば、以前、志賀君も同じ様な事を言ってくれたな。

「…私は、少しくらい自信を持っても…よいのだろうか」

「よろしいのではありませんか?あまり慢心し過ぎるのも感心しませんけど…文さんの場合は、そんなにまっすぐな性格なのに、意外な所で臆病なのですもの…それに」

「それに?」

「それに、最近の文さんは角が取れてきたというか、とっても可愛らしくなって

きたと思いますよ?…言葉遣いは、相変わらず堅苦しいままですけどね」

「……」

私はどう答えてよいか分からなかったので、とりあえず兼子の淹れてくれたお茶を

いただく事にした。

…うん。彼女の淹れてくれたお茶は、いつも通り美味しい。

これが紅茶ならば、私の周りには鮎子おねえちゃんという名手がいるが、こと緑茶

ならば私は兼子の方に軍配を上げたい。聞くところによると志賀君のご尊父も緑茶

には一寡言あるみたいだが、そちらの方もいずれ一度はお点前をうかがいたい

ものだ。

湯の花饅頭の方も頬張ってみる。

口の中に広がる、控えめな甘さが心地よい。皮の香ばしさと相まって、絶妙の風味が癖になる味だ。

わが群馬県という土地には、むやみやたらと温泉が多い。

草津・四万・老神・猿ヶ京・鹿沢・川原湯そして伊香保。まだまだあるが、逐一

列挙してもキリがない。

特に伊香保は、私の住む高崎からも近く、私も子供の頃から、家族ぐるみで何度も

足を運んでいる。

長野県の下諏訪出身の鮎子おねえちゃんも、ここの湯がお気に入りで、私の家族が

ここに行く時は、ほぼ例外なく同行してくる。

和歌山のご本家に言わせると、「御主様を群馬から連れ出すには、伊香保温泉ごと

持ってこなくては無理」だそうだが…実際、鮎子おねえちゃん自身も、以前にそん

な事を口にしていた覚えもある。

そこの名物が、この「湯の花饅頭」。

世の中には「名物にうまい物なし」などという言葉もあるが、この饅頭に限っては

そんな風説も当てはまらないと思う。

ましてや、今、私が口にしているのは、伊香保でも老舗のお店の物だ。

この味を知らない上州人など、そう多くないと思う。

もちろん私にとっても、昔から親しんでいる、とても懐かしい味。

…む?そういえば兼子も、利根の温泉の湯元の出身だそうだが…よその温泉の

名物を出す事に、何か思う所はないのだろうか?

こう…ライバル意識的めいた感情とかも…あったりはしないのだろうか。

「くす。だって美味しいお饅頭じゃありませんか。食べるのに躊躇する道理なんて

ありませんよ」

兼子は、私の疑問がよほど愉快だったのか、くすくすと笑った。

…本当に、笑顔ひとつとっても気品がある。愛想笑いひとつできない私に

とっては羨ましい。

その時、午後5時を告げるチャイムが聞こえた。

…時計…?時計か。

あ…そうか。そうだった。

「もうそんな時間なのですね。そろそろ、彼氏さんもくる頃…文さん?」

「…む?ああ、どうしたのだ?」

「…何か、考え事をされてたみたいですね」

「むぅ…実は、今朝の事なのだが―――」

私は、己が不注意で、ママの思い出の目覚まし時計を壊してしまった事を話した。

こういったプライベートな話題も気軽にできてしまう所は、聞き上手たる兼子の

人徳なのだろう。

それにしても…恥ずかしい事だが、私はママから志賀君の話を聞いてから、すっ

かり浮かれていて、時計の事はすっかり忘れていた。

…もしかしたら、あれは私の性格を知り抜いているママの気遣いだったのかもし

れない、とさえ思ってしまった。

「…そういえば、兼子は時計の事にも詳しかったな」

「ええ…まあ。どちらかと言えば腕時計の方が専門ですけれど」

私は、あの目覚ましの特徴を思い出しながら話してみた。

水色をした小さなボディで、文字盤は金色。その文字盤の数字は3時間ごとしか刻まれておらず、上部には白い停止ボタン、背面には二つの大きなゼンマイと、アラーム時間を合わせるちいさなネジが、あたかも人の顔の様に配置されている。

「…それはおそらく、ドイツのWehrle(ウエラ)社製の物でしょうね」

「ドイツの…?舶来品だったのか」

「ウエラは世界最古の大物時計メーカーですよ。創業は…たしか1815年だったとか」

「1815年…!?そんな昔からあるのか。ナポレオンが失脚した年ではないか」

…何と、あの古びた時計に、その様な歴史があるとは思いもよらなかった。

そういえば、「鉄血宰相」というわが徒名の由来たる、プロイセンの宰相オットー=フォン=ビスマルクも、たしかこの年の生まれのはずだ。

奇縁を感じてしまうが、それにしても、さすが鬼橋本家にあったという逸品だけの事はある。

…もっとも、あの時計そのものは、その年に製造されたわけではないとは思うが。

「…やはり、値打ちのある品なのだろうか?」

「ええと…そんなに高価な物ではなかったと思います。年代物ですから、そういった意味では貴重品かもしれませんけれど…お値段よりも思い出が大きいのでしょう?」

「…その通りだ。アレのおかげで、私はこれまで規則正しい起床時間を保つことが

できたのだし…何よりもマ…いや、母に申し訳が立たない」

「ドイツ製らしい頑丈な作りの時計のはずですけれど…どうやって壊してしまった

のでしょう?」

私は正直に、ゼンマイを逆回しにしてしまった事を白状した。

「それは…いけませんねえ。ゼンマイ式は巻き過ぎるのはよろしくないですよ?ただ、逆回しでゼンマイが千切れてしまったのだとしたら、おそらくは経年劣化もあったのでしょうね…壊れるべくして壊れたのかもしれませんよ?」

「…とはいえ、直接の原因は、やはり私の不注意だと思う…どこかに修理できる方か、あるいは同じ物を売っている所を知っていないだろうか?」

「うーん…私も心当たりを、いくつか当たってみましょうか」

「お手数をおかけする」

「くす。いいんですよ。悩んでいる文さんなんて、滅多に見れるものじゃありませんから、私でよければ、喜んで協力させていただきますね」

兼子は優しく微笑んだ。

 その時、生徒会室の扉ががらりと音を立てて開いた。

「お待たせしました!文ちゃん先輩、見回りに行きましょうよ!」

と、元気一杯、ご機嫌な顔の志賀君がやってきた。

…こちらは、朝から浮かれっ放しだったのに違いない。

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