路地裏の薔薇姫
ツイッターのフリーワンライ企画様【http://twitter.com/freedom_1write】
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
に参加させていただいた作品です
使用したお題は
斜日の陽は影を伸ばして
路地裏の密会
花弁にキス
でございます
「カーネリア! カーネリア……ここにいたのか」
紺色の髪に銀の瞳の少年が、夕闇に染まりつつある路地裏で、うずくまっている少女に声をかけた。
少女は夕日に負けないくらい真っ赤な髪を持っていて、普段は高い位置で結い上げられているそれはくるくると独特のくせを持ったまま、膝を抱えて座り込む少女の顔をすっぽりと隠している。
「え、ジェフ!?……なによ、明日旅立つ私に餞別でも持ってきてくれたって言うの?」
皮肉げににらみつける少女の目元が真っ赤になっていることにはあえて触れずに、ジェフと呼ばれた少年――ジェファールは、カーネリアの真正面の地面に腰を落ち着ける。
「そうだな、8番街の女王様がいなくなると思うと清々するね」
「……私だって、好きで騎士育成学校に行くんじゃないんだからね。この間の武闘会をご覧になっていた女王様の推薦だから行くのよ。立派に女王様付きの近衛騎士になってやるんだから。ただの果物屋の娘が大出世よ!」
カーネリアは気の強い性格で3人の兄貴たちにしこたましごかれた跳ねっ返り娘
だがそのおかげでここ西の女王国城下街の8番街で餓鬼大将と呼ばれて自分より年下の子たちには崇拝されていた。
年上はこんな小さな小娘に泣かされた事も多々あるため、敵対心を持つ者の方が多かったが……。
そんな彼女の運命が変わったのは街の祭りのメインイベントであった武闘会
13歳以上の男性しか参加できないそれに、10歳で男装して出場したカーネリアは、力自慢の大男どもを差し置いてなぜか8強入り。
さすがにそれ以上上には進めなかったが、たまたまご覧になっていた女王様に見初められて、この国初の女性騎士団発足のために騎士育成学校に入校してくれないかと推薦状が届いたのが1か月前。
元々カーネリアはこの国の暮らしを豊かにしてくれた女王様を敬愛しており、いろいろ迷いながらも、女王様の元で働けると言う喜びには勝てずに、学校に行くことにしたのだ。
だがその学校は全寮制。家族と離れ離れになる悲しさを感じながらも刻一刻と入校する日は近づいていき、ついに明日となってしまった。
家族や親しい友達を集めて小さなお祝いがもうすぐ開かれるのだが、肝心のカーネリアがいない。
そこで探してきてくれるように頼まれたのがジェファールだった。
ジェファールはカーネリアと同い年の少年で、王室御用達ともいわれる菓子屋の少年である。
カーネリアとも家が近いため昔から大層仲がいいのかと思いきや、拳でしか語り合えない素直じゃないカーネリアと、不愛想で言葉足らずなジェファールと言う組み合わせは、会えば喧嘩腰に言い合いをするような仲になってしまった。
周囲は「喧嘩するほど仲がいいって言うものね」とたいして気にはしていない。
そうでないと浮き沈みの激しい王都で商売などできやしない。
「まったく、8番街総大将の名をジェフに譲ってあげたんだから、ちゃんとみんなを守ってやりなさいよ。でないと帰ってきてぶっ飛ばしてやるんだから」
「はいはい。強がんなくてもいいからこれで拭けよ。鼻水出てんぞ」
「ちょっと! デリカシーってもんは無いの?」
ジェフが差し出したハンカチをひったくるように奪うと、ごしごしと鼻をぬぐって、ついでに涙の後が付いているかもしれないと目元も綺麗な面でぬぐう。
「別にいつ帰ってきてもいいんだから泣くなよ」
「泣いてなんかない!」
「……まぁ、いいけどさ」
そこまで言うと、ジェファールは夕日の中でも顔色が分かるくらいに赤くなり、ずっと後ろに回していた左手を前に出した。
その手には真っ赤なバラが一厘握られていた。
左手をそのまま顔の近くまでもっていき、花弁の密集した中心に軽く口を付けると、そのままカーネリアの口元にそれをくっつけた。
驚いたカーネリアは動くことが出来ずに、ただただその行為を受け入れただけだった。
カーネリアの耳に引っ掛けるようにバラを差し込み、髪飾りのようにしたところで、ようやくブリキの人形のように、ぎぎぎとカーネリアが動いて目線を合わせた。
「な……ど、どういうつもり?」
「ん? おまじない」
ジェファールはその時、顔を真っ赤にさせて自分を見つめるカーネリアが、普段の凶暴さなんてどこへ行ったのかと思うくらいに、可愛らしいお姫様のようだと思った。
逆にカーネリアは、くすりと微かな笑みを浮かべるジェファールが大人っぽく見えて、その見たことがない格好よさに見惚れていた。
「何? 本物が良かった?」
ぷにっと乙女の唇を人差し指でつつくジェファールに、カーネリアの羞恥は最高潮の状態となって……。
「ジェ、ジェファールの……馬鹿ぁぁぁぁ!!!」
ばっちーん!!
_________...
「あー、相も変わらず暇ですわね。もうそろそろ貴女との会話のネタも尽きてきましたわね」
「そりゃあ10年一緒にいますからねぇ。それにここ3年はずうっと扉の前で護衛するパートナーだしね」
宮殿の奥深く、女王陛下が執務をされている扉の前。
金色の髪の女性と、赤毛の女性が重厚な扉の左右に立っていた。
「ネリアはそろそろ生活面でのパートナーも出来るのではなくって?」
金色の髪の女性はエリーゼと言い、カーネリアと同じ時期に女性騎士になるために入校してきた、元は貴族筋の女性であり、その頃からずっと二人で組んでいる。
「な! 何よそれ! エリーゼじゃあるまいし、そんな予定なんてないんだから!」
「あら、でも噂では……」
その後に続いた信じられない言葉に顔を赤くしたり青くしたりしながら仕事を終えると、すぐさま彼女は噂を流したであろう人物の元へと飛んでいった。
場所は王宮内の財務省。
すっかりそこの人たちとも顔なじみになったカーネリアが豪快に扉を開くと、近くに座っていた男性が一瞬ぎょっとして、すぐさま「彼ならいるよ」とでも言いたげに顎をしゃくった。
お言葉に甘えてつかつかとカーネリアが向かう先は、財務長補佐の席。
紺色の髪と銀の瞳を持つ、王宮屈指の麗し人は、まるで彼女が来るのを解っていたかのように、驚くそぶりさえ見せなかった。
「どういう事なの。ジェフ」
「もうそろそろ君につりあうようになったかなって思ったから、結婚を申し込もうと思ってね」
「……っふざけんじゃないわよ! 百歩譲って、申し込みを受けるとしても、何でその話が私には来ないで、王都中に広まりまくってるのよ! あの世間慣れしていないエリーゼの耳にまで届いているなんて異常だわ!」
「だって外堀から埋めていかないとリアは捕まえることなんてできないだろ」
昔したように、ちょんとカーネリアの唇に人差し指をジェファールが当てると、それだけで何もしゃべれなくなる。
「もうそろそろここに正式に触れる権利をくれませんか? 俺の薔薇姫」
「……しょうがないから、あなたの物になってあげるわ」
この平手打ちの後でね、と言うが早いか、ジェファールの左頬にモミジが咲いた。
唐突に始まるどうでもいい登場人物紹介も兼ねたあとがき
カーネリア・ユーリフォン・ロックス(ネリア、ユーリ)
橙色の少し癖がある髪、黄緑色の目
国で初めて採用された女性騎士、女王陛下を守るエリート
幼い頃から苦労したので男を信頼はするが信用はしない。男所帯で育っているので何かが足りない
平民上がりだが、陛下の警護をするために一代限りの爵位を賜っている(子爵)
ジェファール・セレウス・ライモンド(ジェフ、セス)
紺髪銀目
それなりに腕っ節は強いが騎士になるほどではない
計算が得意で財務省に務めるエリート
家は平民だが、叔父が準男爵。でも王宮に勤めている時点で爵位なんて関係ない、ってか関係なくさせた(黒い)ぶっちゃけ財務省の省長補佐っつー役職だから事実上のナンバー2
おしとやかな子が好きだと思っていたからリアの事が嫌いだと自分でも思い込んでいた
リアの泣き顔に弱い
……と言う昔の設定を引っ張り出してきて今回使用
でも本文はきちんと60分で書いたし、セーフだと思いたい
本当はジェフこんなフェミニストじゃなかったのに……
30分前にお題を見てこいつらを思い出して設定資料どこのサイトで保存したかを慌てて探したとかここだけの話(爆)
世界観
・魔法が使える
・魔族はいるが、時空を隔てた先にいる。悪さはしないし、むしろ友好な貿易相手
・ミドルネームに当たる部分は伴侶にしか教えない。なので結婚後はお互いを「ユーリ」「セス」と呼ぶ
・西の女王国は、元は女王が隣の帝国から嫁いできた女性であるが、この国の国王が後宮に入り浸って執務をおろそかにするぼろくそ……であったため、「お前にこの国任せとけんわー!!」と女王がほとんどの執務を行っている国。当然国民は女王推し
・そのため国中に女王崇拝者がいる。カーネリアもその一人
・エリーゼは後宮生まれの姫君。だが母親が寵愛されなかったために母親の死後生母の実家に戻されてその後騎士学校へ。隣国の敏腕公爵様に拉致られて幸せになる
実は同じ世界観の物語がいくつもあるが、どれも書き出しで躓いていると言うどうしようもなさ
もうそろそろ企画じゃない物語あげたい(遠い目)