こんにちは異世界
それは普通の、ほんっとうに何もない普通の日でした。朝起きて顔を洗う髪を梳かす等の身支度を終え、扉を開けたら。
そこは異世界でした。
さて改めまして、私は凪沢奏。そこら辺にうじゃうじゃいる一般人Aです。年齢は16。花も恥じらう女子高生。部活は無所属、委員会は生徒会会計監査。ちなみにじゃんけんで負けました。自ら志望したわけでは決してありません。学力平均運動平均、普通の枠からはみ出ない私ですが、今回はそうもいかないようです。
……ここ、どこですかね?
黒とグレーを混ぜた色の冷たい石畳、同じ素材の壁。なんとも寒々しい小さな部屋の中央に、白く光るよくわからない模様のような文字のような何かの羅列。それは円と線で囲まれていて、そしてその真ん中に、ドアと私。真正面に、ばっちり目があってしまった青年。
失礼、説明がたりませんでしたね。皆さんは某有名アニメの青い狸っぽい猫型ロボットがよく使う、ピンク色のどこへでも行けてしまうたいへん便利なドアをご存じでしょうか。私の状態はあれによくにています。ただしドアは普通にベージュですが。
まあ、そんな奇妙な状況なわけですが。どうしましょう。ドアを閉めるべきでしょうか。後ろを振り返って自分の部屋ではなかったら私の精神はもたないでしょうね。青年に話しかける……のは、地雷な気がします。だって金髪ですよ、金髪。言葉が通じなかったら、スルーされる事になる私は気まずすぎます。おそらく染めては無いでしょうね。生徒会の風紀検査で培ったスキルがこんなことで発揮されるとは思ってもいませんでした。全く役にたちませんがね。というか本当にどうしましょう。ドアノブに手をかけて一歩踏み出しているこの体勢って結構つらいんですよ。足がぷるぷるしてきました。
「殿下!こんなところで何をしているんで、す……か」
一向に変わる気配の無い空気を壊したのは私でも青年さんでもなく、緑の髪をした……ええっ、緑?
「ああ、いや、えー」
あーとかうーとかもごもご言っている青年さんをよそに、私の頭は意外と冷静に回ってくれました。え、今までも十分冷静だったって?いやだなあ、どこがです?
「……と、りあえずお嬢さん」
「はい」
「色々あるでしょうが、まずは部屋を移動しましょう」
状況がわかったのか、緑さんに話しかけられ返事を返したところで、私はやっと言葉が通じている事に気づきました。なるほど、やはり私も結構混乱しているようです。理解しがたいこの状況に溜息をつきながら、私はぎこちなく前を歩く青年さんと緑さんに続きました。