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スリースターズ  作者: カミハル
成長と出会い、流れで喧嘩
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一ヵ月後

 第二章~成長と出会い、流れで喧嘩~



そして、あの日から一ヶ月。

 日が落ち、暗くなった外を眺める。

 訓練施設があるビルから徒歩五分の場所にある寮に、ヴァインは部屋を与えられた。

 両手に魔力球を出現させ、周囲を浮遊させている魔力をコントロールする。

 今では魔力の扱いにもかなり慣れた。

 この一ヶ月、これこそが地獄なのだろうと思わせる日々を経験させてもらえた。実際、魔力コントロールを上達させなければ今でもデッドオアアライブな毎日を過ごしていたことだろう。

 あれからリアンに言われた。試験の時は、自身の魔力に制限をかけていたのだと。

 どれだけ絶望しただろうか、勝てる見込みがまるでないと思っていた相手の本当の力はあんなものではないらしい。

 しかし、本当の絶望はそこからだった。

 レイラとの共同、ガチンコ訓練。

 魔力もろくに扱えず、何度地面を転がされ、何度骨を折り、何度気を失っただろう。

 その度にティナの治癒魔法で癒され、一時間以内に地獄へと強制帰還。

 朝の八時から昼まで、一時間の休憩を経て、一時から六時まで。リアンとの実戦訓練も含めれば、洒落にならないほどの重傷をこの一ヶ月で何回も経験した。

『そのおかげで魔石開放も自由自在、魔法もずいぶんと上達したじゃないですか』

 エスクリオスとの会話もかなり慣れた。

 脳内で語りかける念話と、普通に語りかける震動会話もできるらしいが、エスクリオスから話しかけられる時は念話が多い。

 一ヶ月前までは魔力と言われてもピンと来なかったが、あの訓練を経れば嫌でも理解させられた。

理解しなければ待つのは死なのだから。

「何度三途の川を覗いたと思っている。逃げてもアウト、攻めてもアウト、となれば練度を高めなけりゃとてもじゃないがやってられねえ」

 魔力球がヴァインの周囲を漂い、空中で衝突し、弾け合う。

 これだけでも、習得するのに三ヶ月はかかると言われているが、三ヶ月もかけていては間に合わない。

 死や危険は確実に迫っているのだから。

 再び、魔力球を生み出し、片手で三つの球を操り、開いた手でリジェクトしたエスクリオスを掴み、観察する。

「お前はなぜ、俺をこの世界に連れてきた? 理由をまだ聞いていなかったな」

 後に知ったことだが、ヴァインが今いる世界は、ヴァインが前にいた世界を含め、多数の世界を管理する、管理界だと教えられた。

 管理界で任務を受ければ別の世界へ飛び、遂行する。いずれ機会があればヴァインの住んでいた世界へ帰ることも可能らしいが、入隊し、研修中というのもあり、未だに帰ることができていない。

『逢いたい人がいるんです。管理界ならあの人の足取りが掴めますし、あなたなら必ず惹きあうと思ったんです』

 エスクリオスの逢いたい人、それが誰かまでは問わなかった。

胸元から広がる、寂しさと呼ばれる感情がヴァインに伝わったせいもある。

「ふぅん……それじゃあなぜ俺は、魔石エスクリオスを扱うことができるんだ?」

 リアンが不思議がっていた。

 魔石生成は、術者の体内に存在する魔力が結晶化し、生み出されるらしい。

 その魔石は術者の魔力でしか呼応せず、他人が手に入れても魔力を貸してはくれない。それどころか拒絶反応を起こすことさえあると言うのに、ヴァインは得体のしれない魔石、エスクリオスを扱うことができる。

 リアンが真剣に悩み、何度も解析しようとしたが、やはりエラー。未だに謎のままだ。

『私にもはっきりとは……でもあなたからは懐かしい魔力を感じるんです』

 そう言われても、やはり解からない。

 嘘ではないのだろうが、それでも理由がわからなければ、同じことだ。

 そこへ、不意に部屋のドアがノックされた。

「どうぞ」

 三つの魔力球を掻き消し、入室を許可する。

 同時にドアが勢いよく開かれ、ジーンズと真っ赤なジャケット姿のレイラが入ってきた。

「どうした? デレのないツンデレ。悪いが身長の伸ばし方の伝授なら勘弁してくれ、お前には才能がない」

 身長百四十程度のチビッ子を軽くあしらってみる。

 この一ヶ月でわかったが、レイラは常に怒ったような顔で素直に笑ったりしたのを見たことがない。

 意地っ張りが人の形をしている、そんな少女だ。

「ずいぶん好き放題言ってくれるな? 何だったら俺の魔石解放でペチャンコにしてやろうか?」

 胸倉を掴み、開いた手で魔力形成されたナイフを喉元にヒタヒタと近づける。

 ちなみにレイラは本気で喉を突いてくる。

 平然と、殺気を放たずにヴァインを刺すだろう。

「わかった、十五歳でその身長は可哀想を通り越して悲劇だよな。悲観する気持ちはわかるが俺に八つ当たりするな」

「さようなら」

 冷ややかな別れの言葉と共に、躊躇いもなく手に力が込められる。

 しかし、魔力で作られたナイフはその姿を保てず、ガラス細工のように砕け散った。

 ヴァインの首だけに張り巡らせたシールドが、ナイフを無力化し、構築された魔力を掻き消す。レイラもそれがわかっているから、躊躇いもなく手に力を込めたのだろう。

ヴァインはそう信じていた。そうでなければ付き合いを変える必要があるだろう。

「それで、何の用だ? わざわざ人様に殺人未遂をかましに来たわけじゃないだろ?」

 一筋の冷や汗を隠しながら用件を尋ねる。

 わかっていても、魔力コントロールが少しでも失敗すれば頚動脈を切断されていたのだ、さすがに冷静でいられるほど人間ができていないし、そう在りたいとも思わない。

「ああ、もう一つのチームが帰還したから紹介も含めて俺たちに任務が下ったらしい。それのミーティングがあるからブリーフィングルームに集合だそうだ」

「ほう?」

 初めての任務にヴァインの気が引き締まる。

 さすがにいつもの軽口でレイラをからかう気にはなれず、立ち上がり、ジャケットを羽織る。

「んじゃ、行くか。もう一つのチームに挨拶しなけりゃな。どんな挨拶がいいだろう?」

「知るか、開口一番にかかって来いって言えばいいんじゃねぇか? インパクトは絶大だ」

 くだらない会話を交わしながら、レイラの前を歩く形で部屋から出る。

 部屋に鍵はついているが、ロックしたことはない。盗まれる物もないし、この寮内にはやはり女性ばかり、好き好んで入ってくる者はいない。

 慣れた通路を通り、玄関から表へ。

 そこから歩いて五分。ビルに辿り着き、エレベーターに乗ってすぐの部屋。

 今まで後ろを歩いていたレイラが前に出てドアをノックする。


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