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スリースターズ  作者: カミハル
魔法と新世界、ついでに魔石
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入隊試験開始

「うん、それじゃあこれから簡単な入隊試験を受けてもらうよ? さっきレイラと闘った場所で実施するからついてきてね」

 思案した末に結論を出し、歩き出すリアン。

 その後をついて歩くヴァイン。

 成り行きとは言え、盗賊団で盗みに入っていた自分がずいぶんおかしなことになったものだと、本日何度目かの苦笑を漏らす。リアンには気づかれていないだろうが、聞こえていたらさぞかし、不審に思われてしまうことだろう。

「そういえば言い忘れていたけれど、私とレイラ以外にもう一つチームがあるの。二人とも女の子だけれど、いい子たちだから試験に合格したら紹介してあげるね。今は出張中でしばらくは帰ってこられないけれど……」

 残念そうな口調、心から紹介したいのだろう。そんな雰囲気が漂っている。

 ヴァインから見て、リアンは本当に綺麗な女性に思えた。容姿もそうだが、心も向こうの世界の住人よりもずっと澄んでいる印象を受けてしまう。環境のせいもあるのだろうか。

 先ほどと同じように通路を歩き、辿り着いた部屋は、緑の多い公園から一転し、無機質な機械だけの寂しい空間になっていた。

「レイラ、メニューはこなせたの?」

 入り口のすぐ横でへたり込んでいるレイラに声をかけるリアン。肩で呼吸している点から、かなりの運動量をこなしたようだ。

「ああ、訓練履歴で確認してくれ。ストレッチも終了したぜ」

 長方形の薄い板を放り投げ、リアンの手に。

 ホログラフパネルが現われ、それを操作するリアン。

 魔法もそうだが、科学技術もヴァインが見たことのない品が多い。驚きの連続だ。

「うん、よくできました」

 子供を褒めるように頭を撫でる。

 それを恥ずかしそうに振り払おうとするレイラ。実に微笑ましい光景だった。

「それじゃヴァイン君、部屋の真ん中にある魔法陣の上に立ってね。レイラは休憩を兼ねて見学、これからあの子の入隊試験を始めるから」

 促されるまま、魔法陣の上へ。

「おいおい、入隊試験って……いいのか? 素性も得体も知れないのに」

「それを計るための試験だよ。それにこのままその辺に放り出すわけにもいかないしね」

 魔法陣の上で、成り行きを見守る。

 それにしても、リアンといいレイラといい、新しい服と、髪型になんのコメントもないのが実は寂しく感じていたりする。

「それじゃ、空間変異を実行するから目を閉じてね」

 リアンに言われるがまま目を閉じる。

 空間変異の説明を求めようとしたが、これ以上説明されても受け入れる自信がないので、頷くだけに留めておく。

「はい、もういいよ」

 言われて目を開く。

 荒廃した景色。廃墟と化したオフィス街が広がり、無機質な機械だらけの部屋とはまた違った、寂しい景色。それでも澄んだ空気までは変わっていない。

「この部屋は訓練室で、景色と広さを空間変異で調整できるの。今回は廃墟のフィールドと、広さは周囲五キロ。どれだけ暴れてもこの部屋の壁に張り巡らせてある魔力無効化シールドが掻き消してくれるから、ビル自体が崩壊することはないよ」

 そう言いながらフィールドに飛び降り、こちらに手を突き出すリアン。言外に、どれだけ暴れても良いと言われている気がした反面、思いっきり暴れてやると宣言されているようで、少々腰が引けた――

「って! あんたが試験官か……」

 先ほどのレイラとの戦闘を思い出す。

 気を抜けばボコボコにされてもおかしくなかった。あの少女の教官が相手となると、一瞬の選択ミスが敗北へと繋がる。

 しかし、ここで退いてはエスクリオスとの約束が果たせない。

 仲間を助けてもらった借りがある。

「上等だ。借りっぱなしは嫌いでね、意地でもあんたをぶちのめして合格してやる」

 腰を落とし、どんな攻撃がきても回避できるように準備を整える。

『ヴァインさん、入隊試験を受けるついでに私からもお願いがあるのですが』

「なんだ?」

 空気を震わさず、脳内に直接響く声に小声で返事。これ以上の面倒事は勘弁だが、このタイミングでの申し出だ、必要な事なのだろう。

『私からも試験を出します。一つは相手に素手で良い攻撃を入れる。二つは相手の攻撃を完全に防ぐ。三つは魔力を体の部位に込め、肉体強化。この三つです』

 ヴァインからすれば、ずいぶんな無理難題に思えた。一つ目の素手で攻撃を食らわせる。

 レイラに弾かれた一件を思い出す――難題だ。

 二つ目は、原理のわからない魔法攻撃を受けるのは心から恐ろしい。

 三つ目に至っては、どうすればいいのかすらわからない。

『先ほど、魔力を放出したプロセスと同じです。イメージです、足なら足に体を流れる何かを集束させるイメージ、それだけです』

 盗みに入り、品物を鑑定しながら逃走経路の思案や、警備員を足止めしながら仲間たちの動向を思案する。戦闘中にイメージを浮かべるのは簡単だが、信用できない未知の力を思い浮かべるには相当苦労しそうだ。

 特にバリアを張るのは、敵の攻撃に自分の身を晒さなければならない。

 回避不能ならばともかく、回避できる攻撃をバリアで受け止めるのは、無駄な行動にしか思えないが――

「それじゃ、行くよ」

 ――リアンは待ってくれない。

 レイラと違い、驚く間もないスピードで魔法陣が出現、魔法を発動させた。

 回避行動のため、重心を移動させていなければ直撃していただろう。

 余波だけで体が木の葉のように浮き上がる。

 衝撃に体を玩ばれながらも視界に収めたのは、地面に現われた無数の魔法陣。

「ちょ……マジか!」

 思わず毒づく。効果は分からないが、動かなければ確実に直撃するだろう。当然だ、そのための攻撃なのだから。

「うらぁっ!」

 ビルに叩きつけられる間際、壁を思いっきり蹴り、体の軌道を変える。

 魔法陣からは、空へ昇る純白のレーザー。

 しかし、回避したからと安心はできない。

 先ほどの攻撃は、リアンが腕を振り上げた瞬間に地面から攻撃が来た。そして今、上げた腕を振り下ろした。

 嫌な予感がし、空を見上げる。

 立ち昇った真っ白い光の帯が軌道を変え、ヴァイン目掛けて降り注ぐ。

『盾をイメージしてください!』

 言われるがままにイメージ。

 目の前に現われた真っ青なシールド。

 五本のレーザーを受け止め、掻き消すことはできたが、踏ん張りの利かない空中で攻撃を受け止めたため、地面に叩きつけられてしまうことになったが、直撃を受けるよりはマシだ。

『完全かどうかは怪しいですが、条件の一つをクリアーです。力の一つを解放します』

 脳内に響く声。同時に衣服が青い光に包まれ、姿を変える。

同じようにエスクリオスが露出するほどに胸元が開いた黒いシャツと黒皮のズボン、皮のベルトが装着され、青い柄が白を際立たせるよう、申し訳程度に装飾されている白のロングコート。

『よくお似合いです』

 礼を言いたいが、ロングコートがヒラヒラして動きづらい。機動性よりも外見に拘った感が強い一品だが、手の込んだデザインにどれだけの思考と努力を注ぎ込んだのだろう。

 しかし、状況はヴァインにそんなことを考えさせる時間を与えてはくれない。

「シェイク・ホーリー」

 リアンが叫ぶ。

 同時にヴァインの四方、上下左右に魔法陣が出現。

『盾じゃなく、身を包む鎧のイメージ』

 言われて、反射的にイメージ。

 後に知ることになるが、正面に跳んでも魔法陣が移動する追尾型の魔法攻撃らしい。下手に回避行動をとっていれば、この時点でゲームオーバーだったわけだ。

 となると、エスクリオスの判断は正しかった。


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