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スリースターズ  作者: カミハル
魔法と新世界、ついでに魔石
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入隊希望

 これでもかと言うほどのファンシーグッズ。

 クマやウサギのぬいぐるみにレースのカーテンと、ピンク、白が基調の部屋。

「ここが私の部屋です。先ほどレイラさんとの戦闘で泥だらけですのでこちらへどうぞ」

 ドアを開けた先には洗面所。

 もう一つドアを開くと、湯気が立ち込める浴場だった。

「服はこちらのかごへ、着替えの新しい衣服はこちらで用意いたしますので」

 言われるがまま、湯に浸かるヴァイン。

 魔法や魔石のことよりも、こんな待遇を受けていることに驚いた。

 ヴァインの知っている世界では、人間は身内でも信用してはいけない。そんな言葉があるほどに冷たい世界だった。しかし、ここはどうだろう。

 温かい。そう感じられる世界。

 確かに気になることは山ほどある。

 なぜこの世界に来たのか、先ほどのビームやバリアが魔法なのか。ヴァインが想像する魔法は、火を噴いたり雷を落としたり、そんなファンタジーなイメージを抱いていたが、今のところお目にかかれていない。

 ふと気になって胸元を確認するが、エスクリオスが埋もれていた場所に異常はないし、窪みもできていない。

 エスクリオスが言うには向こうの世界の仲間たちも、無事に逃げ延びることができたようだし、不満は無い。

 むしろ、地獄を覚悟していた身としては逆に不安になってしまうほどの待遇だった。

「むぅ……そろそろ出るか」

 色々考えているうちに、長湯しすぎてしまったようだ。

 洗面所に置かれたバスタオル。

 人が来た気配は感じなかったが、いつの間にか衣服まで用意されていた。

 ちょうどエスクリオスが露出するほどに胸元が開いた赤いシャツと黒いズボン、白皮の鳩尾辺りまでのショートジャケット。

 無骨なまでに皮のベルトが装着されたブーツ、もしもこんな格好をした自分をエリックや他の仲間たちに見られればなんと言われるだろう――想像しただけで、小さく笑ってしまった。とてもじゃないが、見せることはできない。

 着替えを済ませ、部屋に戻ると、ティナがはさみやくしなどを用意し、待っていた。

「あら、よくお似合いです。男物がそれしかなかったものでずいぶん悩みましたが、お似合いならよかったです。どうぞこちらにかけてください」

 似合っていると言われ、不覚にも少々照れてしまった。そんなふうに言われたことなんて今までなかったせいでもあるだろうが、こういった格好をするのも始めての経験である。

 照れて上気した顔を隠すため、俯き加減に椅子へ座り、正面の鏡を見る。

 真っ黒なボサボサの髪に、今の服装は笑えるほどに不釣合いだった。

「それでは、カットさせていただきます。なにかリクエストはございますか?」

「ええと……悪い、髪形とか気にしたことがないから……ティナさんに任せる」

「かしこまりました」

 笑顔でそう答えるティナ。

 鏡越しで見た表情は、新しいおもちゃを手に入れた子供のように嬉しそうに見えた。

 その後は、驚きの連続だった。

 手に光を灯し、ヴァインの癖毛を一撫でするだけでサラサラの髪質へ変化させたのだ。

 魔法と超能力は紙一重なんだなと関心しながら、切られていく自分の髪を眺めていた。

 ティナの手際は見事なもので、散髪はあっという間に終わってしまった。

 伸びきった後ろ髪は肩甲骨までの短さにカットされ、流れるようにジャケットの上を這う。

サイドの髪はそのままの長さで残し、別の紐で一本に束ねる。

 彼女が言うにはこれがベストらしいが、どう考えても悪戯心が生み出した産物にしか見えない。もしかすると服装のセンスといい、もしかするとこの世界の人間とは感性が微妙にずれているのかもしれない。

とは言え、あまり髪型には関心がないので、満足した表情で礼を言う。

「髪の色も変えますか? お勧めは銀色です」

 ヴァインは悩んだ。現段階で十分に面白い姿に変貌してしまっているのに、これで髪の色を染めればどうなるのだろう。下手すればヴァインと分かってくれる知り合いは皆無になってしまうかもしれないが――

「それじゃ、それで」

 ――それでも興味はあった。

 服を着た段階では恥ずかしかったが、髪を切っていくうちに、どんどん自分の容姿が変わっていくのが面白かった。要は興味本位だ。

 そして――

「完了ですね。ちょうど連絡が入りました」

 ――元の面影はない。別人だ。

「ありがとう、なかなか面白かった」

 それを堪えきれずに笑ってしまった彼を誰が攻めることができるだろうか。

ティナは笑顔でヴァインの肩を掴み、魔法陣を使い、リアンの部屋へ向かった。

 魔法陣による転送も、二回目ともなれば慣れる。到着と同時にリアンがエスクリオスを機械から取り出し、ヴァインへと手渡した。

「……解析不能。その子が嫌がっちゃってね、中を見せてくれないのよ」

 その子とはエスクリオスのことだろう。

 何度機械にかけてもエラーが出てしまうらしく、詳しいことは何もわからないらしい。

「とりあえず、簡単に魔力と魔法について説明するね。まずは魔力」

 椅子を取り出し、座るように促してくれたので、椅子に腰掛ける。

 ティナはいつの間にかいなくなっていた。

「魔力は術者と魔石両方に存在するの、さっきのレイラで例を言えば、レイラ自身のランク――魔力値の階級ね、レイラはC、あの子の魔石はランクAといった具合になっているの。魔石自身のランクが変動することは滅多にないけれども、術者は訓練次第で変動するから、レイラもいずれAランクまで上ることも夢じゃないんだよ」

 理解はできた。難しく考えず、簡単に考えれば、レイラよりも魔石のほうが強いと言う事だ。

「でも、この世界では魔石と術者の総合でランク付けがされるの、レイラのランクはCで、魔石がAだけれども、戦闘では魔法の使い方や戦術も加わる、残念ながら今のレイラではまだ総合ランクCだけれども、もう少し魔法と肉弾戦の使い方を組み合わせれば、Bランクに届くわね。ちなみに、あなたの魔力値はまだ正確にはわからないけれどあの砲撃からするとBぐらいかな? エスクリオスに関しても解析が出ていないから未知数。色々な意味で面白いコンビだね」

 段々こめかみ辺りが痛くなってきた。

 ギリギリ理解できているかな、そんな程度。

「続いて魔法だけれども、これについては教えることができないわね。魔石によって魔力の発現や構成が違ってくるから、それは魔石と一緒に考えてね」

 ここで思考回路はショート。

 また時間があるときにでも整理して考えてみることにした。

「そして、あたしは魔法犯罪者や、依頼を引き受けて任務を遂行する部隊に所属しているの。今はわけあって新人を育てる教官の任務についているけれどもね」

 どちらかと言えば、新人を教えている方が楽しいのだろう。表情がそう言っている。

 リアンから話を聞いていると、直接脳を震わせる声。

 エスクリオスが念話で語りかけてくる。

『ヴァインさん、リアンさんに新人として入隊希望と伝えて下さい』

(あ? 頼みを聞くとは言ったが頼むから少しは説明してくれないか?)

 突然の内容に驚くが、それよりも先ほどまで左手の中で握り締めていたはずのエスクリオスが胸元に戻っていることの方が気になる。

『お願いします』

 真摯な懇願。

 それを断れるほどヴァインの心は冷たくないし、冷たく非情でありたいとも思わない。

「リアンさん、入隊を希望したいのですが……魔法の知識にしても今のままじゃさっぱりですし、リアンさんが新人の教育任務なら、俺も入隊して魔法の扱い方を教えていただきたいです」

 思わず敬語で頼む。

 口調とは裏腹に、自分は多分、微妙な表情をしているだろう。

「そうね……異世界から来たのなら行く場所もないだろうし……でもいいの? あなたの世界とは違って、魔法使いの部隊は女性メインになる場合が多いよ? 男性は力に、女性は魔力にと、バランスがあるから、ほとんどの部隊はあたしたちみたいに女性ばかりの環境になっちゃうけれど……」

「う……」

 言葉に詰まった。

 女性に囲まれた職場、環境と言えば大抵の男は羨むが、実際はかなり溶け込みにくい。

 新人の時期などはほとんど会話もできないほど気を遣い、それだけで精神的に疲れ果ててしまうし、ファーストコンタクトに失敗すればその後の生活は真っ暗だ。小さな頃から女好きで色々とやらかしてきたエリックを見て学んだ。

 それでも――

「まぁ、どうにかなりますよ」

 元より途中で放り出すつもりはなかったのだろうが、入隊云々を申し出てきたのは予想外なのかもしれない。

 顎に手を当て、思案するリアンの表情がそれを物語っているように見えた。


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