表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スリースターズ  作者: カミハル
~決着と真実へ、共に生きよう~
40/51

生まれ変わり

 左腕の付け根から先を護る形でバリアを張り、右手から魔力を開放する。

 掴まれた左腕は、付け根のバリアで保護された先――つまり、胴体部――には一切の衝撃を逃さなかったが、代わりに左腕は全損。

 跡形も無く消し飛んでしまった。

 引き換えに、魔力体であるシュウには、全身に魔力の開放を食らわせたおかげで、程度はわからないが、それなりの魔力ダメージを食らわせることができた。

「くっ…………あぁ……」

 しかし、予想はしていたが、かなり痛い。尚且つ左腕を無くすと言う痛手を負ってしまう。右腕だけでは剣を振るうことも出来ないし、出血は傷口に魔力を集束することで抑えているが、痛みで集中できない。いっそ痛覚神経も遮断してしまえればいいのだろうが、さすがにそういうわけにもいかない。

(魔法は……撃てても二発が限界……俺自身の残り魔力は三割を切った……)

 ここに来るまでに二割、ここに来てからもシュウの集束魔法からの脱出や、攻撃、ダメージ軽減のシールドやバリアで四割の魔力が削られてしまった。

(まさかここまで差があるとはな……この三年間で近づいたと思ったが……)

 それ以上に、遠いところまで離れていたようだ。それでもあの時よりは戦えているが、敗戦濃厚な戦いに絶望を覚えかけた、そんな時――

『お父さん!』

 念話ではなく、空気を振るわせる外部会話。

 エスクリオスの声――

『あたしだよ、エスクリオスだよ? もうやめようよ、どうしてあたしの名前を呼んでくれないの?』

 ――胸が痛い。肉体的ではなく、精神的な意味合いで左胸に激痛が走る。短く息を吐くが、この痛みには抗えそうに無い、正直無くした左腕の痛みの何倍も痛い。

『お父さん! もう……帰ろうよ、ね?』

 右手で胸を押さえ、息を荒らげるヴァインに近づいてくる気配――体勢を整えなければ、そして攻撃の準備を――

「エス……クリオス…………」

 ヴァインではない声。

 目の前の男が発した声に、ヴァインの視線は確かに捉えた。

 シュウと、その腕に抱きしめられた小さな少女の姿を――

「お父さん……お父さん!」

 胸に手を当てると、魔石がない。

 いつの間にか、魔装法衣も解除されていた。

 今までの、虚空を見据える眼差しではなく、しっかりと、父親の眼差しを向け、自分の腕に抱いた少女を見据えていた。今のシュウにはヴァインの存在など頭の片隅にも存在しないだろう。愛しい娘の温もりを飢えた獣のようにその体に感じることだけに集中している。

「エスクリオス……すまなかった」

 娘に詫びる父。

 自分の娘の命を奪い、魔石に変え、三十年という歳月を孤独に過ごさせてしまった。

「いいよ……お父さんにもう一度会えたんだもん、あたしは……それだけで……」

 親子の感動の再会。

 この世界にヴァインを連れてきたエスクリオスの目的は果たされた。

「そして、ヴァイン・レイジスタも……娘が世話になったようだ、合わせて礼を言う」

「片腕吹き飛ばされて礼を言われてもな」

 軽口を叩くことで、左腕の痛みに耐える。

 胸の痛みは、幾分かマシになっていた。

「今まで、ずいぶん悪い夢を見ていたが……どうやら夢ではなかったようだね」

 胸元で泣きじゃくるエスクリオスを優しく抱き上げ、ヴァインに渡す。片腕しかないので、シュウ程優しく抱き上げることはできないが、それでも優しく抱き上げることに、精一杯努めて、受け止める。

「僕の意思で娘を抱きしめるのも、もう限界のようだが……これだけは話しておきたい」

「遺言程度には聞いてやる」

 エスクリオスを魔石に戻し、胸元に押し込む。安定していたシュウの魔力波長が徐々に乱れてきているので、そう長くは保たないだろう。

「生前、僕が持っていた魔石はレア魔石で、魔力を持つ生き物ならば、魔石に変えることができる能力を持っていた。そして三十年前、魔力を暴走させた僕は娘をこの手にかけ、気づいた時には娘は虫の息。苦渋の思いで娘を魔石に変えたが、魔石のルールでは変換した魔石を扱えるのは、生成した本人のみ……」

「知っている、リアンもそれでエスクリオスには何度も首を傾げていたよ」

 体内で自ら生み出した魔石以外を使えば、拒絶反応が起こる。この件で未だにリアンは原因究明に努めているが、解決はおろか、その糸口すら掴めていないのが現状だった。

「僕が生み出した魔石、エスクリオスを使えるのは僕と同じ魔力波長を持つ僕だけ――つまり君は僕の……」

 魔力波長は指紋や声紋と同じで、二つとして同じものは存在しない。存在するとすれば、その答えは一つしかない。

「俺がお前の生まれ変わりだと? ずいぶんとぶっ飛んだ推理だな」

 軽口を叩いてみるが、管理界に来て一ヶ月ぐらいした時にエスクリオスが言っていた言葉を思い出す――『あなたなら必ず惹きあうと思ったんです』なるほど、父親の生まれ変わりならば、惹き合うだろう――『あなたからは懐かしい魔力を感じるんです』

 この二つの言葉から察するに、知っていたというよりも、感じ取っていたのかもしれない。転生や生まれ変わりという答えには結びつかなかったのだろうが、似ているというのはそう言う事かも知れない。

「だから、お願いしたい。僕の自我はもうすぐ消え去る。そうなれば君も、エスクリオスもこの手に掛けなければならない、そうなる前に――」

「ほう? ずいぶんと自信過剰じゃねぇか? 失踪した伝説の魔法使いの転生体である俺を、そう簡単に殺せるだと?」

 魔法を覚えて三年足らず、それでも十分な力を得られたのは、ヴァイン自身の努力と天性の魔力値の伸び、そしてシュウと同じ血を引く娘の魔力が詰まった、魔石エスクリオス。   

正直な話、自身の力に慢心したこともあるが、目の前の男を前にすればそんな慢心も吹き飛んでしまう。

 軽口を叩いてはいるが、怖いのだ。

 目の前にいるこの男が。

「強がらなくてもいい、君の持つ全魔力を僕に叩き込んで、それで終わりにしてくれ……嫌なんだ、二度も娘を手に掛けるのは……」

 悲しそうに呟くシュウ。どこか自虐的にも見える笑みを見て、ヴァインは目を閉じた。

(エスクリオス……いいか?)

『…………はい、父の苦しみをここで絶ってあげてください、お願いします』

 胸中で尋ねた言葉に、念話で答えが返された。誰よりも辛いであろう答えを、幼い少女が自分で決めたのだ、躊躇うことはない。

「~~~~~♪」

魔石開放、エンジェルフォームを発動し、突然歌を口ずさみ始めるヴァイン。エスクリオスは、言葉にしなくとも自然とその意志を受け取り、ヴァインの身を魔装法衣で身を包む。

 シュウも突然歌を口ずさみ始めたヴァインに驚くことも、疑問を抱くこともなく、脳内に響く声に抗った。

『何をしている、シュウ・ブレイムス。お前に与えた命令はヴァイン・レイジスタを殺すことだ!』

(うるさい! 遠くで人様を操っていた代償は必ず払わせてあげるよ、僕の娘と、僕と同じ魂を持った男が)

『ふん、娘の声で自我を取り戻したか。だがこの程度の事は予測済みよ』

 尊大な態度で言うと同時、全身の魔力が騒ぎ立てる。

『制御出来ない道具には安全装置をつけるのは基本だ。そのままヴァイン・レイジスタもろとも死ぬがいい!』

(貴様……ゲルゾフ、貴様ぁぁぁぁぁっ!)

 それっきり、脳内に語りかける声は聞こえなくなった。代わりに体内で暴れ狂う魔力が右腕に集中し始める。

「レイジ……逃げ……」

 言葉をうまく紡げない。

 意識が朦朧とする中、シュウは精一杯の力を込めて叫ぶ。

「逃げろ! レイジスタぁぁぁぁぁぁッ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ