教え子に託して
「そうね、本当はまだまだ納得できないことが多いけれど、今はあなたを止めることが先決だから……手加減はしないよ?」
情に流され、セラスを本部施設まで行かせてしまえば、ヴァインにかかる負担が一気に増してしまう。
「魔石開放、ホーリーランド」
この三年、ヴァインの試験を行ったあの日ですら開放したことがない魔石を開放する。
お互い、相手の魔装法衣を見るのは久しぶりだった。
三年前にレイラが着ていた訓練服は、リアンの魔装法衣を模倣して作られている。アクティブな短パンに白い無地のシャツ。
魔石の調整を欠かさないリアンが、唯一触ることのない領域は、この魔石を手に入れた時からのものだから。
「行くよ……セラスちゃん」
「おいでリアン、遊んであげる」
短いやり取りの後、一瞬で互いに距離を詰める。
魔法だけならばリアン、しかし肉弾戦ならばセラスに軍配が上がる。ヴァインでさえも舌を巻く体術の持ち主。
「久しぶりの空中戦! 重心のかけ方を忘れたのかしら?」
リアンに対するポジションを入れ替え、真上から攻撃を仕掛けるセラス。対応できず、両肩を掴まれ、縦回転の投げ技で一気に地面へと叩きつけられる。
背中から全身に駆け抜ける衝撃と鈍痛に、思わず顔を顰めるが大したダメージではない。
砂煙が舞う中、追撃が来ないのを確認し、拡散型魔法を実行、イメージは二つ。
軌道とトリガー。そして叫ぶ。
「シャイニング・ホーリー!」
五つの魔法陣が出現し、それぞれが空中で拡がり、五亡星の端に力を集束し、放つ。
一つの魔法陣につき、五つの攻撃。
計二十五の光線がそれぞれの軌道を描き、セラスに襲い掛かった。
砂煙でこちらの位置を特定されず、集中できるチャンスは今しかない。実戦で使う機会など無いと思っていた遠隔操作型魔法。
それぞれの攻撃の軌道を術者が思考、操作しなければならないため、実戦――特に一対一では使う機会がなかった。
魔法陣の出現時間は三十秒、タイムリミットと同時に、次の魔法を準備し、空中に飛ぶ。
「シェイク・ホーリー!」
空中でシャイニングが着弾した痕跡を確認し、その場所に四つの魔方陣を顕現し、すさまじい勢いの魔力弾を乱射――
「リアン!」
――四方を魔法陣に囲まれ、攻撃にその身を晒しながら突進してくるセラス。予想以上にダメージを与えているように見える。
「ホーリー・ブラスター!」
空中に飛ぶ前に、設置した魔法陣の発動呪文を唱える。
地面からリアンの眼前を通過し、空へ昇る魔法。
力任せなヴァインとは対極のリアンが放つには珍しい種類の攻撃だが、この一撃を食らえば確実に決着がつく、そう確信していた。
しかし、予想に反してセラスは真下からの攻撃を回避。
距離を取り、リアンを睨み据えるセラス。
「凄いね、セラスちゃん……」
おかしい、初撃とニ撃目の魔法はシールドを張れば、完全に防げたはずだが、ダメージを受けている。セラスは防御を捨てた捨て身の戦術をとるような向こう見ずではない。
それに、先ほどから受ける違和感は、セラスの魔力だがそうでない、そんな感覚。
「なるほど……ヴァイン君は知っていたんだね……セラスちゃんの魔力が濁っていること……」
そのせいで魔石が拒絶反応を起こし、シールドにも攻撃にも魔力を注げない。できて魔力の結合を必要としない、魔力の単純開放ぐらいだろう。
小さなため息を吐き、次の魔法を準備する。
肉弾戦のみのセラスならば、対応は簡単だ。
「だからこその魔力ダメージっていうことなんだね……セラスちゃん、すぐ楽にしてあげるからね」
何も言わず、こちらに突進してくるセラス。すでに目が正気ではない。
全身を覆うようにバリアを張り、攻撃に備える。
魔力の篭もっていない攻撃ならば、バリアで十分に対処できる。先ほどの投げのような攻撃を仕掛けてきても、対処法さえわかっていればリアンに致命的なダメージはもちろん、蓄積ダメージを与えることすらできないだろう。
「おぉぉぉっ! はぁっ!」
リアンの周囲を飛び回るように、攻撃をしかけてくるが、そのことごとくがバリアに弾かれ、効果は無い。
狂ったように攻撃を仕掛けてくるセラス。
戦闘で高ぶった感情が、完全な暴走状態に陥らせたのか、先ほどのように会話をする機会はもうないだろう、だから――
「後で謝るから許してね」
――懐に潜り込み、セラスをきつく抱きしめ、囁く。
全身から溢れ出る魔力、地上の木々、空の雲まで吹き飛ばす魔力開放。
負担や消費はでかいが、機動力に優れたセラスに攻撃を確実に当てるにはこれしかない。
「レイジング・ホーリー!」
全魔力を開放し、荒れ狂う力を、抱きしめたセラスに一点集中し、セラスの魔力コアに全力を叩き込む。
それが最後の――決着の一撃だった。
雲も、木も、周囲の魔力粒子すらも消し飛ばした後に残ったものは、澄んだ空気と意識のない親友を抱えたリアンの姿だけだった。
「ごめんね、でもヴァイン君なら必ずなんとかしてくれるから……」
ゆっくりと地上に降下し、地面にセラスを横たわらせる。
本当ならば、草の上に寝かせてあげたいが、周囲数キロは完全な更地と化している。
それに、もう飛ぶだけの魔力も残っていない、ここまでが限界のようだ。
魔法装衣が解除される。
もう、ビー玉サイズの魔力球さえ、形成できそうにない。
「……あたしたちのお仕事はお終い……後はヴァイン君たちに任せて……あたしたちは休もうね…………おやすみ、セラスちゃん」
セラスの横に倒れこみ、意識を失う。
教え子たちに後を託し、二人は小さな寝息を立て、眠った。




