白と黒の親友
本部から少し離れた場所でセラスを待つ。
魔力反応が近づき、接近、そして遭遇。
緑のウエーブヘアーを後ろで結び、鬼のような形相でこちらを睨むセラス。
リアンの知っているセラスの眼光では決してない。彼女とは、魔法学校中等部のころからの付き合いだ。姉のように慕い、共に戦場を駆け抜けたこともある。
しかし、今自分に叩きつけられている殺気は、決して彼女のものであるはずもなく、ましてやリアンが許せるものでもない。
対峙する二人、沈黙を破ったのはリアン、悲しそうな眼差しで一言、呟く。
「当たってほしくはなかったけど……」
「受け入れろリアン」
そこへ、割り込むようにヴァインが到着し、リネスの背後で苦笑を浮かべながら同じように呟いた――
先日、ヴァインが休暇から帰還してすぐのことだった。
通信でリアンとリーディアをブリーフィングリームへと呼び出し、告げた言葉――
「明日、リーディアを俺に変身させ、セラスのところへ向かわせる」
――そう言い、細かい計画を話し出した。
「リーディアが俺に変身し、俺はリーディアに変身し、明日の訓練をリーディアとして受ける。俺に変身したリーディアがセラスと行動を共にする、そしてこの本部から離れる流れになったら常に居場所が分かるように座標を送信し続ける。危機が迫ったり、騙す必要がなくなればコール。すぐティナの転移魔法で移動させる」
こういう段取りだった。
もちろんリアンは反論してきた。ヴァインが来る前からセラスとは親友の間柄である彼女にとっては相当我慢できないことだったのだろう。
「セラスちゃんを疑うと言うのなら正当な理由を言ってあたしを納得させなさい!」
リアンの反応は予想範囲内だった、当然、彼女を納得させるだけの理由も準備済みだ。
「俺もリアンと同じ気持ちだ……残念だよ」
昨夜の一幕を説明し、小さくため息。
予想はしていたが、正直痛恨の極みだ。
「どうしてわかったの?」
「以前にシュウの映像を見たときに強烈な違和感を抱いてな……シュウの映像を一番長く見ていたあんたがそれに気づかないはずがない、にもかかわらず報告はなし、それだけであんたに疑問を抱く理由は十分だろ?」
肩をすくめ、自嘲する。
ただ、それだけのことにも関わらず、気づくのに時間がかかりすぎた。
「で、昨日ラボで会った時、あんた携帯を操作していたよな? 最初は休暇の根回しかと思ったが、俺からシュウ探索の依頼を受けて忙しいあんたに話が行くとは考えにくかった。仮にリアンあたりに聞いたのだとしても、あの隊長二人とリアンが動いているんだ、任務を受けているあんたまでわざわざ動く必要はどこにもない」
無表情のセラス。
思考は読めないが、自分の失態を悔やんでいる様子は無い。彼女が何を想うか――それを知る術はない。
「んで、通信部に頼んで、携帯の通信データを照会してみれば、相手は不明、内容も厳重にロックがかけられて見ることのできない品ときた。決定的なのは会議に行く前、訓練を見学したことだ……確認しに行ったんだろ? 今回の計画で一番警戒すべきはリーディアの変身能力だ。俺の足止めが目的なら、一番注意するところだが……詰めが甘かったな」
なぜ転移魔法のティナにまで気が回らなかったのか。
しかし、映像越しにセラスの魔力を侵食できるとは予想しなかった。セラスから漂う濁った魔力がその証拠だが、それをリアンに言う必要はないだろう、言えば戦えなくなる。セラスレベルの相手にそれは致命的な隙となる。
「俺が確認したいことは済んだ、リアン、一言アドバイスしてやる」
魔力が侵食されているのならば、治療法は簡単――
「全開の魔力ダメージを食らわせろ。そして確保して待機。残りは俺たちが片付ける。あんたはここで目の前の寝ぼけた馬鹿野郎に全力を注ぎこんでやりな」
――ただそれだけだ、セラスの魔力にショックを与える。
ここはリアンに任せればいい、自分は自分の仕事――シュウからの呪縛を根絶する作業をこなすことに集中しなければならない。
翼を羽ばたかせ、その場から離脱。
残されたリアンとセラスはそれを見送ることもなく、再び沈黙。
そして、先に沈黙を破ったのはセラスから。
「さぁ、始めましょうか……リアン」




