開幕の狼煙2
――左耳のドクロ型のピアスが眩い光を放ち、魔力の一部を解き放つ。
咄嗟にシールドを張り、翼で外へ脱出する。ただ、魔石を開放しただけでヘリを操作不能にし、地上に墜落していく。開放時に放たれた魔力の影響で動力部に異常をきたしたようだ。
空中で、地上の山岳地帯へと墜落したヘリの残骸を見下ろす。
そして、ヴァインの少し上空で同じように残骸を見下ろすセラス。
おそらく、レイラやシオンも見たことがないであろうセラスの魔装法衣は、漆黒のマントに身を包み、魔力で形成された刃の大鎌。
その姿はまさに、死神と呼ぶに相応しい風貌と眼光だった。
「……どういうおつもりですか? セラス副部隊長、場合によっては……」
睨み据えるが、セラスは無言。
魔力ランクA、魔石ランクSSのレア指定されている魔石マーダーソウル、総合ランクS+、セラス・テンタロス。
しばらく沈黙の均衡を保っていると、小さな笑い声が聞こえだした。
最初は、風の音かと思ったが違う。
哂っているのだ、彼女が……セラスが。
「場合によっては……なに? 倒すとでも言うの? あなたが? あたしを? あは……あぁっはっはっはっは」
額に手を当て、天を仰ぎ嗤う。
もしも彼女を知る人間がいれば、皆が口を揃えて言うだろう『あれはセラス・テンタロスではない』と……
「確かにあなたの戦闘能力は並じゃないわ、そしてそのあなたがいない本部は、分隊長二人と防衛に追われるリアン、実戦経験に乏しい新人が三人……さて? ここであなたを足止めすればどうなると思う?」
デスサイスを構え、戦闘の意思を示すセラス。それを見て不敵な笑みを浮かべるヴァイン。
確かに、施設本部の戦力では施設防衛は難しいだろう。
レイラ分隊長やシオン分隊長ならば新人三人や部隊のスタッフを避難させ、生存することはできても、施設は間違いなく壊滅するだろう。
そして、彼女のいうとおり、セラス・テンタロスには勝てないだろう――
「ふふ……ははは……あははははは。確かに」
そう、確実に勝てない――あたしでは。
「魔石解除、カゲロウ」
翼の浮遊能力だけを残し、変身を解くリーディアは目に涙を浮かべながら笑った。
騙した達成感と、裏切られたような喪失感に苛まれながら、笑うしかなかった。
「残念でしたわね。あの人、ヴァイン総隊長は本当に凄い人です、あなたの事……誰よりも早く、的確に見抜いていました。ヒヤヒヤしましたわよ? 姿、声は真似できても、仕草や話し方までコピーできませんから。あなたが総隊長の上官でよかった、敬語でも不信感を抱かなかったでしょ?」
目を見開き、歯噛みするセラス。
自分の目の前にいるのは、訓練所にいたはずのリーディア、驚くのも無理はないだろう。
「あたしの変身能力、他人の姿を変えることもできるんです。ヴァインさんに探索任務を頼まれていたあなたは、知らなかったですわよね? だから訓練所にあたしの姿を確認しにわざわざ向かった、ですわよね?」
朝、挨拶に行った時からリーディアは緊張の連続だった。
それこそ、緊張で吐き気などの体調不良を引き起こしかねないくらいのプレッシャーを味わっていたのだ。
そして、その努力は功を成し、セラスを手玉に取ることができた。
すでにリーディアの任務は終わった。あとは――
「勝ち誇っているようだけれど、わかっているの? あなたの機動力では、この場からの離脱は到底不可能。かと言って、あなたの力では物の五分で撃墜。あなたはヴァイン・レイジスタに捨て駒として使われたのよ?」
デスサイスの刃が肥大化し、エネルギーの余波がリーディアの肌を叩くが、笑みを崩すことはない。ヴァインが自分を捨て駒にすることなどあり得ない、それこそ、なにがあっても。
「変身を解除……いえ、それよりもずっと前からあたしはあるものを本部のラボへ転送していました……現在位置、座標を!」
途端、リーディアの足元に魔法陣が現われ、その姿を包み始めた。
「あなたはヴァイン総隊長を連れ出すことと、変身能力持つあたしに拘り過ぎました、一番警戒すべきは転移魔法の術者、ティナさんです。あなたになにがあったか、それを詮索するのはあたしの仕事ではありません、ヴァイン総隊長の仕事です。それでは、ごきげんよう」
言い終えると同時に、その場から転移。
それを追う術がないセラスは小さく舌打ちし、本部の方角へと急いだ。




