アキラとリーディア
どうでもいいが、こいつらは本当に仕事をしているのだろうか。
「んで? 君たち二人は僕をどこへ連れて行ってくれるのかな? うん、ぶっちゃけ期待していないよ。頼むから普通、克つ無難なところで頼む」
休暇のはずなのになぜこんなに疲れるのだろう。こんなに疲れるぐらいならば、休暇なんてもういらない。
「うっす、今日はゲーセンに行くッス」
ゲームセンター。前の世界で、生まれてから数回、売上金を盗みに行った程度で、実際遊んだことはないが、魔法が存在する世界ではどんなゲームが存在するのかが気になる。
「ほう、実に楽しみだな」
興味津々だ。シオンとレイラには悪いが正直、今日の中で一番楽しそうな予感がする。
アキラとリーディアに手を引かれてゲームセンターに向かう――妹か娘を連れて出かける父親か兄貴の心境だ。
到着した場所は、これといった特徴もない普通のゲームセンターだった。
お金を入れて遊ぶ。基本構造は変わらないようだが――
「こっちの世界じゃ、パンチングマシンが流行りなのか?」
パンチングマシンの周辺にできた人だかりに興味を持ち、近づいてみる。
なんの変哲も無いパンチングマシンのように見えるが、機械の前で筋肉隆々の男がサインをせがまれている。
「んで? あれが有名人か? それともパンチングマシンのイメージキャラクターか?」
「さぁ? 自分も久しぶりなのでわからないッス、なにッスかねぇ?」
筋肉隆々のスキンヘッドを見ていると、視線がぶつかった。当然とばかりにこちらへと向かってくる男。
「てめぇ、何見てやがる! 女連れだからって優越感バリバリか!」
近くで見ると、すごい筋肉を搭載している。
あんな拳で殴られれば痛いだろう――痛い程度だろうが。
「いや、上半身裸でスキンヘッドのハゲマッチョがいたら、女連れとか関係なく誰でも見るんじゃねぇか?」
当然、そんな相手に萎縮するはずもなく、ヴァインは挑発的に男の感想を述べた。
暑苦しいと言わないあたりが、ヴァインなりの優しさだろう。
「言ってくれるな……小僧、俺を誰だと思っている? このゲームセンター、パンチングマシンチャンピオンにして、ランクC候補のパコス様だ。次の試験に受かれば小僧など魔法で薙ぎ倒せるほどの男だぞ」
ヴァイン・レイジスタ。ランクS
その名は知られているが、容貌までは知れ渡っていないらしい。ちなみにヴァインの魔法ならば、薙ぎ倒さずに、塵にしてしまえる。
ヴァインの後ろで、アキラとリーディアが笑い合っていたのが気に食わなかったらしい、パコスはさらに食ってかかってきた。
「バカにしやがって……いいだろう、このマシンで勝負してやる! 俺が負ければ何でも言うことを聞いてやろう! ただしお前が負けたら有り金と、後ろの女をいただく!」
「ほう? アキラはともかくリーディアまでご所望か? 明日からロリコンチャンピオンと名乗れ、俺が許す」
ちなみに、ヴァインに悪気は無いし、喧嘩を売っているつもりもない。ごく自然に言葉が出ているだけだ。
「くぅ……ランクCになり、入隊した暁には必ずお前を……」
「ん? お前ランクDだよな? だったら入隊資格条件はクリアしているだろ?」
「年齢制限でひっかかるんだ……」
なるほど、確かDランクは二十歳までのはずだ。魔法使いに大事なのは、魔力よりも発想力。発想力が魔法を具現化させるのだ。
固定概念に囚われた成人では、年齢制限がかかるのも無理は無い。
「そうか、なんか悪いことを聞いた。すまないおっさん」
あからさまな同情の言葉に激昂したパコスは、パンチングマシンに硬貨を投入し、拳を握り締める。
「魔石開放、ラパン!」
魔石を開放し、拳を突く。
未調整のため魔装法衣は元の衣服のままだが、拳に込められた魔力はなかなかのものだった。 記録、五百二十一キロ。
周囲の歓声を聞くに、街中ではCランク候補はもちろんだが、男の身で魔石持ちは結構名誉なことのようだ。
筋肉を盛り上がらせ、アピールするパコス。
歓声やパコスを無視し、硬貨を投入するヴァイン――上がってきた標的に拳を振るう。