休暇準備
その様子を見ていたのは、レイラとシオン。
ティナから睡眠薬入りの飲み物を渡したとの連絡が入ったので、レイラとシオンの二人が様子を見に来てみれば、ちょうどヴァインが眠ったところだった。
さらに様子を見て、寝息が聞こえだしたのを契機に二人が動きだす。
「アキラ、担架を渡せ」
「了解ッス、姉貴」
準備してあった担架を渡され、シオンと目配せし、入室。担架を広げ、その上にヴァインを寝かせる。
アキラの手も借り担架に寝かせ、ヴァインの部屋まで運ぶ。気分はちょっとした人攫いといった感じだが、管理界でも指折りの魔法使いを、このような扱いで移動させるのは彼女たちぐらいのものだろう。
何人ものスタッフとすれ違い、その度に協力させる。ヴァイン以外にはすでに連絡が行き届き、不審に思う者はいない。
色々なスタッフの協力を得て、ようやくヴァインの部屋へ――
「どうしたッスか? 早く入りましょうよ」
――シオンとレイラの足がドアの前で止まる。部隊が新設されてから、ヴァインの部屋に入るのはこれが初めてだ。
二人は意を決してドアを開け、部屋に入る。
意外にも、部屋はきちんと整理されていた――というよりも物がない。
机、パソコン、棚、ベッド、ポットと少しの食器類だけ。
「意外と何も無いッスね」
アキラが短く感想を漏らした。
「昔からごちゃごちゃと物を置くのが嫌いな男だからな。ともあれ俺とシオンでこの荷物をベッドに転がしておくから、アキラはリーディアたちと合流してリアンのところへ向かえ」
とりあえず、アキラは次の作業という名目でリアンのところへ追い出す。
残ったのはレイラとシオン、そして寝息を立てるヴァイン。
男の部屋といえば、汚いというイメージがあったが、昔から寮の自室には物をあまり置かなかったのを知っているので、さほど驚きは無かった。
「さて、ヴァインはこのまま放っておけば朝まで起きることはねぇだろ……って、シオン?」
ベッドの下をゴソゴソ漁るシオン。
彼女が率先してこういった行動を取るのは珍しい。
「ほら……怪しいもの発見」
珍しく表情を浮かべるシオン。
ほんの微かだが口元に笑みが刻まれている。
シオンが発見したのは厳重にカバーをかけられた本数冊とディスク。それと一つの小箱だった。鍵穴があるが、そばに鍵が紐でぶら下げられているので、セキュリティとしての役割は果たされていない。
「ほう……まぁまぁ、ヴァインも年頃だしな」
照れ隠しもあり、多少上から目線になりながらも、レイラが頬を赤らめ、カバーがかけられた本を開く。
――資金調達・取引目録――一ページ目にそう書かれていた。
見なかったことにして本を閉じ、ベッドの下に放り込む。
残り二冊も、部隊設立の書類だとか、面白味の無いものだった。
「こういう物に興味を持つのは正常な証だ。このディスクの中にそういったものが……」
レイラと同じように、頬を薄っすらピンクに染めながら常備している小型映像照射機にディスク情報を読み込ませる。ディスクの読み込み時間がじれったいのか、再生ボタンを連打しているが、それで読み込みが早くなるわけでもない。
部隊戦闘員・訓練スケジュール――これまた色気の無い物だった。
無言で映像を消し、ベッドの下へ放り込む。当然無表情で。
そして、二人同時に、箱に手を伸ばす。
「もう期待しないほうがいいみてぇだな」
「そうだね……僕は少し心配になったよ。ヴァインは正常なのかな?」
そう言いながら、微かな希望を込めて箱を開ける。
中には何枚かの写真が入っていた。
三年前任務に失敗し、三人で喧嘩した後、リアンに仲直りの証拠として撮らされた写真や部隊設立時に全員で撮った写真、アキラやリーディアが加入した時の写真などが入れられていた。
二人は無言で、それをベッドの下にそっと戻した。ヴァインがこういったものを大事に保管しているのが意外だった。イメージ的には「大切な思い出は常に胸の中にしまっておくんだよ」とか言って写真や映像を撮るのを面倒くさいからと誤魔化す印象がある。
「さて……こいつのために明日の根回しを頑張るか」
「そうだね、いつも僕たちが世話になっているようだし、明日ぐらいね」
ベッドで寝息を立てる男を見つめ、二人は部屋を出た。
なにがあっても明日の休暇は確保しなければならない。そう気合を入れて部屋から二人が出て行った後で、少女の声が室内にポツリと響く。
『起きていたらさぞかし喜んだでしょうに……もったいない』