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スリースターズ  作者: カミハル
新人と復習、あれから三年
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試験終了

 この期間の訓練は、間違いなく人生最大のトラウマになる。

 今まで個人でやってきた訓練も十分に過酷だったが、レイラの指導下での訓練はその上を行ったと断言できる。

 新人三人はレイラにこっぴどくやられた。

 訓練とはいえ、レイラ隊長は情け容赦なく攻めてくる。気を抜こうものならば、再試験を受けることができない体になってしまう。

「うし、三十分の休憩だ。水分をとって体ほぐしておけよ。リネス、ちょっと来い」

 レイラ隊長に呼ばれる。

 今では慣れたものだが、最初は自分よりも年下にしか見えない少女に怒鳴られるのは、戸惑いの連続だった。

 しかし、発見したこともある。

 レイラ隊長は、常に眉間にしわを寄せているが、別に怒っているわけではない。

 ただ単に癖というか、生まれつきらしい。

「リネス、いよいよ明日だが、お前ヴァインに勝ったらどうするつもりだ?」

 リネスは答すぐに答えることはできなかった。

 正直、今はあいつを倒すことで頭が一杯で、そこまで考えていなかった。

 悩むリネスに、レイラはヴァインのことを教えてくれた。

「お前、ヴァインと戦ってどう思った?」

 突然の問いかけに、リネスは戸惑うだけで、やはりすぐには答えられなかった。しかし、あの日の戦いを思い出し、答える。

「強かったです、それこそ人間と戦っている気がしませんでした。集束魔法の発動速度から肉弾戦の動き、どんな教育を受ければ男の身であそこまで戦えるのか……才能の差を見せ付けられたようで悔しかったです」

 素直に思い描いた感想を言う。

 レイラは予想通りの答えに、含み笑いを浮かべ、悪戯っぽい表情で教えてくれた。

 公式には語られることの無い、情報。

 魔法や魔石が存在しないはずの世界から、前触れも無く管理界に突如現われたことや、ヴァインが孤児であり、盗賊団のリーダーであった事。

 懐かしむように語りだすレイラの表情は、いつになく優しい表情だった。

 そして、前の世界で魔石エスクリオスとヴァインが出会ったあの日――本来ならば、ヴァインはあの日に死んでいたはずだと言う事を――

 いっそ、そこで死んでくれていれば、ここまで苦しむこともなかったろうに、今頃はもっと違った人生を歩めていたかもしれない。   

父と幸せな日々を――

「その時、魔石がヴァインに問いかけをしたらしいんだ、望みはなにかって。あいつは『仲間を……家族を助けてくれ』って答えたんだとさ。あいつが思う家族の概念はバカみたいに広くてな……三年前も、上層部がシオンや俺の戦力を利用しようと動き出したのを察知して、そんな奴らから――もしかするとヴァイン自身の目的のついでかもしれないが、俺たちを護るために完全独立部隊、スリースターズの発足企画から運営までを手懸けてくれたんだ。要はあいつが今の俺たちの居場所を作ってくれた立役者ってわけだ」

 大まかに、ヴァインが部隊を作ったという話は魔法使いならばほとんどの者が知っている。管理界のいずれかの部隊に所属することを目指す者や所属する者ならば、ヴァインに憧れを

抱く者も少なくないが、それ以上に悪い噂もあるのも事実。

 ヴァイン・レイジスタに関わると出世できない。

 極悪非道の冷血漢、訓練中に何人もの部下を死なせたとか言う噂は今も絶えない。

「あはは、話が長くなったな。つまり俺が言いたいのは、あいつがお前の父親を殺したとは簡単に信じられないんだ。本当の両親や家族は知らないが、家族の大切さを一番知っているあいつがそんなことするようにはどうしても思えない」

 この時は、仲間を擁護している程度にしか受け取らなかった。

 ヴァイン・レイジスタは不倶戴天の敵。

 リネスの頭には、ヴァインを倒す。その一点しかなかった。




 ――結局、リネスは撃つことができなかった。

 魔装法衣を解除し、空を見上げた。

 これで良いのだと、自分に言い聞かせる。

 それを確認し、シオンが高らかに宣言し、問う。

「リネス・エミリシスタの勝利だ。これで明日からヴァインと組むことになる、だからこれが最終選択肢だよ。受け入れるか、辞退するか……君の自由だ、誰も咎めない」

 ここで辞退を選べば、二度とスリースターズのメンバーと会うことはないだろう。そして、ヴァインが父を殺した真相も、手に入りかけた自分の居場所や仲間を手放すことになる。

 ならば、悩む必要はない。

「明日から、正式にヴァイン・レイジスタ総隊長のチームに加入させていただきます」

 その答えを聞いて、アキラが後ろから抱き着いてきた。共に同じ部隊へ加入できたことが嬉しいらしい。

 シオン隊長も、レイラ隊長も加入を喜び、優しく迎え入れてくれた。

 父を亡くした日から孤独に訓練を続け、その目的を果たし、新しい居場所も手に入れることができた。

「まぁ、ヴァインがお前の親父さんを殺したかは自分の目で見極めるんだな、とりあえずリネスとアキラはリーディアを連れてリアンのラボへ向かえ。リアン部隊長が待っているはずだ。シオン、一緒に行ってやってくれ」

 無言で頷き、リーディアを肩に担ぎ歩き出すシオン隊長。アキラもそれに続いて歩き出したので、自分も思わずついていった。




 いくつかの足音が遠ざかる。

 正直、地面に倒れているのも疲れてきた。

 本当に眠ってしまいそうで――

「おい、起きろ。もう誰もいないぞ」

 ――睡魔に負けてしまいそうになる間際に聞こえたレイラの声。

 一応気配を探るが、本当にレイラだけのようだ。

「おう、悪いな。このまま放っておかれたら本当に寝ちまうところだったぜ」

 思いっきり伸びをし、立ち上がりコートの汚れを払う。

 仮想空間とはいえ、寝不足の体に、太陽の陽射しは堪える。

「んで? どうして負けたんだ? ずいぶんとおかしな魔石の調整をしているじゃねぇか」

 どうやらレイラにはお見通しらしい。シオンもわかった上で、人払いの役目を引き受けてくれたのだろう。この二人にはずいぶん気を遣わせてしまったようだ。

「あのままリネスが俺を殺すようなら、魔石のコアと魔力構成を完全に破壊し、二度と魔法を使えなくするつもりだったよ。そうならないために、お前のチームにリネスを預けて新人たちを一緒に訓練させたんだ」

 レイラのチームで他の二人も含め、共同で訓練を積めば、何らかの心情変化が起こることを期待していたが、結果的に預けたのは正解だったようだ。

「唯一の誤算はお前の仕事が丸々俺のところにきたって事だな。魔石の調整作業が大幅に遅れたよ」

 あの日、ヴァインが魔石に施した細工は二つ。一つは翼のデザイン変化。翼に魔力を集束させるエンジェルフォームに切り替えた際の翼を、ボロボロに汚れた翼に変更し、倒されたふりにリアリティを加える。

 もう一つは二重シールド。

 体に膜のようにまとわりつく魔力シールドと敵の攻撃を止める通常シールド。リネスが打ち砕いたバリアの下にもう一つのシールド。 

これが執拗な攻撃に耐えうる装甲の正体だった。欠点は魔力の消費が倍になるのと、常に魔力を放出しなければならないため、実戦では使い物にならないので普段は使用することができないことぐらいだろう。

「で、極めつけはこれだ」

 エンジェルフォームを切り替え、ブレードフォームにチェンジし、真っ青な刀身の大剣をレイラに見せてやる。

「魔力破壊のみに特化させた武器、こいつで魔石を斬られれば中の魔力を根こそぎ食らう代物だ。こいつを食らえば魔法使いとしての人生は終了。使わずにで済んでよかったよ」

 魔装法衣を解除し、のんびりと立ち上がる。

 長い面接試験がようやく終わった。

 そんな感じだ。

「しかし、あいつらの評価を改めなきゃいけないな……二重シールドを貫いて何発か直撃した……メテオ・インパルスを防がれたのも予想外だし、あいつらはまだまだ伸びるぞ」

 笑いながら言うが、実際に少し危なかった。

 事実、ヴァイン自身も軽い手当てが必要な程度には負傷している。

「とりあえず、歓迎会の企画でもしますかね」

 しかし、負けず嫌いなヴァインは負傷したことを口に出さず、軽口を叩き、訓練所を後にした。





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