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スリースターズ  作者: カミハル
新人と復習、あれから三年
19/51

決着

「上等だ。御託はいらねぇ、さっさとかかってこい!」

 後衛に回ったリネスの銃口に魔力が集う。

 集束魔法に力を込め、照準を合わせる。

 前衛のアキラが拳を振りかざし、ヴァインに向かっていくも、片手でいなされ、できた隙にトーキックを叩き込まれ、吹き飛ばされるが、後ろからレイラに変身したリーディアのハンマーが襲い掛かる。

 それがリネスの狙っていた隙。

 チャージし、待機させていた集束魔法の照準を、リーディアの攻撃軌道に張られるであろうバリアの出現ポイントに発射。

 両手の銃から射出された二本のビームがヴァイン目掛けて放たれる。一本の軌道はバリアの出現ポイントへ、もう片方のビームはヴァインの足へと軌道を描いていた。

 予定通り、リーディアの攻撃はバリアによって受け止められる直前、別方向から襲い掛かるリネスの攻撃によりヴァインのバリアを打ち破り、リーディアの攻撃がヴァインにヒット。もう一つのビームも弾かれることなく直撃した。

 倒せないまでも、ダメージは与えたはず。

 多くの木々を薙ぎ倒し、吹き飛ばされたアキラが遠目に砂煙を見つめる。

 リーディアもその様子を眺めているが、リネスは第二射をスタンバイし、煙が晴れる前に発射。攻撃の手を緩めるつもりはない。

「アキラ、リーディア! 攻撃の手を緩めないで。あたしがバリア破壊の長距離砲を撃つから、二人は至近距離から追撃!」

 第二射射出後、第三射もスタンバイ。

 前回戦った経験と、レイラからのアドバイス。殺す気で戦ってもまだ足りない、追撃できるときは徹底的に叩き込め。そう教えられた。

 アキラとリーディアも近距離から魔法を放っているが、これ以上は地形がもたない。すでに山の上半分が消し飛んでしまっている。

「ストップ! 全員距離を取って待機」

 二人に指示を出す。

 今回に限り、リネスが指示役に任命されている。元々リネスの試験なのだから当然と言えば当然だが、リネスの指揮は的確だった。

「リネス、これだけやれば勝ちッスよね」

「当然ですわ。これだけの過剰攻撃を受けて無傷でいられる人間なんているはずがありませんもの」

 相変わらず楽観視する二人とは対照的に、リネスは無言で攻撃着弾点を見つめていた。

 そして――

「二人とも、飛んで!」

 ――リネスの掛け声と同時に、砂煙から数十の魔力弾がリネスたちに襲い掛かった。

 何発かをバリアで弾くが、なんと重いことか。連続で受ければ間違いなくバリアが砕けてしまう。

「二人とも散って! 多方向からの攻撃に切り替えて、被弾したら無理せず後退し遠距離魔法攻撃に切り替えて対応」

 回避して逸れた弾丸はそのまま消え去らず、軌道を変えて別方向からリネスたちに襲い掛かる。魔力操作が難しい遠距離操作型の魔法。

 それに気づき、すかさず回避。

 アキラとリーディアもそれの回避に努めるのに精一杯で、とても攻撃に手を回せそうにない。

「くっ、まずい!」

 バリアの強度が限界に近づき、砕ける――その寸前、ヴァインが操る魔法弾が霞みのように消滅。

 不審に思い、上空を見上げると、巨大な複数の魔法陣が出現し、魔法陣のそれぞれが強大な魔力を集束している。

「まずい! 全員、シールド全開! とびっきりでかいのが来る!」

 魔法陣が宙で拡がり、白い翼を羽ばたかせたヴァインがこちらに殺気を叩きつけ、叫ぶ。

「メテオ・インパルス!」

 空を覆うほどに巨大な魔法陣から射出される無数の砲撃が地上に向かって叩きつけられる。

 その一つ一つが必殺の威力。

 中途半端なシールドは砕く。

 回避行動を取れば爆風で吹き飛ばされ、いずれは直撃する。

 合計十数本の攻撃を終え、空から地上を見下ろすヴァイン。砂塵で様子は窺えないが、新人レベルではこれで終了だろう――

「詰めが甘いですよ、総隊長」

 ――油断したヴァインの死角から飛び出したリネスが、笑みを浮かべながら背後を取った。

 リネスのガンズフォームは三種類。

 遠距離の貫通射出、中距離の炸裂射出、そして――

「言ったでしょ、この間の借りは返すって」

 ――近距離の散弾射出。

 両手の銃から放たれる何十発の魔力散弾。

 至近距離からの全弾命中。翼が薄っすらと焦げ、ボロボロになり落下していくヴァイン。

 さっきの攻撃は本当に危なかった。

 リーディアがヴァインに変身し、全魔力を注ぎ込んだ広域シールドを形成してくれなかったら本気で全滅の可能性があった。リーディアは能力の限界を超えたと言う事で、地上でダウンしている。

 飛翔能力のないリネスがヴァインのいる位置まで飛ぶには、一人の力では不可能。アキラの協力があって初めて可能な攻撃。

 単に地上のアキラが、リネスを空中に放り投げてくれただけだが――それでは地上に落下したヴァインへの追撃は誰がするのか――

「アキラ! いったわよ!」

「クラッシュ・ノヴァ!」

 ――地上で待機していたアキラが、右手に全魔力を集結させ、落下してくるヴァインの背中を蹴り上げる。素早く蹴り足を地面に戻し、えびぞりになったヴァインの腹部に打ち下ろしの一撃をぶち込む。拳からヴァインの背中越しに、地面にクレーターを穿つ威力で魔力が射出される。魔力の衝撃が内臓にまで伝わるアキラのとっておきだ。

「リネス!」

 滞空中のリネスに呼びかけ、飛び退く。

 空中では集束魔法のチャージを終え、落下を始めたリネスが照準をヴァインに合わせトリガーを引く。

 空気の壁を突き破る一撃。ヴァインに、襲い掛かる砲撃を回避する術があるはずもない。

 ヴァインの体が、地面に叩きつけられたと同時に放った一撃。受身行動、もしくは地面に叩きつけられた衝撃を食らった隙狙いなのだから防御手段も回避手段も取れるはずがない。

 地面に大穴を穿つ攻撃――同時に、地上へと着地したリネス。

 アキラもリネスも魔力を使い果たし、地面に膝をついている。今の一撃が、リネスとアキラ、二人の全力全開、持てる全ての力。二の矢は無い、これで倒せていなければ――負けだ。

 二人が見守る中、ゆっくりと砂煙が晴れ、姿を現したのは、ボロボロの翼が地面に流れるように力なく垂れさせたヴァインの姿だった。

「勝った……ッスか?」

 アキラが信じられないと言った表情で呟く。

 無理も無いだろう。姉から聞いたヴァイン・レイジスタは、人間というカテゴリーに分類してもいいのだろうか。そんな疑問さえ抱かせる逸話ばかりだったのだ。

「勝った……みたいよ……」

 リネス自身も未だに信じられないようだ。

 リネスもこの一週間でヴァインの話は嫌と言うほど聞かされていた。

 全てが眉唾物の話だったが、結果としてヴァインに勝つことができた。

 これでリネスの祈願は成就された。

 この二年間の苦労が、ようやく報われた気がした。

 しかし、リネスの戦いはまだ終わっていない。無言でヴァインに近づき、頭に銃口を押し付ける。

 気是ルしたリーディアを抱き起こそうとしていたアキラが静止の声を上げようとするが、すかさずシオンがそれを止め、レイラがその様子を見つめていた。

 トリガーを引けば、全てが終わる。

 震える手の動きが銃身を伝い、銃口に現われる。リネスが躊躇っているのは誰の目から見ても明らかだ。

 自分でもわかっているぐらいなのだから。

 今ここでトリガーを引けば、もう父の夢を見ずに済むかもしれない。

 もしもこれが、一週間前ならば撃てた。

 断言できる。ならば今撃てないのはなぜだろう――




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