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スリースターズ  作者: カミハル
新人と復習、あれから三年
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足取り

 父が殺されたあの日。

 あの男は父の左胸に手を当て、その心臓を砕いた。

 父に護られていたあたしを抱きかかえ、あたしの唯一の家族を奪った。

 恨んだ、憎んだ、そして自分を叩き上げた。

 血反吐を吐くまで一人孤独に訓練し、世話になっていた孤児院も飛び出し、あいつへの憎しみを忘れないように孤独な境遇に身を置いたりもした。

 そして、挑んだ戦い。

 手も足も出ずに、完膚なきまでに叩きのめされた。それも僅か数分で――

 せっかくあの男に接近するため、自分の幸せすら放棄したのに。エリート街道まっしぐらの部隊勧誘もあった。

 それでもあの男の部隊に入りたかった。

 復讐のために――しかし、それも終わった。

 目を開くと、自分を見下ろす少女。

 自分よりも年下だろう。

 気づけば、自分の頬を涙が伝っていた。

「思ったよりも早く目が覚めたな。ずいぶんボコボコにされたが、どうだ体の具合は?」

 自分より年下の癖にずいぶんと口が悪い子だと思ったが、渡された缶ジュースを受け取り、改めて少女を観察する。

 怒っている様子は無いが、眉間にしわを常に寄せている子なのだろう、笑えばかわいい顔なのにもったいない。

「さて、面接結果だが仮合格らしい。一週間の研修をうちのチームのアキラやリーディアと一緒に受けて、その後再試験。ヴァインと再戦だ」

 仮合格。その言葉が手も足も出なかった相手との戦いを思い出させた。

 勝てる気がしなかった。

 一発の攻撃も当てられず、かと言って相手の攻撃を回避することもできず。思い出すとまた涙が出てきた。

 今までの訓練が全て無駄だと言われたようで悲しくなった。

「安心しろ、三番星分隊長であるこの俺が一週間であのバカをぶちのめす算段を立ててやる! 大船に乗ったつもりで任せろ。大丈夫、あんな鬼畜外道くらい、楽に倒せるまでに叩き上げてやるぜ!」

 その言葉でようやく、この少女が、チーム隊長であることに気づいた。

 隊長クラスなら信頼できる。

「お願いします! あいつを倒せる力を……力を授けてください!」

 藁に縋る気持ちで頭を下げた。

 目の前の少女は、嬉しそうに腕を組み、胸を張って、任せろと高らかに笑った。





 携帯端末でセラスに音声データを送る。前の世界で言う携帯電話のようなものだ。

 最初は扱いに戸惑ったが、宙に照射されるホログラフパネルの操作にも慣れた。

 送信した内容は、今期の部隊予算が確保できたと言う事。評議会などから、この部隊に予算はほとんど回してもらえない。ではこの部隊はどうやって運営しているのか。

 前の世界での盗賊経験を活かし、違法な取引現場から資金を奪う横取り屋みたいなことをして生計を立てている。

 他の部隊とは違い、厳しい規則もないスリースターズは他の部隊や組織に敵が多い。

 そんな理由から予算をほとんど回してもらえないため、ヴァインが資金を集めている。

 部隊設立費用を稼いでいるのもヴァインだ。

「で? シュウの足取りが掴めたらしいな」

 三年間足取りが掴めなかったが、最近手がかりが見つかったと報告があり、セラスに頼んで会議に出席する時間をシュウ探索に割いてもらった。

『ええ、うちの次元管理界の管轄外世界で魔道石を蓄えていたらしく、それでつい数日前その世界が自壊したって情報が入ったわ』

「そうか、忙しい中すまないな。引き続き探索を頼む」

『ちょ――ちょっと待って!』

 通信を切ろうと、パネルに指を当てる直前、セラスが慌てた様子で待つように言ってきた。

 なぜだろう、嫌な予感がする。できるならば無視して切ってしまいたいが――

「なんだ?」

『レイラが一週間の間、新人研修で忙しいらしいから、あの子の仕事データを転送しておくわね、重要書類もあるからよろしく』

 それだけ言うと、通信を切られた。

 直後に、データ受信のコールが鳴り、確認。

 仕事量を見て愕然とする。

 とりあえず、そのデータを後回しに、エスクリオスの調整を続ける。

 一週間後の再試験に向けての調整だ。

 すると、モニターに再び文字が表示される。

『相変わらず、ずいぶん変わった調整をしますね? まともな調整法を知っていますか?』

 言われて苦笑を漏らす。

 確かにここ最近、まともな調整をした記憶がない。

「まぁ、何にしても一週間後が楽しみだ」

 レイラのような快活な笑い声を上げ、調整用パネルを叩く。これほど調整が楽しいと思うのも久しぶりだ。

 しかし、先ほど転送された業務データを再び確認し、大きなため息が漏れ出た。



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