事件の真相
二年前のあの日、俺は次元航行ターミナルの救出作業に参加していた。
火災原因は知らないが、下層は火の海。火勢も相当なものだった。
何人の人間を外に放り出した頃だろう、ターミナルビルの外壁から上層目指して飛んでいたらエレベーターに取り残されているおっさんがいたんだ。
「おい、大丈夫か? 今すぐ下に連れて行ってやる」
そう言って蹲ったおっさんの肩を掴んで飛ぼうとしたら、そのおっさんは女の子を抱えていたんだ。二年前だから十四歳か。あんな非常時だ、気を失っても仕方がねぇよ。
別に二人を連れて飛ぶこともできたんだが、父親は思いの他重傷だった。火から娘を護っていた代償だろう、折れた肋骨が肺に刺さって呼吸もままならない瀕死の状態だ。
声の代わりに空気が漏れるような音しか聞こえないが、胸にしがみついた娘をこちらに渡そうと振るえる手で差し出してきたんだ。
俺は娘を受け取った。
娘には傷一つ、ついていなかったよ。あのおっさんは娘を護りきったんだ。
「おっさん、望むなら楽にしてやるが……どうするよ? 首を動かすだけでいい」
あの怪我じゃ飛んで救出しようにも動かすことすら無理で、その場で楽に息を引き取るか、苦しみながらわずかでも生き延びるかを選ばせたつもりだった――
「そうか……安心しろ、あんたの娘は俺が必ず護り抜いてやる。だから安心して眠れ」
魔力を手に込め、父親の左胸に当て――
「と言うわけだ。気を失っていると思って安易に行動しちまったのが仇になった。書類を見た瞬間に何か引っかかっていたんだが、面接のときにはっきりしたよ」
自分のベッドに腰掛け、先ほどの訓練でリネスをボコボコにした理由を述べた。もちろんその説明でリアンが納得するはずもない。
「それで? その話とさっきの一方的な攻撃の説明は?」
「ああ、あいつが面接の時にその火災事故の単語を聞いて目の色変えたからだよ。その色を見る機会が多いからすぐにわかった。あれは復讐に固執した人間の目だった。そういうわけで、渇入れの意味も込めてボコボコにしてみたってわけだ」
軽く言うが、もちろん予定通りだ。
エスクリオスの調整は面接用に破壊力よりも魔力ダメージを重視した調整で、リネスの肉体に重い傷は一つもないはずだ。せいぜい地面を転がった時の擦り傷、打ち身くらいだろう。
「そうだな、そろそろ目が覚める頃じゃないかな? レイラに面接方法を聞いたら実技試験オンリーって聞いたからな、改めて威力を下げた調整にしてみたんだ」
携帯を取り出し、レイラにメールを打つ。
リアンは納得したような、そうでないような微妙な表情だが、大まかな事情と理由さえ理解してもらえれば拘る理由はない。
あとはレイラに任せることにしよう。