面接開始
心臓の鼓動が早くなり、頭が真っ白になる。
「はい、どうぞ」
今の声が上ずっていないか気になったが、気にしている場合ではない。書類を手に取り、面接の雰囲気を出そうと努力する。
入室してきた少女は写真と同じ容姿だった。当たり前だが。
「あ、座って。いくつか質問するから気楽に答えてくれればいい」
「はい」
緊張した様子もなく、はっきりと答える。
逆にヴァインの方が緊張している位だ。
「まずは自己紹介を頼む」
「リネス・エミリシスタ、総合ランクBの年齢は十六歳です。部隊への入隊経験はありません。今までも他の隊や組織への勧誘はありましたが、この部隊に入りたく今日まで訓練を積み重ね、ランク昇格試験を受けながら鍛錬してきました」
スラスラと噛むこともなくはっきりと答えられ、何か負けた気になったが、とりあえず気になる点を尋ねてみた。
「ええと? 一年前から募集かけていたんだけれど、それまでずっと訓練を?」
「はい、一年前から願書を出していたのですがご連絡がなく、本日急に連絡があり喜んで参上しました」
冷や汗を流し、リネスの書類に目を通す。
書類の提出日が一年前――そう言えば女だらけと聞き、書類に目すら通していなかった。
「うん、応募者多数でなかなか順番が回らなくて……うん、本当にごめん」
心から詫びる。罪悪感で胸が一杯だ。
とりあえず質問を変えようと必死で考える。
「なぜ俺のチームを志望した?」
「過去の武勲を聞き及び、憧れたからです」
過去の武勲と言われ、少々照れる。
憧れとか言われたのも初めての経験だ。
「実戦経験がないようだが、うちの部隊は最前線の切り込み隊だけれども大丈夫か?」
「シミュレーターだけでなく様々な訓練や経験を積んできました。至らないところは多いですが最大限の努力をします」
「過去の武勲と言ったがどの事件だ?」
「……次元航行ターミナルの火災事故です」
リネスの目が変わった。
それは微かな変化だったが、ヴァインはそれを見逃さなかった。そしてその目には見覚えがあった――何かを決意した者の瞳。
「ふむ、それじゃこれで面接は終了だ」
その目を見てしまったからには仕方が無い。どうやら先ほどの調整を無駄にせずに済みそうだ。
「二次試験を行う。訓練所まで着いて来い」
そう言って、同行するように告げ、部屋を出る。黙って着いてくるリネスを確認すると、ポケットから携帯を取り出し、リアン、レイラに実技面接を行う旨を伝え、試験の立会いをメールで頼んでおく。
そして訓練所に到着し、リネスを魔法陣の上に立たせるが、緊張とは違うまた別の気配。
敵と対峙した時と同じ、異質な魔力のうねりを感じる
(本気で俺を殺すつもりで来る気だな……魔力の波状が実戦さながらの歪みを生み出してやがる)
胸中で呟き、シミュレーションを展開。自然公園をフィールドに選び、広さは五キロ四方。そこへリアンたちが来たのを確認し、ヴァインもシミュレーター内に入る。
すでに戦闘体勢を整え、殺気を放つリネスに不敵な笑みで宣告しておく。
「さて、ちょいと手加減なしで行くぜ?」
ヴァインの宣告と同時に襲いかかるリネス。ヴァインは相変わらずの不敵な笑みを浮かべながらそれを迎え撃った――
そして、約十分後――
「レイラ、終了みたいだから至急救護に向かってちょうだい」
「ああ、わかった」
レイラに指示を出し、リアンは携帯で治癒魔法が使えるティナに連絡とる。
指示を受けたレイラは急いでシミュレーション内に入っていった。
シミュレーション内では薙ぎ倒された木と、粉々に砕けた噴水やベンチ、公園の中央では魔装法衣はもちろん、肉体的にもボロボロになったリネスが地面に身を横たえていた。
「だから言っただろ? 手加減なしだって」
冷ややかに見下ろし、冷たく吐き捨てる。
レイラがこちらに向かって駆け寄ってきた。
立会いに呼んでおいて正解だったようだ。
「レイラ、こいつを介抱しておけ」
それだけ言い、二人に背を向け立ち去る。フィールドから出ると、リアンが不満そうな表情と咎めるような眼差しでこちらを見つめていた。
じっと見つめられ、そのまま無視しようかとも考えたが、さすがはリアンと言ったところだろう。変な強制力を感じ、立ち止まってしまった。
「ちゃんと話しておく必要があるか……ちょうどいい、俺はこれから自室に戻るから着いてきな、説明するよ」
背後でレイラに介抱されるリネスをちらりと一瞥して、リアンと共に訓練所を後にした。