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スリースターズ  作者: カミハル
新人と復習、あれから三年
14/51

面接官、ヴァイン


 たくさんの書類。

 たくさんの顔写真。

 うんざりだ。

「なぁリアン、本当にこの中から選ぶのか? 全部女だよ? 女性だよ?」

「何か不満でもあるの? みんなかわいい子ばかりだよ? 成績も優秀だし、実際会ったことのある子もいるけど、性格もよかったよ」

 ヴァインが言いたい事をわかっている上で言っているのだろう。

 新人教育部隊に入隊したあの日から三年経つが、ヴァインはあのままの服装でもまま変わっていない。唯一変わったといえば、髪を切り短髪になった事と総合ランクSを取得した事ぐらいだろう。ランクSを取得するまでにも様々な苦労や逸話があるが、今はそんなことどうでもいい。

「あのな? 俺はお見合い相手を探しているわけじゃないの、わかるよな? なんで男いないの? 俺は男を求めているの」

 聞き様によればずいぶんと危ないセリフだが、ヴァインが求めるのは男の相棒。

 レイラやシオンは相棒兼部下を決めているが、部隊設立から一年経った今でも、ヴァインは相手を見つけられず一人だった。

 それを見かねたリアンはこうしてヴァインに相手を紹介しているわけだが、やはり魔法戦の能力や魔力に優れているのは女性らしく、男の志願者は未だに現われない。

「三年前にも言ったでしょ? 女性に比べて男性は魔力値が低いの。よほどの身体能力が無い限り、魔力に優れた女性に勝てる男性はそうそういない……ってヴァイン君は例外ね」

「わかってるよ……でもな、毎日女に囲まれてりゃ精神も擦り切れちまう。どれだけ周囲に気を遣って生きていると思ってやがる」

 とは言うが、実際は自由気ままに生きている。新部隊で女だらけの寮生活も入寮一カ月で慣れたし、言うほど不便ではないが、何の遠慮も要らない男友達が欲しいと思うのも無理はないだろう。

 男友達がいるにはいるが、みな部隊の役職で年上ばかり、できれば同年代がほしかった。

 自分の年齢は知らないが、十代後半から二十台前半の友達希望。

「うんうん、ヴァイン君が言いたいことは十分わかったよ……はい」

 笑顔のリアンに手渡された一枚の書類。

 リネス・エミリシスタ、十六歳、ランクB。

 そう記入されていた少女。リーディアよりも短く、黒いショートヘアーに黒い瞳、ヴァインの眉がピクリと動いたのをリアンは見逃さなかった。

「好み? 手を出すのはダメだよ?」

「ち……違うわ!」

 慌てて反論するが、気になったのは事実。

 別に好みとかそう言うわけではないが、とりあえずリアンの薄気味悪い笑顔が勘に障るので、話を変えておく。

「入隊経験無しでランクB……才能か、それともよほどの頑張り屋さんか、なんにせよ興味深い素材ではあるな」

「……本当にソレ方面での興味は無いんだね、つまんないの……じゃ、とりあえず一時間後にブリーフィングルームに来てもらうから、準備しておいてね。もたもたしない、フルダッシュ!」

 物凄く残念そうな表情のリアン。

 なにがそんなに気に食わないのか、コピーした書類を渡され、研究室から出て行くように促された。というよりも、追い出された。

 面接をしろと言われても、経験がないのでどうしたものかわからない。

 仕方がないので、面接経験者に聞きに行くことにした。

 目的地に辿り着き、ドアをノックする。

「おう、入れ」

 中から入室を許可され、ドアを開ける。

 そして視界に入ったもの。

「えっと? 君たちは一体何をしているんだ?」

 腕立て伏せをする青髪の少女と、その上であぐらをかきながら幸せそうな表情でココアを啜るレイラ。ここ一年でずいぶんと表情のバリエーションが増えたものだ。

 訓練の一環らしいが、どう見てもただのいじめにしか見えない。

レイラのパートナーは部隊設立と同時に決定した。青髪の少女はレイラの妹らしいがヴァインから見れば彼女たちの日頃の訓練は、訓練というよりも虐待――もしくはいじめにしか見えないものばかりだった。

「ヴァイン総隊長、どうもッス。見ての通り姉貴に訓練つけてもらっているところッス」

 器用に腕立て伏せをしながら、呼吸を乱さずに挨拶する少女を見下ろしながら呟く。

「アキラ、今度訓練って言葉を辞書で引いてみろ。お前の思う言葉と絶対に違うから」

「ヴァイン、わざわざ何の用だ? 乙女の部屋に来るならばそれなりの用意とか、主に土産とか何かあるだろ?」

 三年前から何一つ変わらない姿のレイラ。

 身長も伸びる気配がない。妹に身長でかなりの差をつけられていることには触れないでおく。

「土産なら用意しているよ、毎晩お星様にお前の身長と胸が成長しますようにと全身全霊を込めて願い続けている。効果はないがな」

 適当に答えながら、レイラの机から辞書を探し出し、腕立てするアキラの目の前に置いてあげる。ヴァインなりの優しさだ。

「よぉし、相変わらずいい度胸だな。ちょっと訓練所行こうか? 久々に勝負しようぜ?」

「遠慮しておくよ、お前との勝負は命懸けだし……それよりも聞きたい事があるんだ」

 適当にいなし、本題に入る。

 時間がない事もないが、あまり長く関わるとリアンあたりがまた変な噂を流しかねない。

 つい最近はシオンと昼飯を食べただけで、スリースターズのスタッフ全員に広がり、シオンと一緒に誤解を解くのが大変だった。

「これから新人の面接なんだが、経験がなくてな。だから面接方法を教えてくれ」

 それを聞いて豪快に笑うレイラ。

 可愛らしい容姿に生んでくれたご両親に謝れと言いたい。せめて可愛く笑ってほしい。

「簡単じゃねぇか、面接に質問もボールペンも履歴書も経歴も関係ねぇ、必要なのは訓練所と己が拳と魔石一つ! それだけで言葉よりも雄弁にお互いを知ることができる。俺たちの時もそうだったよな、アキラ」

「うっす、姉貴との面接は楽しかったッス」

 とりあえず色々とツッコムところが多すぎるが、とりあえず目を細めて言っておく。

「お前、その面接のせいで自分の妹に全治一ヶ月の大怪我負わせたことを覚えているか? つか、姉妹なのにお互いを知り合う必要なんてあるのか? アキラも、楽しかったじゃないよ。実の姉に面接で半殺される妹なんて全世界探してもお前らぐらいだよ」

 冷ややかに言っておく。これで何度目だろう、同じ事を言うのにも飽きた。たまには違うツッコミを入れたいものだ。

「はっはっは、まぁそう言うな。新人が決まったら紹介してくれ、楽しみにしてるぜ」

 今日は上機嫌らしく、いつもよりも眉間のしわが少ない気がする。

 荒れ模様にならぬうちに逃げた方が得策と、二人に上辺だけの礼を言い、部屋から出る。

 実践する気はないが、一応覚えておく程度に留めておこう。

 シオンにも聞きたいが、あいつは今遠くの会場へリーディアと行っているはずだ。リーディアのレア魔石、カゲロウの変身能力が無ければ役立たずの筋肉姉妹を投入したものを。

 悔しさに歯噛みしつつ、リアンのラボへ戻る。面接までまだ時間はある。

「リアン、魔石調整するのに機材借りるぜ」

 入室と同時に言ってみるが、誰もいない。

 ちょうどいい、集中して調整できる。

「リジェクト」

 エスクリオスを取り出し、魔石を機械に投入し、調整を開始する。

 三年前からエスクリオスのセキュリティは変わらない、ヴァイン以外の者が調整をしようとすると、エラーが出るのも変わらない。

『変わった調整をしますね?』

 モニターに表示される文字。

 ヴァインも思わず苦笑を漏らしてしまった。自分でもおかしな調整だと思う。

「まぁ、殺し合いじゃないんだからたまにはこんな調整もいいだろ?」

 数字を打ち込み、最後に決定キーを押す。

 これで調整は完了、面接時間ちょうどになりそうだ。

 機械からエスクリオスを取り出し、胸元に押し込みブリーフィングルームへと向かう。

 面接まで後十分。少々早い目に到着したあたり、緊張しているのは否定できない。

 待機中に様々な面接パターンを考えるが、やはり経験の無さが効いている。

 そこへ、ドアがノックされた。


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