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スリースターズ  作者: カミハル
新人と復習、あれから三年
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三年後


 照明が落とされた部屋で、モニターに映し出された文字の羅列。そのモニターの前で司会役の男が助手に書類を配らせ、配り終わったのを確認し、司会役の男がマイクを握る。

「皆さんに行き渡りましたね? 本日の議題は一年前に新設された部隊、スリースターズです。この部隊の設立理由は各世界の犯罪者の捕獲や取締りがメインで、少数精鋭の強みを生かし、軍部が動き遅れた際の切り込み先行部隊と言う名目で設立されましたが、設立から一年。仮設立から正式運用に移るための許可申請をどうするかです」

 モニターの表示を切り替え、部隊図が表示される。

 部隊長にリアン・ノーティスを据え、副部隊長にセラス・テンタロス。その下に三組のチームが所属している。

「この組織の胆は、チームの総隊長であるヴァイン・レイジスタです。ご存知の通り訓練部隊への入隊も含めて、わずか三年で総合ランクSまで上り詰めた異例の魔法使い。過去に挙げた功績もかなりの物ですが、各組織から彼に対して不満の声も上がっています」

 司会者が説明する前に、不満の声が会議に集まった組織の責任者たちから上がる。

「飛行許可も取らずに街中をブンブンブンブン飛び回るから真似をする隊員が急増して困るんだよ! うちは反対だね。ヴァイン・レイジスタも所属隊員も除隊処分にするべきだ!」

「うちも同じ意見だね。この男が任務をこなす度に建築物が破壊されて建築部は苦情殺到だよ! これで部隊が正式運用されたらうちの隊員は過労死してしまう」

 もちろん、他にも批判の声が上がるが擁護する声も上がっている。

「うちの環境部は、密猟者の取り締まり関連でヴァインちゃんに助けられているわよ? いいじゃありませんか、部隊の正式運用。建築部の方の言うことももっともですが、悪いところだけでなく、いい所もあるはずですよ」

「確かにそうだ。あいつや他のチーム隊長がたまに俺のところに戦闘訓練の指導に来てくれるが、ありゃなかなかのもんだぜ、軍部の鈍ったへなちょこよりもあいつらの方がよっぽど役に立つだろうぜ」

 豪快に笑う戦闘課の教官。

 実際、彼はヴァインと交友がある。多かれ少なかれヴァインを慕うものや護ろうと動く者がいる。それだけの時をヴァインは積み重ねてきたのだ。そうでなければ、新設の部隊などとっくに叩き潰されているだろう。

 会議の席には緑色の髪をした女性、セラス・テンタロス。

 彼女は終始、無言で手元の書類を見つめていた。まるで我関せずといった態度で――

「色々な意見が飛び交いますが、意見はございますか? セラス副部隊長」

 ――セラスは首を横に振ることでそれに答えた。

 無表情で感情の色を表さない、絵画のように張り付いた表情。

 会議に出席している者たちの議論は徐々にヒートアップし、収拾がつかなくなった会議はその場で今回も結論が出ないまま終了となった。

 その中で、誰よりも早く席を立ち、無言で退室するセラス。

自分が所属する部隊の議題なのに興味を示した様子もなく、早くその場から立ち去りたいと言わんばかりに早足で通路を歩く。

「お待ちなさい」

 それを知ってか知らずか声をかけてくる者。

 環境監査部、フィリス・ノアニール部長。

 セラスは相手を確認し、無表情でその場を去ろうとするが、フィリスはセラスの肩を掴み引き止める。

「セラスお嬢ちゃんから話は聞いているわよ、『用事があり欠席します。代役に部下をよこしますので』って聞いているわ」

 言われて、初めてセラスの表情が緩む。

「そうですか、失礼いたしました」

 変身を解除し、本来の姿に戻る。

 レイラに匹敵する小さな身長と、ピンクの肩まで伸びたショートヘアー。真っ白いドレスに身を包んだ少女は、丁寧に一礼した。

「代役で出席させていただきました、リーディア・ファンディアです。総合ランクDの未熟者ですが、どうぞよろしくお願いします」

「あらあら、礼儀正しい子ね。ついでにヴァインの坊やから『どうせ偉そうな説教ばかりで大変だろうから飲み物でも奢ってやってくれ』って言われているのよ、せっかくだから食堂で何か飲みましょうか、今日の会議は批判的な内容ばかりで大変だったでしょう?」

 リーディアの頭を優しく撫で、歩き出す。

 環境監査部の部長という立場にありながら慈愛に溢れた人柄は、多くの人に尊敬されるに足る人物だ。

「いえ、胸くそ悪くなる会議と言うのはうちのチーム隊長から聞いていましたのでそれほどでもありません。それよりも会議でうちのチーム総隊長にも味方がいることに驚きました。四面楚歌を地で行く嫌われ者だとばかり思っていたのですが、一応誰かに愛想を振りまく程度の解消は持ち合わせていたようですね」

 丁寧な言葉遣いの裏にどす黒いものを感じ、さすがのフィリスも一歩引く。

「リーディア、ご苦労だったね」

 そこへ、タイミングよくシオンが現われた。

 巫女装束の少女。リーディアよりも四つ歳上の十八歳だが、あと四年待ってもリーディアがシオンのように成長する気配はない。

 もう一人のチーム隊長レイラも、シオンと同年齢だが彼女には勝てる気がする。戦闘面では及ばないが、肉体的成長の意味でならば。

「フィリス部長、いつもうちの総隊長がお世話になっています」

 和服のシオンと、フリフリドレスのリーディアは対称的と言えた。大人びた風貌のシオンと、十四と呼ぶには幼いリーディア。

「いえいえ、お宅の総隊長には色々お世話になっているから。しばらく見ないけどヴァインちゃんは元気かしら?」

「ええ、相も変わらずです」

 二人して笑い合う。この二人はリーディアが知るよりも、色々なヴァインを知っているようだ。

 入隊して三ヶ月のリーディアはよく知らない男のことを尋ねてみた。

「ヴァイン総隊長ってそんなに凄い人なのですか?」

 リーディアの質問に、シオンとフィリスは顔を見合わせ、声を揃えて答えた。

『いずれわかるよ』


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