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スリースターズ  作者: カミハル
成長と出会い、流れで喧嘩
12/51

魔石のお願い


 シュウに首を絞められ、宙吊りの少女。

 何度もお父さんと呼びかける少女と、涙を流しながら少女の首を絞めるシュウ。

そして、手刀で娘の胴体を貫き、淡い光に変える。血が一滴も流れてないあたりがリアリティに欠けているように感じた。

 少女が消えた後、慟哭を上げるシュウ。どれぐらい叫んだか、シュウの視線がこちらを向いた。

 そして、一言『娘を頼む』

 それが自分に向けられた言葉なのかはわからない。しかしその一言の重みは十分に理解できた。

 そして、シュウは自らの手刀で自分の左胸を貫いた。

 地面に倒れた体は淡い光に姿を変え、光がその場に留まり、蠢く。

 光はやがて人の形を成し、シュウと同じ姿に形づいた。

 先ほどのシュウとは違い、狂気を湛えた瞳。

 悲しみではなく狂喜の咆哮。

 そこで、夢から目覚めた――



 全身に包帯を巻かれ、自室のベッドで横になっていた。ご丁寧に着替えまでされて。

「さて、ここは自分の部屋で自分のベッド」

 枕元に置かれた携帯の存在に気づき、日にちを確認。任務を受けてから三日経過していた。

『おはようございます、ヴァインさん』

「ああ、おはよう」

 エスクリオスの声に短く答え、ゆっくりと起き上がる。

 包帯で治療されるほどの怪我を負っているわけではない、これなら日頃の訓練で受けた傷の方がよほど重傷だ。

「さっそくだが、あいつは何者だ? お父さんと言うのはわかっている、それ以外でお前の知ることを全て教えろ」

 いつもの服に着替えながら、尋ねる。

 不機嫌という訳でもないが、妙にモヤモヤした気分だ。

『あの人は人間ではありません。一度は死にましたが、強大な魔力だけが残り、人の形を成しました。魔力体のお父さんは魔力を補充しないと消えて無くなります。そのために大量の魔力が封じ込められた魔道石を集め、生き永らえているのだと……』

 現段階でわかることはそれだけらしい。再戦を挑もうにも、居場所がわからない。

 着替えを手早く済ませ、寝癖を直す。

 髪型などの身なりを気にしたのは久しぶりに思えた。

「とりあえずリアンの所へ行くか。お目覚めの挨拶と、情報収集だ」

 解いた包帯をゴミ箱に捨て、部屋を出る。

 普通に動く分にはなんの問題もない。

 途中で何人かの女性スタッフとすれ違うが、いずれも目を逸らし、挨拶もなく行き過ぎる。

、敬遠されているというよりも、気を遣われているように感じた。

 リアンのラボへ到着し、ノックもなしに入室。予想通り、リアンがパネルを操作していたので、おはようとだけ告げた。

「ようやく起きたみたいだね、三日も寝たままだったから心配したんだよ? 具合はどう?         

 痛いところは?」

 駆け寄り、心配してくれるリアン。

 訓練の怪我には一言も触れてくれたことがなかった気がするが、今だけは忘れておこう。

「ああ、問題ない」

「よかった、ティナが治療してくれたんだよ。ありがとうね、ティナ」

 いつの間にか背後に立つメイド服の女性、ティナに礼を言うリアン。

 ティナはヴァインに向かって微笑み、その場から消えた。余談だが、彼女は世界で少数の転移魔法の使い手らしい。

「それで、任務の件だが……」

「ああ、任務の報告ならレイラとシオンに聞いたよ。詳しい情報を聞きたかったけれども、三人が倒した所属不明のヘリから現れた敵は、救助隊が駆け付けた時にはその場からいなくなっていたそうだよ……それにしてもこっぴどくやられたみたいだね、二人とも悔しがっていたよ?」

 それはそうだろう、子供扱い以下の、空気にも思われていないような、いわば眼中にないと言うやつだ。

「あの二人は?」

「訓練所にいるよ、あれからずっと三日間訓練所に篭もりきり、セラスもあたしも止めたんだけれど聞いてくれないの」

 口調と表情から察するに、本気で何度も止めたのだろう。その上で聞き入れてもらえなかったから好きにさせている。そんな感じだ。

「んじゃ、俺も行くかな。あの二人が荒れているのにも慣れたが、放っておいたら本気で殺し合いでも始めかねない」

 不敵な笑みを浮かべながら軽口を叩き、ラボを後にする。

 リアンも特に止めなかったところをみると、お手上げと言う事だろう。そんな状況の二人に会いに行くのだから、自分も物好きなものだ。

 一歩踏み出し、訓練所に近づくにつれて漏れ出した魔力の気配が体を叩く。

 この部屋の結界をもう少し強化しなければ、そう遠くない未来にビルごと崩壊しそうだ。

「さて、怒り狂うお姫様たちにご対面っと」

 訓練所のドアを開け放つと、そこは三日前の夜と同じ状況だった。

 中心に据えられた大型コンテナ、ヘリ、雨。

 全てが同じ環境、屈辱の夜そのまま。

 違いがあるとすれば、地面が砕け、強大なまでの魔力が空間を揺るがしていることだけ。

「おぉ、派手にやってるなぁ……」

『パーティーに途中参加するような軽いノリで言わないでください』

 視界に二人の姿を確認、見れば魔装法衣はボロボロ、至る所から出血し、満身創痍だ。

 二人の衝突が部屋を揺るがしているが、ビル自体に影響はない。

 これがリアンとセラスだったら、今頃間違いなくビル自体が倒壊しているのだろうが、無力化のシールドはある程度の役目を果たしているようだ。

「魔石開放。エスクリオス」

 魔装法衣に身を包み、翼を羽ばたかせ、二人の中点へ降下。左右から飛んでくるレイラのハンマーと、シオンの斬撃を受け止める。衝撃が全身に響いて痛い。

「邪魔するな! けが人は引っ込んでろ!」

「いくら君でも……斬るよ?」

 三日間の眠りから覚めてみれば、浴びせられた言葉は叱咤と恫喝。どうも自分は先輩に恵まれていないらしい。

「こりゃ、リアンが手を焼くのも無理はねぇな。三日も経ったってのにいつまでもピリピリと殺気立ちやがって」

 二人の武器を弾き、距離を開ける。

 三者、均等の距離を取る形で対峙。

 無言で睨み合う三人、最初に口火を切ったのはレイラだった。

「軽く言いやがって……お前やシオンと違ってなぁ! 俺は何にもできなかったんだぞ! 一歩も動くことができず、身動き一つ取ることもできなかった! ガタガタみっともなく震えて、援護どころか魔力も構築できず、飛び去るのを黙ってみているしかできなかった!」

 いつもどおり、怒った表情で悔し涙を流すレイラ。こういう時ぐらい悲しい表情を浮かべればかわいいものを――

「僕も同じだ……新人が何度も立ち向かったのに、自分はただの一度で……」

 ――こいつはこいつで悔しがっているのだろうが、歯噛みしているおかげでなんとか悔しがっていると理解できる程度。表情に出せばいいのに、なぜ無表情のままなのだろう。

「んじゃ、強くなればいいだろうが?」

 ため息と共に呟いた言葉。

 二人も、そう思ったからこうして闘っているのだろう。

「お前らなぁ、血まみれになって、どつき合いして強くなれるなら苦労しねぇよ?」

 言ってから、ふと気づく。

 この一ヶ月、どつき合いして血まみれになって魔力をコントロールできるようになった。

 それを思い出したら説得力が無いように感じたが、一度口に出した言葉は取り消せない。

「まぁ、言ってわからねぇなら……やるか? 言っとくが病み上がりだからって遠慮する必要はねぇぞ。逆にてめぇら二人仲良くベッドに並べてやるよ」

 両手の手甲を打ち合わせ、挑発。

 レイラとシオンの言っていることもわからないでもない。三日間眠りっぱなしだったせいかヴァイン自身も体を動かしたい気分だ。

「んだと新入り、こんな無愛想なバカと並んでいられるか! もう一度寝たきりにしてやるよ、お前もだ武士女。てめぇの刀へし折って、ただの無愛想女にしてやる!」

 ハンマーに魔力を込め、重心を深く落とし、レイラの闘気が訓練所を満たしていくのを感じる。満身創痍とは思えない迫力だ。

「新人に礼儀を教えなきゃね……ついでにいつまでも背の伸びない子供にも……躾が必要みたいだ」

 素直に挑発に乗ってもらえたようで、刀を鞘に納め居合いの構え。

 三人が口元に一様の笑みを浮べ――

「行くぞ、馬鹿女ども!」

「来いよヴァイン、先輩の力を見せてやる」

「手加減なし……真剣勝負」

 ――ミイラ取りがミイラ。リアンに怒られるかもしれないが、それでも今、この瞬間が楽しいと感じるのならば、それも悪くない。

 三人同時に魔力構成を編み上げ、それぞれの攻撃体勢に移る。文字通り手加減なし、三人は同時に攻撃行動に移った。

 それぞれの強さを身につけるために。

 それぞれの想いを仲間にぶつけるために。



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