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スリースターズ  作者: カミハル
成長と出会い、流れで喧嘩
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シュウ・ブレイムス

 筋肉質な男。ピチピチの皮製品の衣服で身を包み、ボサボサに伸びた髪。どこかヴァインに似た男は、ヴァインたちに目もくれず、コンテナへと歩を進める。

「シュウ・ブレイムス…………!?」

 シオンとレイラが驚愕の表情を見せる。

 威圧感も慣れてきたのか、多少ではあるが楽になってきた。

「知っているのか? 何者だ、あいつ?」

「シュウ・ブレイムス。三十年前、強大な魔力ゆえに暴走し、今の中央軍部を壊滅させ、失踪したはずの魔法使い……男女の魔力構造を無視した無尽蔵とも言われる魔力と戦闘能力、世界最強の魔法使いと呼ばれていた男だよ」

 囁くような口調で淡々と説明されたせいで、緊張感があまり伝わらなかったが、次に聞きたいのはあの男が何者かよりも、なぜここにいるのかを聞きたかった。

 しかし、警戒態勢に入ったのか、話しかけられる雰囲気ではなくなってしまっている。

『………………さん』

 なんだろう、胸の奥から勝手に湧き上がってくるこの感情。

 生まれて始めての気持ち――

「おいヴァイン……お前泣いているのか?」

 目の前にいたレイラが、怪訝な表情で振り向き、ヴァインの顔を覗き込む。

 ――なんだろう。懐かしい、悲しい、喜び、切なさ、色々な感情がヴァインの中で渦巻く。

 言われて初めて気づいた。

 泣いている。頬を伝う涙がそれを教えてくれた。

「なんだ……これ、何で涙……?」

 わからなかった。今までで一番理解できない現象に困惑した。

『お父さん!』

 頭が割れるように痛い。

 エスクリオスの叫びが頭痛を引き起こすレベルで脳内に響き渡った。

(お父さん……お前の逢いたい人って……)

 父親。そう考えれば理解できる、この涙も、エスクリオスと共有するこの感情も――

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

 両手に手甲を装備し、拳を振り上げ魔力を込めて突っ込む。理由はわからないが、止めなければならない。そんな気がした。

「バカ! やめ……」

 レイラの静止の声が終わるまでに、ヴァインの体は宙を舞っていた。

 不可解な力がヴァインの魔力を打ち消し、不可視の攻撃がヴァインを吹き飛ばす。

「サムライ!」

『かしこまりました。ブレードフォーム』

 抜刀した刀に黒い影が包み込むように顕現する。

 吹き飛ばされ宙を舞うヴァインはそれを視界の端で確認した。ヴァインよりも魔力が制御されている分、高い攻撃力を発揮するだろうが、あの程度では無理だ。

 弾かれたヴァインだから解る。

 シオンの攻撃に合わせ、空中で翼を羽ばたかせ軌道を変える。

 シオンの刀がシュウに直撃寸前、再びヴァインが拳を側面から叩き込む。

 しかし、結果は同じ。渾身の同時攻撃も通用せず、ヴァインとシオンは仲良く宙を舞い、受身も取れず地面に落下した。

『お父さん……お父さん!』

 未だ泣き叫ぶエスクリオス。この分だと涙は未だに流れ続けているのだろう。全身に激痛が走り、感覚が麻痺し始めている。

『ヴァインさん、お願いします! お父さんを止めてください……お父さんを……』

「わかってるよ、バカヤロウ!」

 再び地面を蹴り特攻。今度はまともに蹴りを食らい、再び地面に叩きつけられる。

 レイラは倒れたシオンを抱きかかえ、何度も挑み続けるヴァインを見ているが、始めてみるレイラの不安そうな表情。

「や……ろうがぁ……」

 軋む骨や筋肉、全身を襲う激痛。その全てを無視し、震える足で立ち上がるが、翼や魔装法衣、手甲が青い光を放ち、砕け散った。

 それでも脳内にはエスクリオスの泣き声。

 これが止まない限り、ヴァインの涙も止まらない、ヴァインを襲う悲しみの感情も続く。

「止まれ……てんだコラァッ!」

 全ての魔力を注ぎこみ、目の前に魔法陣を出現させ、集束魔法をチャージ。全ての力を込めて――

「止まれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 喉が切れても構わない、そんな叫び。

 奔流と化し放たれた魔法は、リアンに弾かれたものよりも大きく、周囲に強大な余波と放電を撒き散らし、シュウに襲い掛かった。

「エス…………クリオス……?」

 名を呼ぶ声が確かに聞こえた。

 胸を襲う痛みと同時に、ヴァインの魔法が直撃寸前で消失する。

 シュウが掻き消したわけではない。

 エスクリオスが何らかの力を働きかけたというのはわかったが、それを追求することはできず、ヴァインは意識を失った。

 ヴァインが気を失うと同時に雨が降り出し、周囲の砂埃を洗い流すように雨粒が地面と、倒れたヴァインたちを叩く。

 そのままコンテナに大穴を開けるシュウ。

 その大穴に手を翳し、中から銀のアタッシュケースを引き寄せ、力任せにロックを引き千切り、中から紫の魔道石を取り出す。

「くそっ、なんだって魔道石なんだ。寿命が切れた魔石の抜け殻に何の用があるってんだよチクショウ!」

 レイラが叫ぶが、シュウは聞いた様子もなくヴァインを一瞥し、降りてきた時とは逆に空へと飛び立った。

 残されたレイラは、シオンを抱えたまま倒れたヴァインに近寄り、揺さぶるが反応はない。文字通り、死んだように動かないのだ。

 心音や脈を確認するが、震える指と雨音がそれを困難なものにした。

「おいヴァイン! シオン起きろ! おい! …………うあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 何度呼びかけても起きない二人、レイラは自分の無力さを呪い、雨に叩かれながら夜空に、喉よ裂けろと言わんばかりに叫んだ。




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