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スリースターズ  作者: カミハル
成長と出会い、流れで喧嘩
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異変発生

 生まれて初めてだった。

 緊張で胃が痛い。こみ上げてくる何かは多分胃液と呼ばれるものだろう。

 何十の銃口に晒されるよりも、今この状況の方が恐ろしい。

「おいヴァイン」

「何でしょうか? レイラさん」

 自分に声をかけられたことに、心から嫌な予感。

できるならば窓から飛び出して魔石を開放し、翼を羽ばたかせて逃げ出したい。

 今こそ自由の翼が活躍する時だという気がしないでもないが、実行すれば空中で撃ち落とされそうな気がする――いや、撃ち落されるのは間違いないだろう。

「おいヴァイン。何か喋れ、任務前の緊張を解せ、盛り上げろバカ」

 バカは付け足す必要がないと思う。

 いや、バカと百回言われてもいい、むしろ名前をバカに戒名すれば許してくれると言うのならば、喜んで改名しようとさえ思った。

「無理だ。盛り上げて欲しかったらまずは眉間の皺とこの空間に満ちた殺気をどうにかしろ、話はそれからだ」

「先輩への口の利き方をそろそろ本気で教えた方がいいか……あ?」

 ゆっくりと立ち上がり、ヴァインに詰め寄るレイラ。その手をシオンが掴み、静止する。

 いっそ殴られた方がマシだ、頼むから動かないでください。

「任務前に無駄な体力を使うな」

「あ? やんのか?」

「何度も言わせないで、相手にならない」

「ほう……言うじゃねぇか」

 キスでもするのかと聞きたくなるほどの近距離で睨み合う二人。

ヒートアップする二人の会話を聞き流しながら窓の外を眺める。二人が魔石を開放したら本気で止めるか、逃げるかを決めよう。

 そうして、景色を眺めることに終始することを決意したが、視線を上に向け、気づく。

(ヘリが三機……進行方向は同じか……)

 あのヘリが物資受け渡しの関係者だろうと思ったが、レイラが魔石開放に踏み出しそうな勢いを見せたので、仕方がなく止めに入る。

 日頃の行いがいいのか、タイミングよく現場に到着し、事無きを得た。

 レイラに何発か体重の乗った拳を食らうことになったが、この程度で済むならば安いものだ。

 ヘリから降り、最初に見た物は大型のコンテナ、それだけだった。

 当初の予定ではコンテナの受け渡しに立ち会うはずが、あるのは荷物だけ。

 荷物の渡し手も受取人もいない。

「おいヴァイン、どういうことだ?」

「俺に聞くな、むしろ俺が聞きたい」

 次の行動を取りかねた。

 最初の一歩から盛大に躓いた感じだ。

 ヴァインもレイラもシオンに視線を移すが、シオンは黙って空を見上げていた。

 つられて空を見上げると、先ほど見た三機のヘリ。それがこちらに降下してきた。

「魔石開放。サムライ」

 シオンが不意に囁いた。

 シオンの巫女服が真っ黒に染まり、腰に差していた刀の柄に黒く輝く石。

「魔石開放。ソニック・パンサー」

 続くように、開放するレイラ。

 真紅のシャツに短パン、白いショートジャケット姿で、首輪にピンクの石。何度も見たピンクのハンマーが怪しい光を放っている。

「新入り! もたもたするな、様子が変だ!」

 わかっている。

 受け渡しの相手がいない、受取人も。

 あるのは荷物だけ。

 これだけの材料が揃えば、二人が魔石を開放し警戒するのも頷ける。

 しかし、ヴァインが魔石を開放しない――出来ないのには理由がある。

(エスクリオス、どうした?)

 心の中で、エスクリオスに問いかける。

 エスクリオスとヴァインは多少ではあるが感情が同調している為、伝わってくる。

 エスクリオスは何かを感じとっている。

 しかし、エスクリオスは何も答えない。

 そうこうしているうちに、三人を囲むようにヘリが着陸。レイラとシオンが緊張感と警戒心を高める。

 そして、ヘリのドアが開き現われたのは人ではなく、魔法だった。

 三方向からの魔法攻撃。

 リアンやレイラたちが放つ集束魔法ではなく、魔力球を射出する程度のもの。

 レイラとシオンはシールドで掻き消し、ヴァインはそれを余裕で回避。日々の訓練を思い出せば可愛いものだった。

 その間に、一機のヘリから四人の魔法使いが外に飛び出す。

 いずれも顔がわからないようにマスクをして、真っ黒のタイツに騎士甲冑のような武装で三人を囲んだ。

「今の攻撃から推察するに、部隊構成魔力ランクはC程度……冷静に対処すれば問題ない」

 シオンが敵の観察を終了と同時、ヴァインが地面を蹴る。

 魔力が上乗せされた脚力は一瞬で正面の四人に迫り、手足に魔力を込めた攻撃で四人を一瞬のうちに殴り倒す。

 それにわずかな動揺を見せた残りの二組。

 その隙を見逃すはずもなく、レイラ、シオンも左右の敵を一瞬のうちに倒し、あっという間に敵は全滅。

 しかし、レイラとシオンはヴァインを褒めるでなく、責めるために詰め寄った。

「この馬鹿! 何の策も無しに突っ込みやがって、死にてぇのか!」

「無茶はよくない、危険行動は集団にも危険が及ぶ」

 二人の叱責を聞き流す。そんなことよりもヴァインには未だに治まらないエスクリオスの感情の方が気になっていた。

 二人の言葉など耳に入らず、心の中でエスクリオスに話しかけるが返事は――

『気をつけてください』

 ――あった。投げかけられた警告の言葉。

 魔石の開放を告げるでもないのに、背中に翼が現われ、魔装法衣を身に纏う。

 そして、ヴァインにはエスクリオスに理由を尋ねる間も与えられていないらしい。

 空中から三人を襲う威圧感と閉塞感。

 呼吸が苦しい、指先すら動かせない。

 他の二人も同じようだ、喘ぐように喉を押さえている。

 元凶を確認するため、ヴァインが視線を上に向けると、何かが降りてきた。


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