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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

精霊学校のエリートの歪んだ愛

掲載日:2026/03/28

1月中旬、深夜。

とある一人の少女が肩ほどまである自分の髪が振り乱れるのも気にせず石畳で出来た通りを必死に走っていた。

学校の制服はある程度寒さを遮断してくれるが、手袋をしていないせいで、指先は既に感覚がなかった。

「はっ、はっ……っ!?、痛っ……」

石畳につまずいて膝を擦りむく。

息をするたびに冷たい空気によって肺を切り裂くような痛みが走るが、立ち止まっている暇はない。


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こうしている間にも、『あれ』はずっと自分のことを追いかけてくる。

狭い路地に入ってやり過ごそうとしても、何らかの方法で探知しているのか振り切れない。

「はっ、はっ、はぁ〜、!?」

何度目かの路地で、手を誤ったことに気づく。

そこは行き止まりだったのだ。

元の大通りまで戻る猶予はあるか。

しかし『あれ』と鉢合わせたら一巻の終わりだ。

そうこうしている内に、地鳴りを思わせる唸り声が近づいてきた。

そこで少女は逃げ場がなくなったことを思い知る。

たちすくむ少女の前に、ずる……ずる……と湿った音を立てながら『それ』が正体を現す。

それはーー巨大なスライムのような、デロデロとした塊だった。

泥のような体に、ギョロリとした目玉が二つついていた。

「ひっ、いや、近づかないで……!?」

そう懇願する声も虚しく、スライムのような塊が少女を飲み込もうとする。

思わず少女が目をつむった時、闇夜を切り裂くような凛とした声が響いた。

「闇を祓う白き輝きよーー光の精霊、ラズリット、そこの穢れに満ちた魔物を浄化しなさい!」

その声が響いた途端、辺りが白い光に包まれた。

ウォォォォ、と塊の断末魔が響く。

そうしてシュウゥ、という空気の抜けるような音がしばらく続いた後、辺りに静寂が訪れた。

少女が恐る恐る目を開けると、そこには何もない。

「あ、れ……?」

何が起きたのか分からず、呆然と立ち尽くしていると、空から箒に乗った少女と少年がふわりと降りてきた。

月明かりを背に、二人は静かに地面に降り立つ。

そして、箒を持った少女の方が腰まであるストレートの金髪を風に揺らしながら、拗ねたように口を開いた。

「全く……夜中に緊急呼び出しがあったから来てみれば、こんな低級精霊の相手だなんて」

すると少年は箒をくるくる回しながら、

「何言ってんのさ。低級精霊だって一般人にとっては脅威なんだから。穢れた精霊に飲み込まれた人間の跡なんて、見ていられやしないよ」

ただ、と少年は言葉を切り、

「最近穢れた精霊が増えているのは気になるけどなー。リーナ、どう思う?」

リーナと呼ばれた金髪の少女はふんと鼻を鳴らし、

「それを考えるのは私たちの役目じゃないわ。セオドア、ちょっと深入りし過ぎよ」

あはは、と少年は苦笑する。

そうして襲われた少女をほったらかして会話が進んでいっていた。

二人が何者かは分からないが、助けてくれたのは事実だ。少女は恐る恐る二人に礼を言う。

「あの、助けてくれてありがとうございました。それで、あなた達は一体……」

箒を持った少女は、その疑問には答えずこう言った。

「私たちのことは覚えなくて良いわ。貴方が見たものはちょっとした悪い夢のようなもの。今日のことは忘れて、家に帰りなさい」

そうして少女は何事かを小さく唱え、こちらに手を向けると、呆然と立ち尽くしていた少女の目の前が真っ白になった。


◇◇◇

翌日の昼であった。

精霊学校の食堂はお昼を求める学生達でいっぱいだ。

学生たちの周りには、彼らの契約精霊が淡い光となってふわふわ漂っている。

そんな中、リーナは長テーブルの一角でラーメンをすすりながらスマホで何やらチェックしている。

そうしていると、向かいにハンバーグ定食を持ったセオドアが座った。

「お疲れ、リーナ。何調べてるの?」

するとリーナは面倒くさそうにスマホを置き、

「ここ最近で起きた魔物襲撃事件の一覧。どこでいつ起きたのかをリストアップしていたのよ」

「昨日はあんなこと言っておいて、リーナも気になっているんだ」

茶化したようにセオドアが言うと、リーナはプイッと横を向き、

「だって、魔物が増えた原因が分からないと緊急要請が増えて、私たちの自由時間がなくなるじゃない。有意義な作業よ。ラズリットもそう思うでしょ?」

リーナが後ろを見ると、そこには金髪をお団子に結った彼女の契約精霊が静かに立っていた。

ラズリットは表情を変えず、

「そうですね。私としても、仲間が穢れているのを見るのは良い気分ではありませんし、同類を始末する身にもなって欲しいものです。そもそもあなたは他の精霊とも一時的に契約できるのですから、私をこき使う必要はないのでは?」

ラズリットの遠慮ない物言いに、リーナは渋い顔をする。

「そりゃ……魔物祓いはあなた以外でも出来るけど……でもあなたに頼るのが一番確実なんだから。悪いとは……思ってるわよ」

魔物ーーそれは、穢れた精霊を、人はそう呼ぶ。精霊は基本的に正しい手順で契約、精霊界へ解放すれば穢れないが、この世界で解放してしまうと穢れを溜めてしまう。精霊界へ解放する場合、魔力を持っていかれるが、現世で解放した場合は魔力を持っていかれないというメリットがある。そのため、精霊の野放し、魔物化がたびたび起こるのだ。

ラズリットの心情としては、堕ちた同類を見るのは心苦しいのだろう。

ラズリットの心情を慮り、リーナは少し俯く。

「まあ、いくらこき使われようと知らない同類ばかりなのでそこまで気にしなくて良いのですが」

リーナの心配を知ってか知らずか、ラズリットのバッサリとした言い方に、リーナはガックリと肩を落とした。

「っ、ッ〜、あなた、私をからかってるのかしら……?」

「いえ、そんなことは」

契約精霊は表情を変えない。

契約した時から、この精霊は人を手玉に取るのが上手かった。真面目に取り合っているとこっちの気が削がれてしまう。

これ以上問答しても無駄だと判断したリーナは、姿勢を戻し食事を再開する。

そうして向かいを見て、さっきから気になっていたことを聞く。

「そういやセオドア、昨日から思ってたんだけど、あんたの契約精霊はどこに行ってる訳?」

そう、セオドアの周囲には、精霊の存在を思わせる淡い光、もしくは実体がなかったのである。

水を向けられたセオドアは、さらっと答えた。

「ああ、実家で会計の作業をしてもらってる」

「おい」

昨日の戦闘は主にリーナが片付けたが、リーナ一人で手に負えなかったらどうするつもりだったのだ。

リーナはため息をつき、

「まあ、あんたも私と一緒でいざとなれば他の精霊と契約できるから、そのつもりだったんでしょうけど。けど契約精霊にそっぽ向かれないようにしなさいよ」

「大丈夫だよ。リアリーはあまり戦闘が好きじゃないし、それなら僕が実家でやるべき仕事を手伝ってもらった方が有意義だ。リアリーも納得してる」

「納得してるからってその扱いもどうかと思うけど……」

リーナが呆れたように言うが、セオドアは気にした様子はない。

自分の契約精霊を雑用係にしていることに特に罪悪感は無さそうだ。

そうしてセオドアは話題を変えた。

「そういえばリーナ、そろそろレイナの墓参りの時期じゃない?花とか買ってく?」

その言葉に、リーナは少し息が詰まる。

そうして低い声で言う。

「……セオドア、あんたあの時レイナに起きたこと、気にしてないの……?どう考えても不自然な死に方だったじゃない」

リーナの声色が低くなったことで軽口を言いづらくなったのか、セオドアは少し慎重な声色になった。

「気にしてない訳じゃないけど、気にしたってどうしようもないことじゃないか。調べてもどうしようもないことにやきもきするより、レイナの冥福を祈る方がずっと有意義だと思うよ」

リーナは何か言おうと口を開きかけたが、それは言葉にならず黙り込む。

この世界には輪廻転生の概念があり、死んだ人間は精霊に転生するという言い伝えがある。そしてレイナはセオドアの恋人だった。

セオドアが自分の契約精霊リアリーと仕事をすることがほとんどなく、他の精霊と一時的な契約を結んでばかりいるのは、いつかレイナに会えるかもしれないという期待があるのではないか。

リーナはそう考えずにはいられなかった。

ただ、レイナのことについてやけに淡々としているのは前から気になっている。

意図してそうしているのか、契約精霊としていつか会えると思っているのか。

リーナには判断がつかないが、セオドアにレイナのことに関して迂闊なことは言えない。

それに、レイナはリーナの親友でもあった。あまり深入りして彼女との思い出を汚したくない。

と、そこまで思考を巡らせた時、リーナとセオドアのスマホがピーっと鳴った。

魔物出現の知らせと出動命令だ。

リーナはわずかな緊張感を纏わせながらもため息を吐いた。

「はあ、最近本当に多いわね」

リーナのうんざりした声にもセオドアは動じない。

「本当にね。とりあえず残ったお昼を片付けて出動だ」

そうして二人はお昼を片付け、精霊学校を出た。


◇◇◇

魔物の発生場所は、精霊学校の北の方にある峡谷だった。

リーナとセオドアは箒を操り峡谷へ向かう。

「ご主人様、魔物の数も脅威度も高値です」

あらかじめ実体化させておいたラズリットが、表情を変えずに警告してくる。

リーナはわずかに思考し、質問を飛ばす。

「……あなた一人で何とかなる?それとも追加で精霊召喚が必要かしら」

「出来れば増援は欲しいです」

契約精霊以外の召喚は、魔力が多くないと出来ない行為だ。

精霊の実体化と戦闘に使う魔力が足りなければ精霊は消滅してしまう。

しかしリーナとセオドアは、精霊学校でも1,2を争う魔力量の持ち主なので、高位精霊であっても5体程度は召喚可能だ。

リーナはわずかに息を吐き、頷いて追加の精霊を召喚することにした。

召喚は自分の指をわずかに切り、召喚文を唱えると指から出た血が自動的に魔法陣を描くことで行われる。

リーナはあらかじめ持っていたカッターの先で左手の人差し指を刺す。

「悪しき風を吹き払う爽涼の精霊ーシェルン、精霊界より現れ出でよ」

そう呟くと、リーナの手前に魔法陣が広がり緑の髪にゴスロリ調の服を来た精霊が出現した。

ラズリットより小柄で、薄い羽が左右合わせて4枚ついている。精霊というよりは妖精を思わせる風貌だ。

シェルンと呼ばれた精霊はリーナの顔を見ていたずらっ子のように笑う。

「あー、リーナ、久しぶりー。最近召喚してくれないから私のこと使い飽きたのかと思ってたー。まあ、その分精霊界でぬくぬく出来たから良いんだけどー」

「あなたじゃ相性悪い魔物が多かったのよ。別に使い飽きたりしてないわ」

精霊との会話は、基本的に精霊の機嫌を損ねないようにしなければならない。もし機嫌を損ねてしまうと、召喚されるのを渋り余計な魔力を消費させられてしまう。

ラズリットは滅多なことでは気を悪くしないが、シェルンは気まぐれな部分が大きく会話にコツが必要だった。

まるで飴玉を転がすような口調で話すシェルンに、ラズリットが冷静に話す。

「シェルン、中距離に数と脅威度の高い魔物がいます。警戒して下さい」

そう諭され、シェルンは峡谷の方にチラリと目線をやると少しテンションを下げる。

「……ほんとだ。この世界、今までこんなことあったっけ?」

「ないですね。だから警戒して下さい」

ラズリットが警告すると、シェルンは軽口を叩くのを辞めた。

そんな精霊二人の様子を確認すると、リーナはセオドアの方を向く。

「セオドア、アンタも精霊と一時契約しなさいよ。私は威力重視でこれ以上の召喚は避けたい。高位精霊で頼むわよ」

するとセオドアは落ち着いて返事を返す。

「分かってるよ」

そうしてセオドアは精霊召喚をした。リーナと同じく2体だ。

そうして二人は峡谷へと近づき、箒の高度を下げていく。

真下を見ると、不定形でドロドロした魔物が大量発生していた。

そのうちの一匹と目線が合い、リーナは悪寒に襲われた。

即座に契約精霊に指示を飛ばす。

「ラズリット、右下の緑のやつ、速攻で吹き飛ばして!」

契約精霊の反応は迅速かつ的確だったが、相手が一手早かった。

峡谷を流れる川の水を利用した、特大威力の水鉄砲がリーナ達を襲う。

箒を急旋回させ、直撃を回避する。

水鉄砲を打った魔物はラズリットにより浄化された。

しかし脅威が終わったわけではない。

一旦安全な場所まで距離を取る。

ラズリットはこんな時でも冷静に状況を報告した。

「ご主人様、おそらく同程度の脅威度の魔物が10体はいるかと」

「そうね……シェルン、あなたの魔法で吹き飛ばせる?」

話を振られたシェルンはことりと首を傾げ、

「うーん、3体くらいは一度に吹き飛ばせるかも?」

その答えを聞いて、リーナは軽く息を吐く。

「それなら何とかなりそう……ていうか、セオドア、あんたも仕事しなさいよ」

当たり前のことを言ったつもりだが、セオドアからの返事がない。

セオドアの方を見ると、彼はどこか一点に釘付けになっていた。

「……セオドア?、ちょっと、聞いてるの?」

「……レイナが」

「え?」

「レイナがいる」

感情が中途半端に抜けたような声を出すセオドアの目線をたどると、くすんだ金色の泥にまみれた、どうにか人の形を保っている魔物がいた。

「あれが、レイナ……?」

リーナには分からないが、セオドアには分かるらしい。

リーナはセオドアの言うことが信じられず、異物でも見るようにセオドアに視線を向ける。

「何で……何であれがレイナだって分かるの……?」

リーナの異様な視線を受けても、セオドアは全く動じなかった。

「だって、僕がレイナを殺した傷跡があるからさ」

「……は?」

信じられない一言に、リーナは思わず固まった。

状況を把握出来ないリーナに、セオドアはさらに信じられない事実を長々と打ち明けていく。

「リーナは知らないことだけどね、レイナは僕に別れを切り出していたんだ。でもそんなの受け入れられなかった。どうにかなる方法を調べていたら、レイナは精霊になれる素質があることが分かったんだ。だから僕はレイナを契約精霊にするために殺して、この日まで精霊召喚を続けてきたんだ!契約精霊になればずっと一緒にいられる。レイナじゃない契約精霊はいらない。レイナを浄化なんかさせられるものか!」

その言葉に、リーナは違和感を持った。

この日まで精霊召喚を続けてきた。

レイナじゃない契約精霊はいらない。

「まさか、魔物大量発生の原因って……」

リーナが呆然としたように呟くと、セオドアは狂ったように笑い出した。

「あはははは!そうだよ、僕は精霊と契約してはレイナじゃないと分かるとこの世界に野放しにしてきた!わざわざ精霊界へ帰していたら一日に召喚出来る数が少なくなるからね!僕はずっとレイナを探していた!結局レイナと縁があったのは僕じゃなかったみたいだけど、まさかこんなところで出会えるなんて!リーナ、これ以上は浄化させないよ」

「浄化させないって……これ以上レイナを苦しめるつもり!?」

「苦しめる?僕と一緒にいれば苦しみなんて気にならないはずさ!だってレイナも本当は僕を愛してくれてるはずなんだから。彼女は僕のことを愛するあまり、僕を傷つけかねないと思ったから別れを切り出したのさ!僕はそんなの気にしないのに!」

長年の相棒の裏側を知って、リーナは背筋が凍る。

レイナについてやけに淡々とし、契約精霊とまともに仕事をしなかったのはこういうことだったのか。

一つ、推測出来ることがある。

レイナがセオドアに別れを切り出したのは、この狂気の面を垣間見たからではないか。

恋人という距離では、相手の良い面も悪い面も見えるものだ。

セオドアが狂ったように笑い続ける中で、ラズリットがポツリと言う。

「人間の感情というのは……複雑なものですね」

ラズリットの冷静な言葉に、リーナは現実に戻る。

「セオドア……あんた、それがレイナが望んでいたことだと思っているの……?」

セオドアは笑い続けながら、

「ああ、だって僕はレイナを愛していたんだから!レイナだって僕とずっと一緒にいたいと思ってくれていたはずだ!!」

価値観が違いすぎて話にならない。

「っ、なら、レイナを浄化する!」

即座に友人を浄化するという判断が出来たのは、良くも悪くも魔物との戦闘経験を積みすぎたからか。

しかし、

「させないよ」

箒で峡谷へ戻ろうとしたところ、先読みされて行く手を阻まれた。

契約精霊が二人、彼の周囲を守っているが、その表情は複雑そうだ。

さっきの話を聞いて、良い気分がする精霊はいないだろう。

リーナは自分の契約精霊達に尋ねる。

「ラズリット、シェルン。同類を吹き飛ばす覚悟はある?」

返答は迅速だった。

「躊躇なしです。穢れていない精霊は吹き飛ばされても精霊界へ帰るだけですから」

「ふっふー⭐︎同類とのケンカ、久しぶりだけどテンション上がるー」

それを聞いて安心した。

これで躊躇なく戦える。

そしてリーナは指示を出した。

「私はセオドアを狙う。あなた達は周囲の赤いのと緑のを何とかして」

「「了解」」

そして空を切る音がした。

リーナは箒を操り、水球を出しながらセオドアに突っ込む。

「おっと」

水球をセオドアの頭にぶつけようとしたが、華麗に避けられた。

「っ!」

セオドアはせせら笑う。

「リーナ、それ好きだよねえ。愚直過ぎて射線が読めちゃうよ」

箒を急旋回させながら、リーナは風の刃をセオドアにぶつける。

否、そこにはセオドアの姿はなかった。

次の瞬間、背後。

「っ!?」

振り返るより早く、圧縮された空気の塊が背中に叩きつけられた。

「ぐっ……!」

体勢が崩れる。だが落ちない。

箒を強引に捻り、空中で体勢を立て直す。

「ほら、やっぱり。昔からそうだ。真っ直ぐで、分かりやすい」

セオドアは楽しそうに笑っていた。

「セオドア……ッ!」

リーナは戦友に向けるとは思えない敵意を剥き出しにして吠える。

レイナと二人で花飾りを作って笑っていたこと、三人で精霊学校の中庭でお花見をしながら互いのお弁当をつつき合ったこと。

あの日々は嘘だったというのか。

リーナはそれが悔しくてたまらない。

しかし、今は過去の思い出に拘泥している場合ではない。

リーナの契約精霊達に一瞬目をやると、同格だからか相手を撃破できていなかった。

(やっぱり、三対三じゃダメか。ならー)

リーナはラズリットに内部通信である命令をした。

ラズリットはわずかに驚いた顔をしたが、視線で封殺した。

そうしてリーナは中くらいの水球を三つ作り、セオドアに狙いを定める。

その様子を見て、セオドアは呆れたようだった。

「また同じ手を使うつもり?そんなのは通用しないよ」

「さあ?どうかしら?」

そう言うや否や、リーナはセオドアに向かって突っ込む。

「そんなのーー」

セオドアがリーナに気を取られていた瞬間、ラズリットがくすんだ金色の魔物に向けて照準を定め、吹き飛ばした。

「、レイナーー!」

峡谷に向けて叫んだ隙だらけのセオドアに、リーナは突進して水球を浴びせる。

主人を助けようとしたセオドアの契約精霊にも隙ができ、ラズリットとシェルンは容赦なく吹き飛ばした。

呼吸が出来なくなったセオドアはしばらくもがいた後、ぐったりして動かなくなった。


気絶したセオドアはその後、リーナが王宮へと突き出、今までの経緯を説明した。

その後、セオドアは精霊学校を退学処分になった。

そして、殺人と魔物大量発生事件の犯人として王宮の地下牢に幽閉されるらしいとリーナは風の噂で聞いた。

数日後の午後。

リーナは精霊学校の屋上で自分で作ったお弁当を食べていた。

最近は何となく食堂へ行く気がしなくなっていたのだ。

精霊学校でエリート扱いのリーナは畏怖の対象であり、対等に話せる友人はセオドアとレイナだけであった。

お昼を食べ終わり、立ち上がって転落防止の金網の向こうに見える街並みを眺める。

そしてポツリと呟く。

「一人に、なっちゃったわね」

返答を求めた言葉ではなかったが、声があった。

「それは、私たちは友人に含まれていない、ということでしょうか」

「うわっ」

横からラズリットがニュッと出てきた。

「ラズリット……あなた、実体化させてなかったはずだけど」

「高位精霊ですので自力での実体化はある程度可能です。それで、私たちは友人に含まれないのでしょうか」

その言葉にリーナはふんと鼻を鳴らす。

「だって……契約している以上、対等ってわけじゃないじゃない」

「それは単なる思い込みです。私たちは元は人間だったかもしれないのですから、友人という関係だってありのはずです。というのは半分冗談ですが」

「冗談なの……」

リーナが肩を落としているのにも構わず、ラズリットは何でもないことのようにこう口にした。

「この機会に、精霊学校の人たちと関わりを増やしてみてはどうですか?ご主人様がその気になれば友人の一人や二人作れると思いますよ」

その言葉に、リーナは俯く。

「でも……セオドアはあんなだったし、レイナはセオドアと別れようとしてたことを私に話してくれなかった。友達だと思ってたのに」

リーナが珍しくしょんぼりしているにも関わらず、ラズリットはいつもと変わらず話してくる。

「レイナ様は、ご主人様に心配をかけたくなかったんじゃないでしょうか。大切に思うが故の行動だったのかと」

「精霊のあなたが、分かったように言うのね」

「セオドア様の感情の機微は分かりませんでしたが、レイナ様のお考えは推測がつけられる範囲です」

そう言われ、何だか少し肩の荷が降りた気がした。

「そう、言われてみればそうね……私も逆の立場だったら言わなかったかもしれない」

そう答え、リーナは街並みから視線を外し屋上から降りる階段へと向かう。

そうして何かを吹っ切るように契約精霊に宣言する。

「ラズリット、私、今までセオドアとレイナに甘えてばっかりだったけど、もっと精霊学校に馴染めるように頑張ってみる。だから見てて。貴方が側にいてくれていると勇気が出るから」

「はい、ご主人様」

そうして屋上の扉がパタンと閉まる音がした。



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