第4話
視界を焼く白光が弾け、魔力同士の衝突が断界の空気を震わせる。
――だが、押し切れない。
怪異が腕を振るうたび、魔力の糸が引き裂かれていく。
「くっ……!」
次の瞬間、包丁が閃いた。
《ホーンラビット》の一体が、空中で両断される。
断末魔すら残さず、粒子となって霧散した。
続けざまに腕が唸りを上げる。
フライパンが叩きつけられ、
もう一体が地面ごと潰され、消滅する。
リンクを通じて存在が途切れる感覚が走る。
胸の奥が、ひどく冷える。
《ビッグフロッグ》が咆哮を上げて再び突進した。
巨体による圧殺――だが、
八本の腕が交差し、刃が奔る。
巨蛙の腹部が裂け、魔力の粒子が霧の中へ溶けた。
……また一体。
「下がれッ!」
残った角兎たちを退かせるが、怪異の腕は容赦なく空間を裂く。
斬撃の余波だけで、二体が霧散。
地面が裂け、岩が砕け、空気が悲鳴を上げる。
《ストーンゴーレム》が前へ出る。
残された腕一本で盾となり、巨体を盾壁のように構えた。
振り下ろされる包丁。
衝撃。
岩の胸部が砕け、亀裂が走る。
それでもゴーレムは倒れない。
守るために、立ち続ける。
二撃目。
三撃目。
岩の巨体が崩れ落ちた。
砕けた破片が光となり、静かに消えていく。
リンクが途切れた。
静寂。
残るのは――
荒れた地面。
漂う魔力。
そして、霧の怪異。
僕の周囲にいた気配は、もうない。
……全滅。
胸の奥が、重く沈む。
だが。
まだ終わっていない。
ゆっくりと、息を吐く。
「出番だ……」
意識の奥へ沈めていた契約回路を開放する。
熱を帯びた魔力が応答した。
地面に赤い魔法陣が走る。
次の瞬間――
炎のような毛並みを持つ獣が、静かに姿を現した。
《レッドウルフ》。
燃えるような深紅の体毛。
鋭く光る黄金の瞳。
筋肉の収縮一つ一つに、爆発的な機動力が宿る。
Cランクモンスター。
僕の手持ちで、唯一の切り札。
怪異が、初めて動きを止めた。
黄金の瞳と、顔なき虚無が対峙する。
空気が張り詰める。
レッドウルフの喉から低い唸りが漏れた。
次の瞬間――
地面が爆ぜた。
赤い閃光が一直線に駆ける。
怪異の腕が迎撃に振るわれる。
だが。
速さが違う。
残像だけを切り裂き、レッドウルフは側面へ回り込む。
鋭爪が霧の身体を裂いた。
初めて、怪異の輪郭が大きく揺らぐ。
手応えがある。
「いいぞ……!」
だが怪異も止まらない。
八本の腕が嵐のように振るわれ、空間そのものを切断する。
霧が乱れ、衝撃波が走る。
レッドウルフが跳び退く。
地面に刻まれた斬撃の深さが、致命を物語っていた。
一撃でも直撃すれば終わる。
だが、
レッドウルフの黄金の瞳は、闘志に燃えている。
霧の怪異がフライパンを構え直す。
レッドウルフが低く身を沈める。
僕は息を止めた。
次の一瞬で――
勝負が決まる。




