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1分小説~Oneminute

『明日死ぬ人』

作者: わんみに

春樹は大学の帰り道、ふとスマホを見て奇妙な通知に気づいた。見覚えのないアプリ――「LifeCheck」――が、勝手にインストールされていたのだ。




好奇心からアプリを開くと、画面には名前がずらりと並んでいる。そのうちの一つだけは春樹が知っている友人、田中美咲の名前だった。名前の横には時間が書かれている。




「…これ、何なんだ?」




翌日、春樹は美咲の行動を何気なく気にしていた。何も起きないように見えるが、胸の奥ではざわつく感覚を抑えきれなかった。名前が赤く点滅している人は、やがて何かに巻き込まれるのだろうか?




授業を終え、帰宅途中にスマホを確認すると、美咲の名前の横の時間が迫っていることに気づく。胸がざわつく。何も起きないはずだと思いながらも、無意識に美咲の行動を目で追ってしまう。




夕方、駅前の交差点。美咲はスマホを見ながら歩いていた。その瞬間、横から車が猛スピードで突っ込んでくる。




「美咲!」




春樹は声を上げようとしたが間に合わなかった。美咲は避けきれず、跳ねられて路上に倒れ込む。人々が悲鳴をあげ、救急車が駆けつける。




春樹はその場に立ち尽くした。赤く点滅していた名前の意味が、初めて現実のものとして理解される。




「名前が載ったら、死ぬ――」




胸の鼓動が早まる。自分も、いずれ同じ運命に巻き込まれるのではないかという恐怖が、全身を貫いた。




翌朝、目覚めた春樹は胸の奥にざわつく感覚を抱えた。アプリを確認すると、自分の名前が赤く点滅し、死ぬ時間は23:45と表示されている。




「嘘だろ……!?」




田中美咲の名前はリストから消えていた。彼女が現実に亡くなったことを春樹は知っていた。胸が締め付けられる。自分の名前が載るということは、今度は自分が同じ運命を辿るのだ。




朝食もろくに喉を通らない。時計の針を何度も確認し、残り時間を意識するたび、鼓動は速く、手は震える。通学路でも、周囲の人々がすべて「敵」に見える錯覚に襲われ、視線が交錯するたび一瞬凍りつく。




大学に着いても授業に集中できず、黒板の文字も教授の声も頭に入らない。胸の奥に美咲の事故が繰り返し蘇る。




「自分は…どうなるんだ…」




昼休み、友人と目が合うが、声をかけられても返事をする気になれない。笑顔で話す彼らの姿は遠く、不自然に感じられる。心の中で、死の予感が静かに、しかし確実に広がっていく。




夕方、帰り道の街並みも不気味に見えた。信号の青も、通り過ぎる車のライトも、歩道をすれ違う人々も、すべてが自分の死を待ち構えているかのように思える。手の中のスマホは握りしめるたび汗で滑った。




夜が近づくにつれ、胸の焦りは限界に達していた。時計の針は23:30を回り、残り15分。春樹は足早に歩き始め、やがて無意識に走り出す。




視界が狭くなり、周囲の音は遠くに感じられる。鼓動は耳の奥まで響き、呼吸は荒くなる。頭の中はただ一つ、「逃げなければ」という思考でいっぱいだった。




その時、階段を上ってきた人とぶつかった。




「わっ!」




バランスを崩したその人は、叫ぶ間もなく階段から転げ落ちていく。春樹は驚愕で一瞬立ち止まるが、恐怖と焦りのまま、その場を駆け抜けた。




家に帰り、スマホを確認すると、自分の名前がリストから消えていることに気づく。心臓の鼓動はまだ早く、手は震えていたが、春樹はなぜ名前が消えたのか理解できなかった。偶然の出来事が、自分の命にどう影響したのかはまだ分からなかった。




翌朝、ニュースを見た瞬間、恐怖が凍りついた。昨日、階段でぶつかった人物が亡くなったと報じられている。偶然では説明できない現実だった。




春樹は悟った――。スマホに名前が載った人は、他人を身代わりにすると助かるというルールが存在することを。偶然にすぎない出来事が、自分の命を救ったのだという恐ろしい事実に、春樹は震えた。




その後、しばらくは普通の日常が続いた。学校へ行き、友人と話し、町を歩く。しかし、あの夜の記憶は消えない。偶然とはいえ、自分が誰かの死に関与したという事実が頭から離れなかった。




ある日、町中を歩いていると、やけに焦った表情の男と目が合った。男は全身から緊張を滲ませ、突然春樹に駆け寄ってきた。手には包丁が握られている。




「な、なに…!」




逃げる間もなく、男は春樹に迫る。男のスマホの画面がちらりと見え、赤く点滅していた。男はスマホを確認し、にやりと笑った。




「よし!名前が消えた。これで助かった!」




その瞬間、春樹は理解した――。このアプリを持っていたのは、自分だけではなかった。




世界中の人々が、このリストを持っていた。死ぬ時間を知る者は、助かるために他人を犠牲にすることができる。偶然の生還、身代わりの連鎖――その裏では、誰も安全ではない日常が繰り返されていたのだ。

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