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エピソード3から内容修正しています
もし最新話まで読んでくださっている方いたらすみません(2025.3.20 修正)
加害者の運転手もその場で死亡が確認された。七十歳の高齢ドライバーで妻や子供はいなかった。任意保険に入っていなかったため、春野夫妻を含めた被害者遺族らは、加害者の親族相手に損害賠償を求める裁判を起こすことにした。我が子のために戦わなければいけないけない、という同調圧力に押されながらも、春野夫妻は仕事の合間を縫って着々と準備進めた。
最終段階へ差し掛かってきたある日、彼らはこの訴訟から手を引くことを告げた。もちろん全員、彼らを止めた。なぜ戦わないのだ、我が子が犠牲になったのに。ここで逃げたら負けたことになる。やり場のない怒りを尽くぶつけてきた。
春野夫妻は彼らに手を引く理由を伝えた。
「そこまでしてお金が欲しい訳ではありません。何より我が子のためになるとは思わないからです」
当然、他の被害者遺族らも金のためだけにやっているのではないと分かっている。加害者遺族に賠償金を請求することで、我が子を失った苦しみと同等のものを与えたいと思っている人もいるかもしれないが、春野夫妻はこれ以上の制裁を加害者遺族に下すことは無意味だと思った。
実は、秘密裏に加害者とその遺族の財政状況や私生活を調べるよう、興信所に依頼していたのだ。賠償金請求命令が出されたとしても支払える余裕が無ければ滞ってしまう。その場合、無理にでも払わせるべきか判断しておきたかった。
春野夫妻は渡された調査結果を丁寧に読み込む。死亡した加害者は警備会社に勤務しており、事後を起こす三周間前から休みなく勤務をしていた。事故を起こした日は、二十一日連続勤務の最終日。心労からくる心臓発作なのではないかと診断された。なぜこれほど劣悪な労働環境に身を置いていたというと、それは遺族の私生活を読んで納得した。