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エピソード3から内容修正しています
もし最新話まで読んでくださっている方いたらすみません(2025.3.20 修正)
陣痛が始まったのは予定日より一周間前のことだった。幸運にも破水した時、夫が在宅中であったためすぐに救急車を要請してくれた。
夜通しで陣痛と戦った。無痛分娩を選ばなかったのはお腹を痛めて産みたかったから。死ぬかもしれない激痛の果に、小さな命が産まれてくる。聖美は、この痛みと感動を経験できるのは女性ならではの特権だと考えている。
そして、朝日が登ると同時に、あいりは産声を上げた。
「春野さん、よく頑張りましたね。可愛い女の子です。抱っこしてあげて」
聖美は助産師から我が子を受け取る。
「ありがとうございます。あいり……、やっと会えたね……」
腕の中でスヤスヤ眠るあいりをそっと抱きしめた。朋夜は「天使が舞い降りた」と言って、泣いて感動してくれた。
毎晩夜泣きしたり、言うことを聞かず聖美の手を焼くこともあったり、時には母や義父母たちから手伝ってもらいながら、あいりはすくすくと育った。心身ともに健康で、家にいるより外で運動することを好む活発な子どもだった。
「将来はケーキ屋さんになる」
四歳の誕生日に食べたフルーツケーキをよっぽど気に入ったのか、それからあいりの将来の夢はケーキ屋さんになった。画用紙にクレヨンで自分の作りたいケーキばかりを描き、クリスマスには聖美と一緒にケーキを作るなど、両親はあいりの将来を楽しみにしていた。
しかし、彼女の生涯はたった四年で幕を閉じることとなってしまった。
保育園で近所を散歩していた時、心臓発作を起こし制御不能となった乗用車が数名の園児と保育士を巻き込んで衝突事故を起こしたのだ。
遺体は損傷が激しく、聖美は直視することができなかった。ただ、唯一無傷だった左手を見て、この遺体はあいりに違いないと直感的に分かった。顔を確認しなくても、それだけで十分だった。