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エピソード3から内容修正しています

もし最新話まで読んでくださっている方いたらすみません(2025.3.20 修正)

 結婚してもお互い仕事は辞めなかった。厳密に言うと、辞められなかった。聖美が勤務していた病院は常に人手不足のため連続で夜勤に入ったり、休みを返上して出勤したりしてどうにかシフトを組んでいたからだ。自分が辞めてしまうと迷惑がかかると、何とか気力だけで続けてきた。しかし、聖美の精神は限界だった。


 中度の鬱病と診断された。普段抱えていたストレスと尊敬していた父親の死去が重なってしまったのだ。


 それからは治療に専念するため病院を退職。三ヶ月間の療養を経て、別の病院で負担の少ない日勤帯でのパートを始めた。


 それからというものの、家族の支えもあってようやく私生活が安定するようになった。ただ、悩みが全くなくなった訳ではなかった。聖美は先天的な子宮の形態異常により妊娠しづらい体であったのだ。


 同僚たちは当たり前のように子どもがいる。中には七人の子どもを抱える同僚もいた。彼女たちの話題の中心はいつも子育てについて。彼女たちが悪気なく訊く「子ども欲しくないの?」という言葉に苦笑いで返答するのが精一杯だった。聖美も朋夜も子どもが好きだ。特に聖美は親孝行として、母には孫の顔を見せてあげたいと思っているし、経済的にも余裕はある。あえて子なし夫婦を選択している訳ではない。


 だからこそ、政府が親免許制度の導入を検討すると発表した時、春野夫妻は違和感を抱いた。実際、導入されてから「免許を取得したのに子どもがいないのは少し変だ」という固定観念が産まれ、様々な事情を抱える子なし夫婦に対して風当たりを強くしている事実は否めない。


「お母さん、ケーキが食べたい!」


 聖美は桜良の声で我に返る。辛かった過去がシャボン玉のように弾けて消えた。


「はいはい。今持ってくるね」


 冷蔵庫からケーキの入った箱を取り出す。照明が色とりどりのフルーツを艶めかせた。()()()の好物だったフルーツケーキ。桜良もこのケーキが一番好きだと言っていた。


 朋夜がケーキにろうそくを五本立て火をつける。聖美が電気を消し、三人で誕生日の歌を歌った。


「おめでとう、桜良」

「ありがとう。お父さん、お母さん」


 桜良がろうそくの火を吹き消す。最後の一本だけ、風になびくばかりで消えようとしないろうそくがあった。

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