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もし最新話まで読んでくださっている方いたらすみません(2025.3.20 修正)
夕日向の心情は複雑だった。それは、ただ意見が合わないからといった単純な理由だけではい。
信号が赤になったため車を停める。開けた窓から学生たちの笑い声が聞こえて来た。彼らの頭上に桜の花が舞っている。咲く姿もさることながら、散る姿も美しい。だから、あの子の名前に「桜」の字を入れたのだ。ちゃんとご飯を食べさせてもらっているだろうかという心配は、親免許のおかげで杞憂に終わる。分かってはいるが、つい心配してしまうのが親心というものだろう。
*
四月十七日。桜良は五回目の誕生日を迎えた。ダイニングテーブルにはいつもより豪華な夕食が並べられ、彼女の両脇にはいつも優しい養母と養父がいた。
「さくちゃん、お誕生日おめでとう」さくちゃんとは養母が桜良に使う愛称だ。「デザートにケーキも用意してあるから、たくさん食べるのよ」
「ありがとう。お母さん」
「さ、食べる前のあいさつをしよう」
養父である春野朋夜はパンと音を鳴らせて掌を合わせる。
「うん、お父さん」
桜良も同様に小さな手を体の前で合わせた。
「いただきます!」
三人の声が木造一軒家の広々としたリビングに響く。
桜良は好物のハンバーグをフォークで丁寧に切って口へ運ぶ。そして思わず綻ぶ彼女を見て、養母である春野聖美は目尻を下げた。桜良の苦手な人参を細かく刻んで入れておいてよかった。聖美も一口食べてみる。市販のソースではなく、オリジナルのレシピで作った和風ソースは思いの外美味しかった。玉ねぎの触感と少し強めの酸味がいいアクセント。
「私ね、今日一人で一輪車に乗れたんだよ! いつもは先生が助けてくれるんだけどね、頑張ってやってみようって。頑張って練習したらね乗れるようになったんだよ!」
「えらい! 将来はお父さんと一緒にサーカスをやろう」
「うん! ライオンさんとかゾウさんとか、たくさん連れてこないとね」
子どもとの時間を大切にしてくれる夫、無邪気に成長する桜良。今日この日を家族三人で迎えたことは奇跡としか言いようがない。
十八年前、看護師として病院に勤めていた聖美は友人の紹介で朋夜と出会った。自動車部品メーカのエンジニアだった彼は毎日残業に追われ、また聖美も日勤と夜勤を繰り返す不規則なシフト生活を送っていた。そのためお互いの休みを合わせるのに苦労し、直接会うのは月に数回程度。それでも順調に愛を育み、二年後に無事結婚することとなった。