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 夫妻は職員から桜良が縁組に出された簡単な経緯を説明された。産みの親は未成年で娘を出産したこと。出産当時、高校生であったことから経済的な理由によるものだったこと。生後間もなく養子に出されたこと。それを聞いた朋夜は安心した。産みの親の顔を覚えていないことは、自分たちにとって好都合なことだ。


「桜良ちゃん、あいりと誕生日が同じだった……。ただの偶然だとしても、なんか嬉しくなっちゃうね」


 施設を出た後、聖美は言った。幼っぽいそのセリフは紫から紺に染まりいく冬の空へ消えていった。


 朋夜はベッドに腰かけ、聖美の寝顔を見つめる。この選択は間違っていなかったと思いたい。桜良にあいりの影を重ねて、入れ込み過ぎてしまったら……。もし、桜良に何かあったら今度こそ妻は壊れてしまう。カーテンの隙間から細い光が聖美の顔を横切るように差し込んできた。


「おはよう。もう起きてたの? 早いね」


 ぼんやりと窓の外を見ていた朋夜は妻の声で我に返る。


「おはよう。寒くてつい目が覚めちゃった」

「いよいよ今日だね」

「うん」

「今朝ごはん作る?」

「いや、施設に向かいながらコンビニにでも寄ろう。結構時間かかるからちょうどいい」


 外に出るとマフラーの網目を突き抜けるように冷気が皮膚に刺さった。天気予報で大寒波が襲来すると聞いた時、朋夜は他人事のように思っていた。産まれてからこの地域に雪が降った日など数える程度しかなかった。聖美は桜良のために買ったカイロやニット帽を車に積める。「もし寒がりだったら可哀想だから」と言う妻。母親は常に子供のことを想いやり、心配する性分が備わっているのだろう。その反面、そうなるのが当たり前だという常識や価値観を押し付けられ悩んでしまう人も少なくないのかと、朋夜は想像した。桜良の母親は、今も自身の子供を愛しているか。未成年で出産したということは、望まない妊娠だったのか。ハンドルを握りながら、あれやこれやと考えてしまった。

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