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養子を迎えたいと聖美から申し出があった時、朋夜は二つ返事で了承することができなかった。聖美の気持ちは理解できた。子供のいる幸せや親免許を取得することのメリットも。なるべく寄り添い、お互いの意見を尊重しながら生活をしてきたのだから。懸念点は、血のつながらない他人の子を愛せるのかどうか。
詳しい話を聞きたかった朋夜は、交通事故被害者の遺族らから構成された支援団体を通じて「えんの会」を紹介された。えんの会は十五歳未満の孤児を預かり育てている児童養護施設で、特別養子縁組の斡旋も請け負っている。ホームページには「養子縁組成立の推移」と題された棒グラフが掲載されており、一昨年を境に成立件数が急激に伸びていた。親免許の導入が正式に発表されたためである。
朋夜は養子について相談したいと、えんの会に連絡したところ快く受け入れてくれた。
「最近、養子を迎えたいという親御さんが急増していまして……。これも親免許の影響ですかね。中には「補助金が欲しいだけです」と顔に書いて来るご夫婦もいまして、どうしたものかと対応に困ったことがあります。養子縁組制度は親のための制度ではないのに。まぁ、親免許試験に合格されている程の人物ならと、渋々納得する他ないのですが……」
対応した職員は苦笑交じり言った。聖美もつられて笑うしかなった。今となっては、恩恵を受ける資格があるのならもらっておきたいというのは合理的な理由になるのだろう。むしろ無条件で子供を救いたいと高い志を持つ人々はいつの時代もマイノリティである。事前に交通事故で我が子を亡くしていると伝えているせいか、職員は聖美らに寄り添ってくれた。彼ら自身、マジョリティの一員であるとも知らずに。
「ところで、春野さんご夫婦はもう親免許を取得されました?」
「はい、どうにか」
朋夜が答えた。




