11
彼女は聖美に親免許を持つことの利点を熱弁した。強引でお節介な部分はあるが、悪い人ではないと分かっている。免許制度を支持しているのは、彼女のような若い世代が中心なのだ。
「私、親免許制度の導入が決まってから政治に興味持ち始めて。すごくいい政策だと思いませんか? 子ども親も両方救われるなんて」
「そうだね……」
聖美は適当に相槌を打つ。制服からすらりと生えるきめ細かな肌を持った腕。後ろで一つに束ねた艶やかなストレートヘア。これから人生の最も大事な時期を歩もうとする、彼女の全てが妬ましくなってしまった。
「しかもこれ、養子であっても適用されるんですよ。案外知られていないんですけどね。だから、春野さんもぜひ知っておいてほしいなって。それから」
「ありがとう……。考えておくよ」
聖美は話を遮った。もういい、分かった。だから、その瑞々しい唇を私に向けないで。これ以上話されると頭が混乱してしまいそうだった。
笹木は申し訳なさそうに表情を曇らせた。しかし、彼女の口が開く前に、聖美は時計を見て「少し早いけど巡回に行こう」と話を切り上げた。
養子を迎え入れることについては何度か考えたことがある。聖美には兄弟がおらず、母が旅立った後、もし朋夜に何かあれば彼女は天涯孤独になってしまう。もしそうなれば、何を希望に生きていけばいいのかという不安がある。結婚してあいりを産んだことがついこの間のように思えてくる。最初の頃の子育ては大変だけど、子供はすぐ成長しちゃうから。今のうちに可愛がっておきなよ。母の忠告をしっかり守っておけばよかったと、今になって後悔している。
二手に分かれそれぞれの部屋を回り、患者の様態を確認する。キュッキュッと、ナースシューズの裏が廊下に擦れる音が響く。
一人になっている間、聖美は改めて笹木の話を整理した。